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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」36話 恋人たちはノマド .ae(アラブ首長国連邦8)

35話のあらすじ

アラブ首長国連邦の新たな守護者、火星探査機のマーズホープオービター、アル・アマルとともにオフタイムは屋内スキーを楽しむジョニーと絵美。大天使ジブリ―ルの奇蹟きせきによって、スキー板を装着してもらったアル・アマルは大喜びでふたりの前を滑っていったのだった。

36話

場所: 地球、アラブ首長国連邦(ドメイン .ae)

記録者: 絵美(エミ)  マイジェンダー: やや女性 19才

出身地: 日本  趣味: ネコとたわむれること


暑いを通りこして、お肌の水分をあっというまに蒸発させちゃいそうな灼熱しゃくねつの風がドバイ国際空港に吹いている。砂漠の気候の空。今日は一枚の真っさおなタペストリーを広げたみたいで、雲がない。

ドバイ国際空港には、いろいろな形の主に自動で飛行し、緊急時に人間がコントロールするタイプのヘリコプターが進化した、水素エネルギーで動く大型ドローンが停泊している。大型って言っても、何百人という多人数を一気に輸送する時代はもうとっくの昔に終わっているから、多くても7、8人と飛行スタッフが乗れるくらいのものだけど。

そのなかでナッツ型の水素ガスが詰まった大きなエンベローブ、超軽量金属ミスリル製の風船の部分を使って浮かぶあたしたちのメタルクラッド飛行船は、かなりレトロな感じかも。うん、より家に帰ってきたという気がするかもしれない。

『それデハ、ふたりともお元気でいてクダサイ。引き続き良い旅行を』

アラブ首長国連邦の新しい守護者ガーディアンとなった、200年以上前の、この地初の火星探査機マーズホープオービター、アル・アマルがピコピコとどこか懐かしい音をたてて、告げた。お見送りだ。

「うん、マーズホープオービターも元気で」とジョニー。

『ハイ、おそらくホログラフの私の機体は、損傷そんしょうおよび大破たいはは、なかなかしないものと思われマスガ、元気でいマス』

「そうそう、いつまでも元気でね、マーズホープオービター」と、あたしもにっこり笑って別れを惜しんだ。

『次の地まで私はともに在りますよ、ジョニー、絵美』

青い空にふわりと浮かぶ、大天使ジブリールさまがやさしく微笑む。

「あっ、そっか。トップレベルドメインが次は『.af』だから、アフガニスタンだ! だからアラブの地は、ジブリールさまがともに来てくださるんですね」

『はい、絵美』

「だけどジブリール、どうやって?」

ジョニーが興味深そうな顔をする。

『一旦、三次元世界の向こうへ戻って、こちら側の姿を消すこともできますし、そのままこのつばさで飛行船のあとに続くこともできます』

「ははは、それじゃあジブリールは、ほんとうのUFOになってしまいますね」

「わあ、ジョニー。面白いね! UFOは、あたしはリトルグレイの運転しているものしか見たことがないし、シリウス、アークトゥルス、アルデバランの星のひとたちは、基本的に地球へ物理的な宇宙船のUFOの姿を見せて訪れるということはまずないと聞いてるから……。こんなところで、ジブリールさまという偉大なUFOと身近になれるなら。ぜひ、飛行船といっしょに飛んでください」

ジョーク混じりに、あたしはお願いしてみる。

『分かりました。空港の管制に不都合の無いように、飛びましょう』

OKが出た! わーい、楽しみ!

「おっと、そろそろほんとうに出発だ」

ジョニーがコミュニ・クリスタルに表示された時間を見て寂しそうな表情を浮かべた。

『アラーのご加護が、ありますヨウニ』

マーズホープオービター、アル・アマルは厳かに旅の無事を祈ってくれた。

あたしたちは手を振って彼と別れ、メタルクラッド飛行船に戻ってきた。そして一番最初に行くのはやっぱり。

『にゃーん!』

『ニャゴニャゴ』

「ただいま、タマにキャシーちゃん!」

飛行船のキャットルームに入ったあたしとジョニーを迎えてくれたのは、それぞれの飼いネコたち。良かった、外はむちゃくちゃ暑いというより熱い、だけれど、この部屋は空調設備が整っているからネコたちも元気だ。ちょっと寂しかったみたいで、タッと駆けて足元にくるくると体をこすりつけに来た。

あたしたちは、それぞれのネコを撫でたり、膝に乗っけたり、抱っこさせてもらったり、ごはんをあげたりして、くつろぎの時間を持った。

「……絵美、今度こそ、ふたりになれたよね?」

ジョニーが、飼いネコのキャシーちゃんを抱いたまま、そっと隣に座る。

「……う、ん……?」

なんとなく、何かを感じてあたしは飛行船の丸い窓を見る。

あう! 窓の外の空には、ついてきてほしいとさっきお願いした、ふわふわと翼を広げた大天使、ジブリールさまがいた!

「ジブリール……!」

ジョニーが驚く。窓の外のジブリールさまもあたしたちと視線が合って、ほんのすこし、あっ、見てしまったというような申し訳なさそうな表情だ。

「……ふたりきりは、また今度かなあ、ジョニー」とあたし。

「三次元世界から、はずしてもらえば良かったなあ。でもまあ、旅は長いのだし、こんなハプニングもOKさ。正直なところ、ふたりきりを邪魔されてしまって、やっぱりちょっと悔しい思いはあるけどね」

ジョニーが小さくオーマイゴッド、と苦笑した。

(続く)

次回予告

ジョニーと絵美を乗せたメタルクラッド飛行船は、次の寄港地であるドメイン「.af」のアフガニスタンへ航行中。そのなかで家族へコンタクトをすると、日本で通信を受け取った絵美の姉、真菜はリトルグレイにある相談をしていた……。

4月中旬の投稿を予定しています。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりゆりがえるさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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