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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 二十六話「鬼を倒し、さらなる敵を知る」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春(おだのぶはる)」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門(すけざえもん): 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久(いまいそうきゅう)の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

二十五話のあらすじ

ついに本性をあらわした鬼たちと、信長公一行との戦いが始まりました。

二十六話

ふたりの鬼たちを村へと行かせぬために、信長たちは彼らの前へと回り込んだ。ブン、と鬼が持つ松明が振り下ろされる。

「なんの、これしき……!」

「当たらないぞ、鬼よ」

戦いの前面に立った信長と弥助は、軽快にそれをかわした。

松明をかわしてすぐに信長はひとりの鬼との間合いを詰め、刀を一閃した。

「グッ!」

四本の太い腕のうちのひとつでそれを受ける鬼。刀が腕に切り込むと、そこには光の粒子が舞った。切られたところから、体が光に還元していくかのようだ。

「ウウ! 祓(はら)いの刀か……!」

「こっちの矛もだ、鬼よ!」

弥助がドン、と両手に持った矛を突きだし、鬼の胸を突く。

「ウガァァア!」

鬼は叫び、松明を振り回し、残りの腕を振り回す。鋭い爪が弥助の頬をかすめた。凶器となった松明が迫るが、信長たちはそれもかわした。信長と弥助の得物が、鬼に刺さる。

「ウギャアアア……」

信長たちの刀と矛を受けた鬼のひとりは、断末魔をあげ、全身が光のつぶとなって霧散していった。

「クッ! 戦場では足手まといになる赤ん坊と子どもを食らってやって、なにが悪い」

ひとりの残された鬼がうめく。

「子どもは未来やで? 育てるのが筋や。エサとちゃいまっせ」

助左衛門がきっぱりと答えた。

「……貴様ら、ほんとうは何者だ!?」

鬼が聞く。

「そうじゃな。神々の加護を受け、おぬしらのような悪しき者らを成敗するためにやって来た、と言っておこうか」と信長は答えた。

「クソッ……! 我らがファルソディオさまの敵か」

「ファルソディオ……?」と、ジョアンがすこし怪訝な顔をした。

鬼は形勢不利と判断したようで、逃げに入っている。

『逃がさないヨ! 赤ん坊や子どもを食べちゃうヤツなんテ』

ゴブ太郎が銃を持ち、照準を定めてダン、と銀色の気弾を鬼の背に放った。

「グハッ!!」

鬼が気弾を受けて、倒れ伏す。

「これでどうや!」

助左衛門の指先から、祓いの青い炎も次に放たれ、命中した。

「覚悟せい、鬼よ」

「成敗、する!」

信長と弥助が追いついて祓いの刀と矛を刺し、たちまちのうちに、この鬼も、撃たれたところや信長たちの得物に傷を受けたところから光の粒子になり、消えて行った。

戦いは、信長たちの圧倒的な勝利となった。

「いやはや。魔を祓う、て、一体どないなんやろ思うてましたけど。魑魅魍魎(ちみもうりょう)の相手には、ほんまにえらい威力を発揮するんやな」

助左衛門が感心した様子で、青い祓いの炎を放った自分の指と、信長と弥助とゴブ太郎の持つ得物とを眺めた。

「彼奴(きゃつ)らにも家族はいたろうか?」と信長がふと思案する。

「ノッブ! おいらたち鬼とかお化けに、家族がいるのは珍しいんだヨ」とゴブ太郎が答える。

「ならば、すこしは気が晴れるか。……成仏せい」

信長は、光となって消えた鬼たちに向け、手を合わせた。

「なんや、信長公……いや、信春はんって御方は、敵は容赦せずに叩き潰す怖いおひとやとも聞いてましたけど、意外に律儀な方やないか」と助左衛門。

「本能寺を経験し、愛する者らを炎のなかに失ってみて、まともになったというところかの」

信長は苦い笑みを見せた。

