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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十二話「闇の宴に」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

四十一話のあらすじ

戦国の世の時代、澳門マカオの聖パウロ天主堂にて、偽司祭ファルソディオにより行われた闇礼拝。それはやはり、ひとびとを扇動し「異教徒は殺せ!」というもので、隣人を愛せよという本当のイエス・キリストの教えとはまったく異なるものでした。

四十二話

「さあ、礼拝は終わりだ。みな、ワインとパンを! そして奴隷女たちに愛の手を!」

ファルソディオが壇上で告げると、赤黒い角を生やした鬼たちに連れられ奴隷の女性たちが現れた。パンとワイン、それを入れるカップを信者たちに配り始める。天主堂のなかは、いかがわしい場末の酒場のような騒々しさに満ちた。

「……ここは聖なる祈りの場ではなかったのかのう? まるで、日の本におったときにわしをさんざんに苦しめた寺の者たちの退廃ぶりと似ておるわい」

「あ、見てください上様! ファルソディオの持っているあれは」

ジョアンがそっとささやく。壇上で、信者たちと祝杯をあげるファルソディオの手には、ワインの入った志野茶碗があった。

「あれは、ノッブが選んだ茶碗だ! あんなに買うのを渋ったのに、気に入ってたんだな」

弥助も憮然とした顔になる。

「良いものと思うても、安く買いたたくのは商人あるあるやけどなあ」

助左衛門が一応、偽司祭のフォローをした。

「でも、ひどすぎるよ、助左くん。最初から気に入ったって言えばいいのに」

「せやな。あのやり口をしはって、あっちこっちの土地で、ええ品物をごっつう安く買ってはるんやろな」

「この礼拝も、ひどいよ! ……イエス・キリストの教えがこんなにも曲がっちゃうなんて」

ジョアンは怒りを通り越し、悲しみを覚えたようだ。

彼奴きゃつをなんとかせねばなるまいのう、蘭丸」

「はい、上様」

「しかし、この信者たちの多さと、魔物どもの多さでは……いかがいたすか」

ワインとパンを奴隷の女性たちからふるまわれ、無礼講のうたげの場と化した天主堂のなかを見やり、信長は思案した。

「さあ! 今日も例のイベントの時間だぞ、みなの者!」

ファルソディオが壇上でどら声をあげると、酒に酔った信者たちがオオッ、と歓声を返した。壇上の逆さの十字架などが片づけられていき、平らな舞台となる。

「ファルソディオ! ファルソディオ!」

熱狂した信者たちが拳をあげてその名を叫ぶ。ファルソディオはバサッと司祭の衣装を脱ぎ捨てて、虎模様のパンツを一丁、履いた以外は裸の姿を現した。恰幅のいい体は、きっちりと筋肉がついている。

「さあ、武闘をやろうじゃないか! 俺に買ったら千金を与えよう!」

オオーッ!

さっそく信者たちのなかから、挑戦者が舞台へ上る。カアン、と鐘の音が響き、ファルソディオとがっぷり四つに組んだかと思うと、あっという間に叩き伏せられた。

「ははは、弱い弱い! 次のやつ!」

そうして上がる、挑戦者たちを次々と倒していくファルソディオ。

「……これは、好機じゃ」

「そうだな、ノッブ。オレが行こう」

弥助が拳を握りしめ、舞台の上に進み出た。

「ん? 奴隷か? ああ、お前たちか」

四人の姿に気づいて、ファルソディオが笑った。

「ファルソディオさん、この奴隷と勝負をしてもらってもいいですか?」とジョアン。

「ははは、いいだろう、今日は特別扱いをしてやる。強いのだろうな、来い!」

挑戦者の弥助を前に、ファイティングポーズを構えるファルソディオ。

弥助は、軽く一礼をすると、偽司祭に向けてダッ、と突進した。

(続く)

※ 聖パウロ天主堂のなかで、闇礼拝のあとにいかがわしい宴や武闘が行われていたというのは超超・フィクションです。神話×歴史ファンタジーの創作です。

次回予告

弥助とファルソディオの勝負の行方は……。どうぞ、お楽しみに~。

今回はちょっとだけ「ガーディアン・フィーリング」の宣伝です♪

今日はなんと2022年2月22日「ネコの日」で、これだけ2(にゃん)の数字が揃うのは、次は200年後。23世紀の火星滞在日記として始まる、創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」の第1話がおよそ200年後の2222年2月2日、の「ネコの日」なんです。

未来はこうあってほしいと願いを込めて作っている、ネコも火星に行って無事地球に帰還する、創作未来神話でありSF(サイエンスファンタジー)でもある作品なので、もし良かったら、どうぞお読み頂けますと、作者として踊り上がっちゃうほど嬉しいです。

この作品は、毎月中旬ごろの更新をしています。「ガーディアン・フィーリング」のお話がある日は「信長の大航海時代」をおやすみにしています。


※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりさかやき Sakayakiさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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