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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 三十一話「信長公とジョヴァンニ」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春)」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
三十話のあらすじ
平戸の姫、まつと助左衛門の仲を取り持ち、まつの父である松浦隆信氏に許しを得た信長公。隆信氏は、東洋の港でキャラック「濃姫号」が自由に動けるようにもしてくれたのでした。助左衛門とまつはふたりで隠れ、信長公と弥助、ジョアンは船に戻ってきました。
三十一話
キャラック「濃姫号」の甲板で、平戸の島の景色を眺めながら、ジョアンはふわふわと友のことを考えていた。
ふたり、秋の花の咲く草むらで今ごろ仲良く語らっているだろうか。
「いいなあ、助左くん。素敵な彼女さんができて」
ジョアンとしては、なにか友に、追い抜かれてしまった気分だった。
「物思いのようじゃのう、蘭丸よ」
信長が少年のとなりにやって来て、そっと尋ねた。
「上様! はい、正直ちょっと、助左くんのことがうらやましくて」
ジョアンがいつもはくりくりとした愛らしい青い目を伏せた。
「僕もまつさんみたいに可愛い女の子と、その……恋がしてみたいなと思ったんです」
「恋か……」
信長がかかか、と笑う。
「ならば、儂でどうじゃ、蘭丸」
「ええ……!?」
驚いて目を見開くジョアン。
「上様のことは、それはもう尊敬してますし、大好きですよ。でも、上様は、その……男のひとじゃ」
「なにを言うか。この戦国の世の日の本はのう、蘭丸。男が男を愛し抱くのもふつうに許されておる。おぬしの故郷ではどうなのじゃ?」
「えっと……僕の故郷で昔信じられていた最高神であるユピテル、ゼウスは、男の子のガニメデを可愛いからとさらって天界に連れて行って、今でも不死のお酒のネクタルをつがせているっていうお話はあります。それから、最近ではレオナルド・ダ・ヴィンチという高名な方にも、サライという少年がいたっていう噂は、知ってます」
「ほれみい。可愛い男の子はのう、蘭丸。愛されて大人への階段を登るものじゃよ」
「でも、この戦国の世のキリスト教では、同性愛は地獄行きって教えられてもいます」
「それが恐いのか」
「はい。地獄は、やっぱり恐いです」
「大丈夫じゃ。儂などとうに地獄行きが決定しておる人間じゃが、デウスとやらが治める天国なぞに連れていかれて楽園で退屈な暮らしをするより、地獄に落ちて、戦国の世で同じように地獄行きとなったであろう義父、斎藤道三殿や、敵となっておった武士どもと出会うて語らっていたほうが良いというもの。蘭丸、おぬしが儂に愛されたことにより地獄に行くことになろうと、それは儂もじゃ。愛し合う者がふたり、ともに堕ちれば、寂しくも辛くもなかろうぞ」
「上様……」
「蘭丸よ。今を、楽しめ。来い」
信長はジョアンの手を引いた。少年が抗う様子はなくなり、素直に連れられて行く。
「弥助。ほかの者が来ぬよう、見張りを頼むぞ」
「……承知した、ノッブ」
信長とジョアンのやりとりを静かに聞いていた弥助は、そっと頷いた。
そしてキャラック「濃姫号」の船室で、信長とジョアンはともに夜を明かした。
「愛いやつじゃのう、蘭丸」
ベッドの上で信長がジョアンのくるくると巻いた赤い髪を優しく撫でる。
「あの……僕は、ジョアンです。故郷ではジョヴァンニです。上様、よほど蘭丸さん、のことがお好きだったんですね」
ジョアンはすこし切なげに微笑んだ。
「もう、儂より先に死んでしもうたがのう」
「その蘭丸さん、と呼ばれて抱かれたことが、すこし辛いです」
「なんと。これはうかつじゃった。済まぬ」
少年のいじらしい抗議に、信長が驚いて謝る。
「僕は蘭丸さんじゃありません。でも、上様のとても大切だった方のお名前を与えてくださったことには恐れ多いというか、そのことを今はうれしくも思います。蘭丸、と呼んで下さることに」
「ジョアン……」
「いつもは、蘭丸さんのお名前で呼んで下さい。僕も蘭丸さんであるように努めます。でも、このときだけは、僕の本当の名前、ジョヴァンニと言ってほしいのです、上様」
そっと信長の胸に、ジョアンが頭を預ける。
「あいわかった。以後はおぬしの本当の名を、このときだけは呼ぼう、ジョヴァンニ」
信長は真摯に少年の名を呼び、華奢な美しい肩をふたたび抱き寄せた。
(続く)
次回予告
大人への道を一歩進めたジョアンと助左衛門は、お互いのことを話します。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより安藤 貴代子さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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