「戦いには勝利したんやさかい、こういうときは勝ちどきの声とちゃいまっか?」

「……そうじゃの。では魑魅魍魎が相手の初勝利を祝おうぞ、皆よ」

エイエイオー、と四人は声を揃(そろ)えた。

「それにしても、助左くん。さっきの鬼の言葉、気になるね」とジョアンが言う。

「せやな。ファルソディオ、っちゅう名前やろ」

「うん。我らが、と言っていたから、あの鬼たちよりも上の存在がいるってことだよね」

「ふむ。それならばひとまず長崎の酒場に戻って、その名を持つ者の情報を得てみようぞ、蘭丸、助左、弥助よ」

「そうだな、ノッブ」と弥助が答えた。

首尾よく、鬼たちの襲撃を防ぐことのできた信長一行は、得物をおさめて長崎の港へと戻った。

酒場へ行き、ジョアンが先頭になって即席の船長を装う。

「いらっしゃい!」

酒場の店主が笑いかけた。

「ええと……ラム酒をひとつと、カップをよっつください」

「えっ。奴隷にも酒をやるんですか。そんな若いのに、見上げたもんだ」

店主が不思議そうな顔をしながらも、さっそくラム酒と木のカップを出す。

「どうぞ、うえさ……いえ、信春。飲みたかったでしょう」

「おお。気が利くのう、蘭丸」

信長は目じりを下げて、珍しい酒、ラムを木のカップに入れた。従者役を演じているので、ジョアンのぶんもついでやる。そして、弥助や助左衛門にも同様にしたあと、四人はそっと乾杯をした。

「おお、うまいものじゃのう。鬼殺しのあとの酒は格別じゃ」

「いい酒だ、ノッブ」

「ほんまや」

従者役を演じている三人は、ひそひそと話しながらラム酒を口にする。

「それで……ファルソディオさま、という方のお名前をすこし聞いたのですが。ご存知ですか?」

ジョアンが店主にそれとなく尋ねた。

「ああ、とにかく金払いはいい方だよ。きのう、あんたたちと飲んでいた方々の上司だ。あんたらもポルトガルの船乗りなんだろ、それならこの先ポルトガルの居留地に行けば、どこかでお会いできるかもしれない。もう、この港は発(た)ってしまっているよ」

「そうですか……ファルソディオさまはどんなご商売を?」

ジョアンもすこしだけ木のカップのラム酒を飲みながら話をつなぐ。

「まあ、まずは奴隷商だね。あとは、司祭が足りないところでは、その代わりもときどきやってるみたいだよ。半分商人、半分司祭みたいな感じかな」

「……そうなんですね」

「マカオか、その周辺のポルトガル居留地の港を拠点にしているはずだよ。詳しいことは、現地でまた聞いてみな」

「はい!」

ジョアンは、すこし多めに店主へ金を支払った。

「へっへ、若いのによく気が付くなあ。いい船長になれるよ、あんた」

店主はにんまりと笑って、四人が外へ出ていくのを見送った。

長崎の港に停泊しているキャラック「濃姫号」に戻ると、ジョアンは大きなため息をついた。

「はあぁ。やっと船長役を降りられます」

少年はようやく緊張を解いた。

「ご苦労じゃったな、蘭丸。これで、ファルソディオというやからのことがすこし分かったのう。怪しまれぬうちに出立するのが花じゃ、ひとまず平戸へと戻るぞ」

「はい、上様!」

「ハハハ、ジョアンはそのほうがやっぱり似合ってるな、ノッブ」

弥助が笑う。

「せやな、いつボロがでるんやないかと思うて、こっちもハラハラしてたで」

助左衛門も胸をなでおろした。

「ゴブ太郎も良き働きをしてくれたのう、コンペイトウをくれてやろう」

『わーいわーい』

「天使ナナシよ、姿を消してもらい、世話になったの」

『ささやかな助力であれば、いつでも致しましょう』

ゴブ太郎と天使ナナシも、信長の言葉に笑った。

「それでは船を出すとしようぞ……!」

そうして、早々に「濃姫号」は長崎の港を発したのだった。

(続く)

次回予告

平戸に寄港した信長公一行を、まつ姫が迎えます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより椿-TSUBAKI-さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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