人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十一話「ファルソディオの闇礼拝」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
四十話のあらすじ
日の本の商品、焼き物の志野茶碗と扇を鑑定するファルソディオ。茶器には渋い反応をしたものの、助左衛門の機転によって扇は高く売ることに成功しました。気を良くして大金を払ったたこの偽司祭の仕事を見に、聖アントニオ氏とともに聖パウロ天主堂へと信長公たちはついて行くことになったのでした。
四十一話
豪奢な司祭ふうの衣装をまとったファルソディオが、澳門の雑然とした市場から小高い丘の上の聖パウロ天主堂へと歩いていく。
「おお、ファルソディオさま、ご機嫌麗しく。これから礼拝のお時間ですか」
「ああ。皆もこれから来るがいい、パンとワインとをふるまってやるぞ」
「ありがたいことでございます、それでは我々も礼拝へ」
街のひとびとがファルソディオのあとを喜んでついてくる。
「なんじゃ、鬼の棟梁でごうつくばりの商人とばかり思うておったが、意外とひとびとの取りまとめもできる人物のようじゃな」
信長が、ぞろぞろとひとをつれて歩くファルソディオを見つめる。
「せやな、信春はん。どんな礼拝なのか、こら見ものでっせ」
助左衛門もうなずいた。
「パンとワインをふるまう、と言っているのは親切ですね、上様」
「そうじゃな、蘭丸。食い物は兵の士気の要じゃからのう」
「ファルソディオは、ずいぶん人気がありそうだ、ノッブ」
信長、助左衛門、ジョアン、弥助の四人はファルソディオのあとについていきながら、ひそひそと言葉を交わす。
『はい、そこが彼の恐ろしいところでもありまして』と、ポルトガルの守護聖人、アントニオの表情が曇った。
一行だけに見える、赤黒い角を生やした屈強な鬼たちにガードされ、ファルソディオが聖パウロ天主堂へと近づく。
「おお、この天主堂を守る天使さまは美しい!」
ひとびとは、一行には悪魔の姿にしか見えない天主堂の周りを飛ぶ化け物を崇めてうやうやしく頭を下げた。
「そうだ、俺には天使軍がついているのだぞ!」
ファルソディオはそう応じ、ふんぞり返ったまま入り口へと入っていく。四人もすぐあとに続いた。視界が一瞬だけ真っ暗になり、しばらくすると、内観がおぼろげに見えてくる。ステンドグラスを通した淡い光とロウソクの炎の光とが、周りよりも高い壇上となっている天主堂の奥の中央部を照らす。金や銀、色とりどりの宝石で飾られた十字架があった。その中央の壇の裾から金の縁取り模様が付いた赤い絨毯がまっすぐ入り口のほうへ向かって敷かれていて、その左右に礼拝者たちが座る木製の長椅子がある。ひとびとは椅子から溢れて、立ち見の者が出ているほどの盛況ぶりだ。
「あれ? おかしいですよ、上様。あの金銀と宝石との十字架は」
ジョアンがそっと信長に耳打ちする。
「確かにのう、蘭丸。十字架が下を向いておる。あれではイエス・キリストを地面に叩き落す、という表現のようじゃな」
信長もうなずく。壇上の十字架は、これまでに信長やジョアンが見てきたものとはさかさまの、十字が下を向いた形になっていた。
「ほんまや、ジョアン。それにあのステンドグラス見てみいや! 悪魔の姿が描いてあるで」
助左衛門が指摘する。通常はイエス・キリストの生涯や、聖母マリアや聖人たち、使徒や天使などを主題とするステンドグラスだが、この聖パウロ天主堂は、ものものしい悪魔の姿をモチーフとしているようだ。
「怪しいな。ファルソディオの礼拝が始まるぞ、ノッブ」
遠くの壇に偽司祭ファルソディオが上がるのを目にとめ、弥助がささやいた。
「そうじゃな、弥助。いかような礼拝か、とくと見てみようぞ」
立ち見の見物客として、一行は一番うしろの、ファルソディオのもとへ集まった信者たちが座る長椅子のそばにそっと移動する。
ファルソディオが壇上に上り、ひとびとが静まり返ると。
ジャガガガン、と大きく激しいオルガンの音が響き渡った。ファルソディオについていった、アントニオがオルガニストとして雰囲気を盛り上げているのだ。
「異教徒は殺せ! さもなくば奴隷とせよ! 蹂躙し! 奪い、叩き潰せ! それが主、イエス・キリストのご意思である!」
ファルソディオは開口一番、そう叫んで気概を示した。オオッ、とひとびとが呼応する。
「異教徒は殺せ! さもなくば奴隷に! 蹂躙し、奪い、叩き潰せ! これは主、イエス・キリストのご意思!」
偽司祭ファルソディオの言葉を、熱にうかされたようにそのまま暗唱する信徒たち。
BGMとして、荘厳なオルガンの音色を奏でるアントニオの表情は、ひどく悲しげだ。
「これは……みなのものは、とんでもない偽司祭に騙されているようじゃな」
信長が顔をしかめた。
(続く)
※ 聖パウロ天主堂の内観と、偽司祭ファルソディオによる闇礼拝のやり方は、現存していないのをいいことに想像をふくらませて描いた超・フィクションです。神話×歴史ファンタジーの創作です。
次回予告
礼拝(?)の終わった偽司祭ファルソディオは、さらにいかがわしい宴会を始め、とある遊びを始めます。一行はそれに参加することにしました。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりぴよまろさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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