中国への「解像度」を上げていこう

中川コージさんの「紅い方程式 モンスター化する9000万人党組織の世界戦略」という本を読みました。

物々しいタイトルは一見、中国を動かす恐ろしい巨大組織の陰謀に迫る! みたいなもののようにも見えます。しかし実際には、そういった「実態の見えない恐ろしい組織」というような見方をできるだけ排除したうえで、組織戦略論をベースに中国共産党という「中国の運営組織」の姿を読み解こうとする良書でした。

まず中国共産党の成り立ちと構造を丁寧に把握し、それをベースに「党はある事象に対してどのような考え方を持ち、そしてどのような行動をアウトプットするのか」という原理(それこそがタイトルの「紅い方程式」と呼ばれるものです)が明らかにされていきます。

そこからは、「人権無視、権威主義のモンスター」などというオドロオドロしい形容だけでは決して片付かない、貪欲な生存本能に基づいた計算高い組織の姿が見えてきます。

中国、ならびに中国共産党のことを「わからないけどなんとなく怖い、でも中国について知っておかなきゃとはなんとなく感じている」という人に読んでもらいたいなと思える本でした。

なによりテーマに対して書き口が軽妙で読みやすいので、ある種の「中国共産党を理解する入門書」として最適ではないかと思います。

+++++

さて、この本や著者である中川コージさんのTwitterなどには度々「中国への解像度」というキーワードが出てきます。

中国というと、なんとなく自由や人権がなかったり、言論統制がすごかったりと、とにかく理解し難い社会構造を持っている、恐ろしい国として語られがちです。

特にコロナ禍以降、その傾向は顕著になりました。中国ではコロナウイルスの発生初期に深刻な感染拡大が見られて以降は、徹底した対策によってゼロコロナに近い状態を達成・維持していますが、それらのやり口は日本を含む西欧からは「人権無視だ」「独裁国家だからできることなんだ」と批判の対象となることが多いように思います。

そのような評価は部分的には正しいとしても、それだけでは絶対に捉えきれない部分もあります。意思決定やリソース分配、さらにはIT活用などの面で、中国のコロナ対策には特殊な政治体制を抜きにしても評価すべき部分は大いにあるように思います。同じことはできないにしても、日本からも参考にできる部分はあるはずです。

しかしこのような話をしても、その手前の「いや中国は特殊だから」というところで止まってしまって、そもそも耳を貸してもらえないという現状があるように思います。

「共産主義の国だから」「民主主義とは違う価値観だから」、ましてや「(西欧的な意味で)遅れた政治体制だから」「いつか破綻するものだから」というような雑なカテゴライズに中国を押し込め、中国への理解を大雑把なところで止めてしまうことは、日本という国やそこに暮らす個々人にとってもいい結果を生むとは思えません。それこそ「解像度」の粗い議論です。

アメリカがアフガニスタンから撤退し、タリバンが政権を取ったことを見てもわかるように、「西欧的ではないもの」の世界的なプレゼンスは大きく上昇しています。

そういった歴史の転換点の中で、「西欧的ではない」まま拡張を続ける中国を恐れ、警戒するにしても、まずはその実態をファクトベースで正しく捉え、高い「解像度」で語ることが重要なのではないかと思います。

(その反対として、近年高まる中国的なプレゼンスを「よきもの」として手放しに受け入れるようなことも、また同じく「解像度」の低い話です。中国的なものを受け入れるにしても、やはりその実態を高い精度で見ることが重要です)

+++++

そういった意味で、僕がnoteで毎日書いているようなことも、いちおう中国への「解像度」を上げる試みの一つかな、と思ってやっているところもあります。

まあ僕の書いていることは個人として中国に暮らして見えてきた実感をベースにしたことばかりで、むしろ解像度が高すぎて近視眼的になっているところもあるかと思いますが、それでもなるべく雑にならないように、公平な視点で日本の皆様に中国のことを紹介することを心がけています。

僕のnoteを、中国への「解像度」を上げることに役立てていただければ幸いです。

と、最後には結局自分のnoteを宣伝したところで本日はお開きです。また明日。

いただいたサポートは貴重な日本円収入として、日本経済に還元する所存です。