人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十三話「弥助とファルソディオの勝負」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
四十二話のあらすじ
いかがわしい宴の余興として、一対一の賞金付き武闘を始めたファルソディオ。一行のなかから、弥助が参加を申し出ました。ファルソディオと黒人侍の勝負が始まります。
四十三話
「行け、弥助よ!」
「弥助の兄貴、頑張っておくんなはれ!」
「弥助兄さん、勝ってください!」
聖パウロ大聖堂のなかに響くファルソディオへのコールに負けじと、信長、助左衛門、ジョアンの三人は声援を送った。
弥助はダッと突進してまっさきに拳を叩きつけようとした。しかし、ファルソディオの片腕に難なく払われ、トットッ、と足で軽いリズムを踏んですこしの距離をとり、隙を伺う。
「くらえ!」
ファルソディオが反撃の拳を突き出した。弥助も片腕でその軌道をそらすと、偽司祭のふところに入って下から上へ、ガツンと見事なアッパーを顎にお見舞いした。
「ぐはっ!」
よろりとするファルソディオ。ここぞとばかりに、弥助は容赦なく足払いをかけ、恰幅のいい体がドザッと床に倒れると、馬乗りになって二発、三発と追撃のパンチを続けた。容赦はないが、日の本の戦国の世に、培ってきた並外れた弥助の身体能力が、この賞金付きの素手による武闘を有利に運んだ。
「こ、この手練れ……ただの奴隷じゃないな? 何者だ」
顔をボコボコに腫らしたファルソディオが呻く。
「ノッブに仕える、さむらい、だ」
弥助は静かに答えた。
「サムライ! はっ、未開の地のジパングで、勢力を持つ野蛮な戦士のことか」
「……ファルソディオ、お前が飢えたひとびとに酒と食い物を渡すのは悪くない。アフリカのオレの部族も仲良くするときはよくやった。悪いのはそのあとだ。むりやり奴隷にしたひとびとと、賭け事と。銃という強く新しい武器、それがたくさんあればなんでも片づけられると思っている。お前の方が、よっぽど野蛮じゃないか」
答えた弥助が、とどめの一撃を繰り出そうとする。しかしファルソディオは人間の技ではない素早さで、パシッとその一撃を片手に受け止めた。
「久しぶりに骨のあるやつと戦えてうれしいぞ、奴隷よ? そうならばサムライとやらを相手に、俺も本気を出さねばなあ!」
にょきり、とファルソディオの剃り上げた頭部が変形した。三本の赤黒い角が生えてきたのだ。ボコボコに腫れていた顔は、もう治っている。
「おお、ファルソディオさまの光輪だ!」
「美しい、素晴らしい!」
虎模様のパンツをはいた恰幅のいい三本角の鬼の姿は、彼を信奉する者たちには、やはり天使か、なにかに見えているようだ。
「ひとの姿ではなくなってしもうたのう。用心せよ、弥助!」
遠くから聞こえる信長の助言に、弥助はファルソディオから離れて身構えた。
(続く)
次回予告
鬼の本性を現し、強大化したファルソディオの圧倒的な反撃を前に、弥助はピンチを迎えます。そこへ助けに入ろうとしたのは……。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりはるよさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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