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上海の食料分配の不公平を生む「面子ウォーズ」とは

上海での封鎖措置が続いています。

捕捉される感染者数はいまだ増え続けており(確定例1,000人以上、無症状は数万単位)、いよいよ終わりが見えなくなってきました。

不満も高まっているようで、防疫担当者と地域住民が衝突する様子が連日のように流れてきます。

こういった極端な反応はごく一部ではあると思うのですが、これまで他の地域ではこのような情報が表に出てくることすらなかったことを考えると、上海で起こっていることの深刻さがわかるような気がします(上海の人々は情報リテラシーが他地域よりも高く、いろいろなことが漏れ出やすいというのもあると思います)。

お住まいの方におかれましては、少しでもご安全に過ごしてもらえるよう祈るばかりです。

深刻化する食料分配の不平等

さて、そんな疲弊する上海において、不満の種となっている大きな要素として「食料分配の不平等」が挙げられます。

今の上海は物流が滞っており、食料など必要な生活物資がなかなか入ってきません。運送業者などは上海への移動履歴がつくとその後の行動が大きく制限される可能性があり、大きなリスクを抱えるため、そもそも上海での荷下ろしが難しい現状です。そのため上海内で少ない物資を分け合わなくてはならず、慢性的な食料不足が起きています。

そんな中で、在住者の方や周囲の中国人から伝わってくる情報では、この少ない食料の分配にかなりの偏りがあるようです。自治体や小区(団地)によって余るほどの物資が届いたり、「別に困ってないのに海外メディアは騒ぎすぎ〜(笑)」というヘラヘラした動画を出して顰蹙を買っている人もいれば、今まさに食うや食わずの人のところにまだ食べ物が届かないケースがある……というように、極端な不平等が生じています。

なぜ、こうなってしまうのでしょうか。これまで厳しい封鎖措置や管理体制を敷いてきた中国なら、食料品の管理も徹底して厳しく、偏りが生じないようにすることはできないのでしょうか。

それなりに中国を理解するものとして、僕にはこうなってしまう理由がなんとなくわかります。以下は聞き及んだ話を総合した上での推測、仮説でしかありませんが、この状況の原因の一つと思われる事象について、書いてみたいと思います。

それはつまり、各自治体や社区(地域コミュニティ)などによる「面子ウォーズ」です。以下に説明します。

前提として、中国の意思決定の構造

「面子ウォーズ」自体の説明の前に、中国における意思決定の構造について触れておきます。

中央集権的なイメージを持たれがちな中国ですが、実は多くの場合、意思決定や行動選択においては個々の主体が権限を持っています。たとえば現状で言うと、コロナ対策の具体的な施策なんかはそれぞれの省など自治体に委ねられており、省は市や県などさらに小さな自治体に対策を委ね、またさらにそれぞれの地域が具体的なやり方を決めて動く……というような構造があります。

中央が何でもかんでも決めると言うよりは、中央は課題だけを設定し(コロナなら「感染者を増やすな」)、それを達成するために動いてみせろ、とやるわけです。下位部門は上位部門の意志を忖度し、最適な行動を取ろうとします。

偉い人が出てきて鶴の一声をかまし、上位部門の思う正しい方策を徹底させる……というような、日本の会社組織で頻繁にみられる「ちゃぶ台返し」的なことは、実はよっぽどのことがなければ起こりません。そうなるまでは、問題はあくまで下位部門が自力で解決すべきものとして扱われます。

今回起きている食料の不平等問題に関しては、まだ下位部門のレイヤーにあり、大きな権力を持つものが出てきて強権を発動するようなレベルの問題には至っていない。それが判断として正しいかどうかは置いておくとして、少なくとも上海における上位部門はそう考えているのでしょう。

つまり、この問題はまだ各々の主体、この場合は上海市内のそれぞれの自治体や、その中にある社区(地域コミュニティ)の管理者がどうにかしなければならないこととして扱われているわけです。

長くなりましたが、ここまでが「面子ウォーズ」の前提です。

そして始まる奪い合い

さて、このような構造の中で下位部門の人々は、なんとか自分の管理する範囲内の住民のみなさんのために、食料を調達してこなければなりません。

そこで、それぞれのリーダーがきちんと集まって、人口比や各々の状況に基づいて理性的に話し合い、適切な分配が行われる……のなら話は簡単なのですが、上述したように、現状は明らかにそうなっていません。

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