人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十七話「ひとつめの秘宝探しの旅へ」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
四十六話のあらすじ
ファルソディオをなんとかするため、世界の12の秘宝を探す旅へと向かう信長公一行に、媽祖さまは長い航海に必須の魔法、新鮮な食料と真水を得られる『氷凍結』と『雨乞』を伝えたのでした。
四十七話
澳門の港の穏やかな潮風に、東洋の地の帆船、ジャンク船やはるか西洋の地からやって来た大小さまざまなフリゲート艦やガレオン船、キャラックなど多様な目的の帆船が、波止場に横付けされて揺れている。
そのなかの信長一行が持つキャラック船「濃姫号」は、寄せては返す波の上で小ぢんまりとしとやかに微笑んで待っていたようにも見えた。
「媽祖殿、世話になり申した。必ずやこの地、澳門に舞い戻り、偽司祭のファルソディオのやつめをギャフンと言わせてみせましょうぞ」
「そうだ! 次に闘うときは、負けない」
見送りについて来た媽祖へ、信長と弥助のふたりが固く誓う。
『五つの大陸の秘宝、七つの大海の秘宝。集めればどうなるのかは、私も浄化の力を持つという『虹の竜』の言い伝えを知っていたアルが、ひとつひとつが何か、どこにあるのかは、すこしも力になれなくて申し訳ないアルね』
媽祖が肩を落とした、そのとき。
『みなさん! 間に合って良かった!』
街のほうからあわてて駆けてきたのは、聖アントニオだった。小脇にいくつかの丸めた羊皮紙を持っている。
「おお、アントニオ殿」
『ファルソディオの陣営のひとびとをなんとかごまかして、これらを手に入れました。信長公、ぜひこれからの船旅にお役立て下さい』
「む、これは」
受け取った羊皮紙のひとつを広げて、信長は驚く。
「東洋の、このあたりの地図にござるな。ふむ、琉球、台湾、おお、李朝(李氏朝鮮)の地に、そしてこの日の本の北の大きな島は……聞きしに及ぶ、はるか北の蝦夷の地であろうか。このよっつの地に『?』が付いているようじゃが」
『はい、信長公。それは、この東の地にあるひとつめの『大海の秘宝』の位置を見定めた地図なのです。ファルソディオの持つ宝箱から、僕がこっそり持ってきちゃいました』
アントニオがお茶目に片目をつむってみせた。
「なんと……。ははは、守護聖人の方もやりまするな」
『悪鬼の守護は、内心は僕もご遠慮願いたいものですからね。主はおそらくすべての者を愛せ、とおっしゃるでしょうが』
信長とアントニオは笑い合う。
「上様! じゃあ、よっつの地を訪ねて、神さまがたや不思議な存在や、琉球、台湾、李朝、北の蝦夷の地、それぞれに暮らすひとびとに尋ねてみれば、ひとつめの秘宝が見つかりそうですね」
ジョアンは宝の地図に興味津々だ。
「そうじゃな、蘭丸。この地図のおかげでまず目指す渡航先の目途が付き申した。感謝致しまする」
信長はポルトガルの守護聖人に礼を述べた。
『信長公、もうひとつ、プレゼントがあります』
アントニオがもうひとつ、羊皮紙を渡す。
『これはスペイン語で、渡航許可と商売の許可を記した書類です。公が持つ日の本の地で得たものはポルトガル語の許可証でしたから、これがあれば今はスペインに吸収され、力を失っているポルトガルの寄港地に加え、スペインの寄港地にも訪れることが出来るでしょう』
「ほんまでっか! ほんなら、東南アジアでスペインの勢力が強うなってはる、ルソンや、そこからはるか東へ海を渡って南米の地への航路も使えますやん」
『はい、助左衛門。ファルソディオをなんとかするため、僕にできるのはこの二つです』
「おおきに、聖アントニオはん! 世界中を巡ってお宝さがしと商売が出来るで、こら面白うなってきたわ」
「そうだね、助左くん。積み荷の日の本の焼き物を、ちゃんと認めてくれるひとを探してみよう」
「せやな! 商売人は別にファルソディオのおっさんだけやないで」
ジョアンと助左衛門の少年商人ふたりも笑った。
『ノッブ! 準備は出来たヨ、いつでも出発できるヨ!』
『公、そろそろ参りましょうか』
ゴブ太郎と天使ナナシがキャラック船の出港の支度をし終えて、船の上から告げた。
「ありがたき加勢を、感謝致しまする、アントニオ殿。貴殿の機転がなければ、あっさりとファルソディオに敗北し、聖パウロ天主堂のなかで死んでいたやもしれませぬ。この御恩は、いつか」
『はい、信長公。ファルソディオをなんとかするという、12の秘宝を得られること。それを僕も心待ちにしています』
別れの時が来た。キャラック「濃姫号」に乗り込んだ信長、弥助、ジョアン、助左衛門の四人とゴブ太郎、そして天使ナナシは、媽祖とポルトガルの守護聖人アントニオの見送りを受けて出港した。
(続く)
※ 信長公一行に立ちはだかる敵、偽司祭の悪鬼ファルソディオ、という設定は神話や伝説をミックスしたフィクションです。彼のオルガニストとして役回りを持った、身分を隠して市井に暮らすポルトガルの守護聖人アントニオ、というお話も同様です。神話×歴史ファンタジーの創作になります。特定の宗教や信仰などを否定するつもりはまったくございません。娯楽作品としてご寛容頂ければ幸いです。
※ 日の本以外の地の表記につきまして、蝦夷や李朝や琉球といった、過去の名称が日の本に近く分かる範囲は過去のものをできるだけ使っているのですが、これから信長公一行が赴く世界については、東南アジアや台湾、南米といった、現代のものを使って分かりやすさ重視で行かせて頂きます。ご了承ください。
次回予告
聖アントニオに渡されたひとつめの「大海の秘宝」の手がかりを求め、信長公一行は、キャラック船「濃姫号」でまずは台湾へと向かいます。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりNAOKIBLOGさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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