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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」35話 恋人たちはノマド .ae(アラブ首長国連邦7)

34話のあらすじ

レストランで、アラブ首長国連邦の子どもたちと地元料理を楽しむジョニーと絵美。ロボットとして「食べる」ということのない火星探査機のマーズホープオービター、アル・アマルは、一度おなかがすいた、そしておなかがいっぱいという体験をしたいと願う。しかし、過去の飢餓状態である国々の歴史を知る少女から、おなかがすくのは良いことばかりではないと諭される。そして23世紀の現在、戦争や飢餓のほとんどない時代を迎えた子どもたちと、ジョニーと絵美とアル・アマルは、おいしく物が食べられることに感謝の祈りを捧げた。大天使ジブリ―ルとアラブ首長国連邦の新しい守護者アル・アマルは、そんなひとびとを見守っていたのだった。

35話

場所: 地球、アラブ首長国連邦(ドメイン .ae)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること


大天使ジブリ―ル、アラブ首長国連邦の新たな守護者である火星探査機のマーズホープオービター、アラビア語ではアル・アマル。そして火星から地球に帰還した僕と絵美のふたりと、この地の子どもたちとの食事を交えた語らいの時間が過ぎた。ドバイのエミレーツモールにある、スキー場のレストランでさまざまなアラブ料理やラクダのミルクを使ったホットチョコを頂いて、おいしく楽しい時間を持てたことに感謝、だ。

『オフタイムは、やはりスキーなのデスネ』

ピコピコと、興味深そうにマーズホープオービターがホログラフの姿でついてきた。僕と絵美とがモコモコのスキーウェアを着て、スキー靴とスキー板とを合わせているのが面白いみたいだ。

「マーズホープオービターも、滑りたい?」

絵美が、ロボットの言葉に微笑んで応じる。

『なんとか、移動はできるかもしれマセン、足がアレバ』

「スキー板が取り付けられれば、君はスキーだって行けそうだなあ。ジブリ―ル、なんとかなりませんか?」

僕は、絵美の真似をしてスキー場の空中に浮かぶ大天使に聞いてみた。

『アル・アマルの物質化と、足の部分を作ってスキー板の装着ですか。……いいでしょう、多くの者たちに奇跡を見せても、小さなものであれば安心して受け入れられる時代がようやく訪れていますからね。リフトに乗れるよう、大きさと重量も少なめにしておきましょうか』

ジブリ―ルがうなずく。

おお、すごいや。奇跡はちゃんと起こしてもらえるらしい。

何も、古代のモーゼのときのように、海を割るような大きくて劇的な奇跡じゃなくていいんだ。200年前の火星探査機が、実体でスキー板を装着して滑る。それを見たひとは、きっと大いなるひとつの神さまや、幾多の小さな神さまがたや天使や妖精など不思議な存在が確かに在る、三次元以上の見えない世界のことを、コミュニ・クリスタルがなくても実感するはずだ。オー、グレイトって。いや、アラブの世界だったら「スブハーナッラー(神に讃えあれ!)」か「ワッラー(マジ!?)」かな?

『それでは、アル・アマル。足にスキー板を』

ジブリ―ルがマーズホープオービターに触れたかと思うと、その足元がきらきらと淡い光に包まれる。そして、ちょっと縮まった四角い体の下部にスキー板を装着済みの実体となり、ぽすっ、と雪のゲレンデに記念とでもいうべき足跡を付けた。

『地球の雪に、触れられマシタ! とてもうれしいことデス』

ぽすぽすっ、と雪をスキー板で踏むマーズホープオービター。

「わあ! やったね、マーズホープオービター」

絵美が喜んだ。

「じゃあ、リフトに乗っちゃおう!」

『了解致しマシタ、絵美』

マーズホープオービターも嬉しそうだ。

……うーん。ほんとは、すぐにでもちょっとだけ絵美との甘いスキータイムを期待していた僕だけど。マーズホープオービターの参加、これはこれで、面白いハプニングだ、と思おう。火星探査機といっしょにスキーができる体験なんて、まず誰もやったことがないに違いないから。

マーズホープオービターがすこし小さくなった実体でガチャッとゲレンデのリフトに乗ると、周りのひとびとは驚きの視線を向けた。そのあとに、こそっと僕と絵美もリフトに続く。

空中に揺られてリフトが移動するこのときだけは、ようやくふたりの時間、だ。

「絵美」

「なあに? ジョニー」

「ようやくカップルって感じられる時間が出来たよ」

「確かに! アラブ首長国連邦に来てからは、ずっとお仕事続きだったもんね」

「飛行船に帰ったら、思いっきりハグしていい?」

「うん、もちろん」

ふたり以外の人間に聞かれたら、恥ずかしすぎる会話ができた。リフトに乗っているこの時間が、ほんとうに尊い。

あっという間に頂上へ着いてしまう。ゲートを出ると、マーズホープオービターはもう、下へと向かって滑り出していた。雪を滑るという行為が待ちきれなかったようだ。

『ひゃっほー、デス~!』

200年前の火星探査ロボットの黄色い機体がゲレンデを滑っていく姿は、うーん、絵的に面白過ぎる。

「さあ、僕らも滑ろうか」

「うん!」

僕らふたりもゲレンデを行くマーズホープオービターのあとに、スキー板で続いた。

(続く)

次回予告

ジョニーと絵美、ふたりのアラブ首長国連邦を離れるときがやって来て……。3月中旬の投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより山羊メイルさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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