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やっぱり気になるトイレのこと

 こちらの質問に対して、回答にずいぶん時間がかかりました。どんな言葉を選んで回答しても意味を取り違えて全く見当違いのコメントをする人は一定数いますし、当事者である山科さんにとって愉快な内容ではないので否定されるだろうし、気丈に振る舞っていらしてもきっと心を傷つけることになると思うからです。トランスジェンダー当事者の方は、以下閲覧注意とさせてください。そして、無理にお返事も不要です。

 ただ現時点での私個人の考えをまとめて残しておこうと思います。私自身は福祉の専門職として就労していること、カトリックを信仰していることを公にしています。ですが、ここにまとめた内容は職能団体や宗教団体を代表した見解ではないことを合わせてご承知おきください。

 前提のお話として、私は女性専用スペース使用を出生時の性が女である人に限定するよう求めることには、賛同していないことを重ねてお伝えします。賛同していない、としたのは、絶対反対でもないからです。

 なぜ賛同しないかと言うと、不可能なことを求めているからです。衣服の上から身体的な性別を完全に見分けることは不可能ですし、ましてや過去の手術の有無は知らされない限り第三者には判別不可能です。通報された時に違法性を問うためとしても、通報されている時点で少なくともハラスメントは成立していますし、さらに性犯罪であれば加害者の性別がどちらかは罪状に影響しませんので、ここでも加害者の性別を特定することは無意味です。性的に不快な印象を与えた人が、調査の結果女性であれば加害性を不問にされることもないです。
 絶対反対でもない、というのは、今現在、性別の移行を否定する考えの人が一定数いて、男性器を持って出生した人の全ては男性であって女性ではないと主張されているからです。その人たちから見れば、女性でない人が女性専用スペースを使用しているルール違反ということになります。男女の区分けに対する社会の認識が変化しつつある中で、ルールの整備が追いついていないことが混乱を招いています。そうであれば、施設の管理者が各々の施設が置かれてる状況に合わせてルールを設けることで解決できます。例えば、「特例法の適用者」「社会生活上で女性と見なされている方」から、「女性として施設使用を希望する方」や「出生時に女に振り分けられた人」など極端なものがあっても、管理者がそのように決めて告知すればはっきりします。賛同できない人は利用しませんし、苦情申立ても施設管理者に行えば良いので利用者同士が衝突することは避けられます。もちろん公共性の高い施設では、使用できる施設がひとつもないという人を一人も出さないようなルール設計を義務付ける必要はあるでしょう。(それが「差別禁止法」だと思います。)トランスジェンダーの女性トイレ使用を公認する施設は一般女性から敬遠されて成り立たないと主張する方もいますが、その通りにならない可能性もあります。まずはLGBTフレンドリーの企業やレインボーパレードなどのイベントに合わせて社会実験することを提案したいです。オールジェンダートイレを新設するよりも既存の設備をそのまま使用できる実験なのでコストも低く現実的で実現可能なことだと思います。
 私の主張は「女性スペースの使用対象者をその置かれた状況に照らし合わせて施設ごとに管理者が決めて告知してほしい」ということです。

 さて、そのようなルールの明文化に際して、仮に「出生時の性別が女」であることを女性トイレ使用条件に定めた場合でも、男性トイレも同時に「出生時の性別が男」と定める必要はないだろう、というのが今回の冒頭の投稿でした。
 出生時の性別でトイレを分けると屈強な男性の容姿をした「トランス男性」が女性トイレを使用する、そのことをわかっているのか、という投稿をXでは見かけます。出生時に男とされた人はどんな手術をしても性別はかわらず、女には決してならない、とする主張への反論で、ロジックのほころびをついて相手の主張を感情論だと印象づける目的だろうと思います。
 しかし、男女別トイレ双方のルールを揃えることは定められていないので、自動的に男性トイレのルールまで変更されると思い込んでいる反論にもロジックにほころびがある点を指摘したいです。そもそも女性トイレは、外出先で多数の人が共有するトイレがまず先にできて、そこで暴力の標的にされやすい女性を保護する目的で設置されたものです。ですから、女性トイレの入場者制限をそのまま男性トイレには適応される必要がないのです。もし男性も男性としての保護が必要であれば、それはまた別の基準でルールを設けることが適当でしょう。(当初の私の意見では、男性専用とするトイレは不要ではないかと考えていましたが、男性の性的羞恥心を軽視しているとご指摘がありました。その通りだと反省し私の意見も一部修正します。ただしニーズの質に男女差があるため、男性専用と女性専用の個数や使用者のルールを揃える必要はないという点に変更はありません。)
 社会の中に男女の不均衡がある前提で設置されている男女別の施設であるのに、使用ルールの基準だけは平等に揃えることは、公平ではありません。おそらくそのようなことは重々承知の上でフェミニズムや社会学をよく学んでいる方が、このようなロジックを弄ぶような反論を、批判する相手を揶揄するような論調で投稿することに反感を感じます。
 
