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少数民族政策の「成功」を自認する中国が、世界に突きつける問い

こんな記事を読みました。

中国・新疆ウイグル自治区における少数民族への迫害や同化政策など、人権に関わる問題について、中国ではそれらがある種の「善意」にもとづいて行われているということが、「新疆ウイグル自治区 共産党支配の70年」の著者である熊倉潤さんへのインタビューの中で述べられています。非常に重要なことが書いてあると思うので、一読をおすすめします。

「善意」によって際立つグロテスク

一連の問題がむしろ「善意」によって起きていることだというのは、僕自身が中国にいて見聞きし、感じることと一致します。

たとえば中央は、「中国は世界でもっとも少数民族政策に成功している国」を自認しています。これは中央の言説の端々に見られる表現であり、公式見解であると言っていいでしょう。

中华人民共和国成立以来的实践证明,中国的民族政策是成功的,走出了一条符合自己国情的解决民族问题和实现各民族共同发展、共同繁荣的的正确道路。

中華人民共和国は成立以来、中国の民族政策が成功したものであり、自国の国情にあった民族問題の解決と各民族の共同の発展と繁栄を実現するための正しい道を歩んでいることを、実践によって証明してきた。

上記サイト(中国政府網)より、翻訳は筆者

これらの言説の多くは海外、とりわけ欧米社会から自国の少数民族問題を指摘された際にフレーズとして出てくることが多いように思います。中国は中国の国情に合った少数民族政策を実施しており、しかもそれは上手くいっているのだから余計な口を挟むな、内政干渉だ、とやるわけです。

こういった言説はただの外交的な詭弁かと思いきや、市井の人々にも普遍的に見られるものです。たとえば僕の友達のとあるエリート君は、こんなことを言っていました。

少数民族ですか。うーん……難しい問題ですけど、政府はよくやっていると思いますよ。少数民族の文化を残しつつ、経済的に彼らが困るようなことがないように頑張っていると思います。

中国政府が彼らに対して干渉することを、よく思わない国外の人もいるのはわかるんですけど……少数民族の中にはあまりにも野蛮で、前近代的な習慣や制度を残してしまっている人たちもたくさんいます。ある程度は、中国による教育とか指導が必要だと思います。そうじゃないと、経済発展なんて望めないと思いますし。少数民族のほうが進んで受け入れている部分もあると思いますよ。

中央、ないし漢民族による指導は、「遅れた」少数民族の人々のための教育なのであり、彼らの利益のためになっているからこれはよきことなのだ、という発想がそこにはあります。

また、文化を消滅させようとしているのではなく、しっかり残そうとしている(現実には、そこには「それが中央の意向に沿ったものである限り」という但し書きがつくわけですが)のだから、別に悪いことではなく、むしろ「よきこと」ではないか、というロジックもよく聞かれます。

そもそも中国の人々にとって、融和と同化はワンセットの営みです。相手に自分の「よきこと」を与え、それを相手が受けとめることが融和のプロセスであるという価値観、そしてその包摂は常に「強者」が「弱者」を取り込む形で起こる、という規範意識。これらは、中国において普遍的な考え方です。これは僕自身、中国で外国人として暮らし、嫌というほど実感してきました。

そのような価値観が支配的であるからこそ、経済をエサにした同化の働きかけ、もしくはそれに少しでも賛意を示さないものを「不穏分子」「安定を乱す者」と決めつけた一方的な抑圧——国際社会からはそんなふうにしか見えないような少数民族に対する態度も、中国においては「よきこと」として肯定されうるのです。

冒頭の記事でも触れられている通り、中国において相手に同化を迫ることへの悪意のなさ、それが「よきこと」であると信じて疑わないことこそ、中国における少数民族政策を外側から見た時のグロテスクさを、かえって際立たせているという側面があります。

はたしてこれを、「成功」と言っていいのでしょうか。

西欧的価値観によって起こる分断への問い

いっぽうで、じゃあ多文化の共生や共同、異なる価値観を持ったものの共存を、本当にうまくやれた国や地域がこれまでにどれだけあったのか、どこが共存に「成功」しているのか……と考えると、はたと困ってしまうようなところがあるのも事実です。

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