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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」25話 恋人たちはノマド .ad(アンドラ公国2)

24話のあらすじ

ドメイン「.ad」となる二番目の滞在先、アンドラ公国にやって来たカップルのジョニーと絵美。ふたりは、アンドラ公国の守護聖人でもあるママ・マリアに歓迎され、メタルクラッド(全金属)飛行船から降り立ったのだった。

25話

場所: 地球、アンドラ公国(ドメイン .ad)

記録者: 絵美(エミ)  マイジェンダー: やや女性 19才

出身地: 日本  趣味: ネコとたわむれること

アンドラ公国は、山の中の小さな国。スペインの司教と、フランスの大統領の共同統治をするところとなっていて、公用語はカタルーニャ。フランス語とスペイン語が通じる人もいる。国のモットーは「団結は力なり」だそう。かなり昔から人がこの地に住んでいて、2004年に世界遺産に登録されたアンドラ公国南部のマドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷は、岩山や氷河、森林、湖といったピレネー山脈の自然の中に、集落や牧草地、山小屋、鉄の精錬所跡などが点在していて、古来から続いてきた自然と人の営みの景観が素晴らしいんだって。

ヘリポートにつながれたあたしたちのメタルクラッド飛行船まで迎えに来てくれた守護聖人、マリアさまは『メリチェイの聖母の伝説が残る、教会まで来てもらうわ。そこでアンドラ公国の新しい守護者を呼び出してね』と、あたしたちを案内してくれた。

メリチェイの聖母という言い伝え。それは、12世紀の後半ごろにはあったみたい。

とある公現祭(こうげんさい、イエス・キリストが現れたことを祝うお祭り)の日、メリチェイの村人が礼拝に向かおうとしたとき、冬なのにバラが咲いているところを見つけて。その下に聖母子像があったので、それをよその教会に安置したのだけれど、次の日にはそのバラの下に聖母子像が戻っていて。ひとびとは、今度は違う教会に安置したのだけれど、次の日にはまた、バラの下に戻っていたんだって。その数日間、冬場の山岳地帯だというのにそのバラにはまったく雪が降り積もっていなくて、この不思議な出来事を天のお告げと受けとめた村人たちは、バラの咲いていた土地に教会を建てて、聖母子像を安置したら、もう動くことは無かったんだって。それが「メリチェイの我らが貴婦人」の名で知られる、メリチェイ教会の始まり。

そんな由緒のある教会での「.ad」とむすびつく土地神さま……西洋の認識だと、天使になるのかな? アンドラ公国の新しい守護者は、どんな存在が現れてくれるんだろう?

マリアさまに先導されて、メタルクラッド飛行船を留めたアンドラ公国の山岳の谷あいにある首都アンドラ・ラ・ベリャから、北東の鄙(ひな)びたカニーリョ教区へ入り、過去に火災で焼けてしまったあとで、1970年代にスペインはバルセロナ出身の建築家リカルド・ボフィル氏によって再建された聖堂のあるメリチェイ教会に、ジョニーとあたしは移動した。

教会にはたくさんのひとびとが訪れていて、新たな守護者を呼び出す儀式をこれから行うところを見に来たひとたちもいるみたいだ。

うーん、一か月に一回しか飛行機が飛ばないアセンション島と違って、アンドラ公国はスペインとフランスから陸路でたくさん観光客も訪れて、温泉スパの利用とか、スキーリゾートとか、ピレネー山脈の登山とかが出来る、それなりに開けた場所だなぁ、って実感するね!

「ええと、今回の儀式は何をするんでしたっけ……?」

ジョニーがすこし恥ずかしそうにマリアさまに尋ねた。

だよねジョニー! アセンション島では、西アフリカの海の神、アグエさまの前とはいえ、あたしたちふたりしかいなかったから、キスもそんなに緊張しなかったけど! こんなにひとがたくさんいたら、もし、またキスをするってことだったら、まるで結婚式みたいだよ。

『ふふ、安心して。今回は、聖堂の中でふたり、手をつなぐというだけだから』

マリアさまが柔らかく微笑んだ。ああ、良かった。ジョニーとあたしはまだまだ火星から地球に戻ってきて、メタルクラッド飛行船で地球の各地を巡る旅の仕事を始めたばかりのほやほやカップルだから……勢いで、みんなの前でキスをするっていうことも出来ないことはないと思うけど……ハードルがちょっと高いかもって思う! 

「手をつなぐだけならぜんぜんOKだよね、ジョニー」

「うん。またキスだったら、もう結婚式みたいだなって思ってたよ」

「あはは、あたしと同じこと考えてたね」

「絵美もそう思ってたんだ」

「うん! もしかして残念だった?」

「い、いや、多くのひとの前でキスはさすがに恥ずかしいよ」

「うんうん。やっぱり、そうだよね~!」

『さあ、中に入って、ジョニー。絵美も』

マリアさまに促されて、あたしたちはメリチェイ教会の聖堂の内部へと足を踏み入れた。暗い中に、キャンドルの炎が灯(とも)されているのが分かった。

「ようこそ、火星滞在の経験者であり、そして我がアンドラ公国の新しき守護者を呼び出すという、おふたりですな」

年配の神父さんがやって来て、挨拶してくれる。ジョニーとあたしも挨拶を返した。

「準備は出来ております……我らが聖母のお言葉に従い、ここに悠久の氷河を持つマドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷から得た雪解け水を用意致しました」

聖堂の床には、生まれたての赤ちゃんを洗う沐浴(もくよく)用の小さなベビーバスが置いてある。中は、綺麗な水を湛(たた)えていた。

『……それでは、ジョニー。絵美。お願いね』

「はい……!」

「分かりましたぁ」

あたしたちは返事をして、おずおずとお互いの手をつないだ。

手をつなぐだけと言っても、やっぱり土地神さまを呼び起こす儀式だから、ちょっと緊張しちゃうね。

ジョニーとあたしがしっかりと手をつなぐと、ベビーバスに張られたマドリウ=ペラフィタ=クラロ渓谷の雪解け水がきらきらと輝き、何かの形になろうと盛り上がってきた。

やがて、その姿はベビーバスから可愛らしく顔を出す一匹の真っ白い毛の子羊になった。

『メエ~! ぼくがアンドラを守る子羊。エル・サイ・アンドラだメエ!』

生まれたての土地神さまとして現れた子羊が、自らを名乗った。

(続く)

次回予告

アンドラ公国の新しき守護者として誕生した、アンドラの子羊(エル・サイ・アンドラ)は、ジョニーたちと交流する……。5月中旬の投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりマドモアゼル・鳩 〜365日の五行詩〜さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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