 以下、オールジェンダートイレに関するご質問への回答になります。
Q:なぜオールジェンダートイレとは別に女性専用が必要なのか⇒A:便宜上「女性専用」と表示されていますが、旧来は自動的に「男性」でなければ「女性」とされていたに過ぎず、従って「女性専用」は「男性の使用禁止」を指すと考えています。必要な理由は、「女性専用=男性の使用禁止のスペース」を使用したいと希望する人の数が多いからです。
Q:女性専用トイレ利用を希望する人々が女性専用を必要とする理由⇒A:「男性の使用禁止=男性と一緒のスペースを使うのはイヤ」の理由は無自覚だったり言語化できていないものも含めて人によってまちまちです。はっきり理由が伝えられないからと言って、その要望がすべて理不尽だとは言えません。それは、男女別のトイレではなくオールジェンダートイレを使いたいという人も同じことで、はっきりその理由を自分で説明できる必要はないはずです。
Q:オールジェンダートイレを使う人は「羞恥心」を感じても我慢させるのか。⇒A:いいえ。オールジェンダートイレが新設される場合、その構造は現状の男子トイレとは異なるものになるはずです。すべての利用者の安全とプライバシーに配慮された構造にリフォームするからこそオールジェンダートイレ新設の意義があるのです。それは、女性専用を減らしてオールジェンダートイレを主流にする構想の場合も同条件ではないのでしょうか。従って、女性専用を減らさず男性トイレを減らしてオールジェンダートイレを新設する場合に使用者に強いる我慢の程度は、女性トイレを減らしてオールジェンダートイレを使用させられる女性に我慢させる許容範囲内だと想定される程度の我慢になるでしょう。その我慢の程度が許容範囲外だとするなら、そもそもオールジェンダートイレ自体が全ての人に不適当ということになります。
Q:なぜ女性トイレはダメで、男性トイレはオールジェンダー化してもよいのか。→A:仮に安全とプライバシーに配慮された新設計になったとしても、オールジェンダートイレを使うことに抵抗を感じる人と、安全とプライバシーが確保されるなら抵抗を感じないという人の両方がいることでしょう。その割合を現状の男女別トイレの利用者ごとに比較すると、かなりの割合で女性トイレ利用者の側に抵抗を感じる人が多いだろうと予測しています。予測の根拠は自身の社会経験です。従事してきた介護の現場では、男性トイレに女性介護人が入室した時と女性トイレに男性介護人が入室した時の周囲の反応はかなり違います。また、高齢者の入浴介助でも、女性は男性よりも女性の介護人を好まれますが、男性は男性の介護人を特に好まれることはなく、女性の介護人を好まれる方も少なくありません。こういった不均衡はジェンダー規範によって期待される役割や性質がまだまだ根深いことを示唆しています。ジェンダー規範は無自覚なものも多く、強引に施設の数を同数にすれば是正されるものではありません。従って女性トイレを減らしても直ちに使用希望者数の変化は期待できず、女性トイレの混雑が増すことが予測されます。結果、女性トイレ使用者からオールジェンダートイレ設置者への不満が高まるだけで、かえってLGBTへの差別感情を補強する懸念があります。(今回の歌舞伎町のオールジェンダートイレの一件がそれを実証しています。)
 また女性の地位向上を目指すポジティブアクションの観点からも女性専用トイレを減らすことには反対です。元来、男女の間に社会参画や所得の格差があります。また性暴力の加害者として検挙されるのは圧倒的に男性が多いです。(注:被害者の男女比は被害の申告がしにくい性質上不透明です。従って加害実数も不透明ではあります。現在は男性から女性への加害が大多数と考えられていますが今後異なるデータが出るかもしれません。)性暴力は性欲より支配欲が根源だとする心理学の研究を踏まえ、女性の地位が向上することで性暴力の不均衡も是正される可能性が高いと推察します。こういった男女間の不均衡を是正するためには単純に男女の条件を平等にするだけでは不十分で、女性の地位を向上させるための積極的な施策、ポジティブアクションが必要です。例えば女子校の設置であったり、女性専用車両であったり、女性限定の雇用枠や奨学金などです。そのひとつが、単純に防犯を強化したオールジェンダートイレとは別に、従来からの性的な羞恥心に囚われている女性も社会参加しやすくするため、女性専用トイレは残すという案です。男女格差是正のためのポジティブアクションにどの程度トランスジェンダーを対象とすべきかは個別の制度によって異なり、細やかな議論と画一的ではない判断が必要です。オールジェンダートイレと男女別トイレの比率や設計も画一的には決められず、設置場所の性質によって細やかに判断されることを望みます。その場合も冒頭にあげたように、管理者側が特に女性専用トイレの使用対象者を明文化して告知することで、管理者が設置したルール(「出生時に女性であること」とはされない可能性も高く、現状と同じであれば「社会通念上女性と見なされている人」とされる場合が多いのではと予測しています。)での共有をしたくない女性は、より安全に設計されたオールジェンダートイレの個室を使用できますし、混雑やトラブルの苦情申し出先も管理者であることがより明確になります。


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