ITストラテジスト DX実現の新サービス【論文の書き方】(令和3年春問1)
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、令和3年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し論文骨子を設計するところまでやっていきます。
※本記事は、メインである論文の書き方については無料で読めます。論文本文のみ有料部分なので、読みたい方は記事の購入またはメンバーシップの加入をご検討ください。
問題(令和3年問1)
過去問は試験センターから引用しています。
表題:『デジタルトランスフォーメーションを実現するための新サービスの企画について』
設問文は以下の通り。
何が問われているかを把握する
問題文を読むと第二、第三段落が問題文分量の大半を占めており、DXの例について書かれていることが分かります。
次いで第四、第五段落にDXの手順が述べられていることが分かります。
読み方としては第二、第三段落を読んで問題文が提示する具体的なDX像の事例をイメージし、第四、第五段落と照らし合わせて論述の骨子を見出すのがよいでしょう。
設問アは、背景にある「事業環境」「事業特性」「DXの取組の概要」が問われています。
問題文上には対応する箇所は無く、受験者自身が用意したシナリオで論述しましょう。
設問イは、DXを実現する企画の「ターゲットとした顧客とそのニーズ」「活用したデータとディジタル技術」が問われています。
問題文上で対応する箇所は第四段落です。
後述しますが、「ターゲットとした顧客」は従来の顧客とは別の顧客とすることが重要です。
設問ウは、「経営層への提案、評価、改善策」が問われています。
問題文上で対応する箇所は第五段落です。
まとめると問われていることは次の通りです。
出題要旨と採点講評からの分析
試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して出題の意図と論述のNG例を把握します。
出題要旨
出題要旨の2段落目に、
を求められているとあります。
設問イで問われていることであり、設問に沿って回答しないと減点対象となるでしょう。
また
を求められているとあります。
設問ウで問われていることの一部であり、経営層へ提案するにあたり具体化の道筋を意識することが重要であると考えられます。
採点講評
「全問共通」の採点講評からは、
とあります。
論文用紙の前にある、下の画像のような論述の概要を記載する用紙ですね。
試験センターも明確に「評価の対象」と言っているので、手を抜かずに記入しましょう。
聞かれる項目はほぼ毎回同じなので、予め回答を想定して準備しておきましょう。
問1の採点講評では、中段にNG例が記載されています。
既存の業務の延長となるようなシステム化ではNGということです。
ではどのようなケースがDXとしてOKなのか、という点ですが、採点講評の中でも次の表現があるので引用します。
試験センターとしてはDXの例としてさまざまな情報を発信しているのでキャッチアップするようにしましょう。
論文を設計する
問われていることの概略を把握したら自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめてどのように論述を展開するかを設計します。
設問アの設計
設問アは「事業環境」「事業特性」「DXの取組の概要」を問われています。
設問アの執筆に着手する前に、設問イで触れることになる「DXを実現する新サービスの企画」の骨子は作っておきましょう。
まずは問題文の事例を確認しましょう。
①倉庫会社と②測量機器メーカの事例が述べられています。
問題文中の事例を確認して論述対象の業界や業種をイメージしたら、まずは設問イで詳しく書くことになる「活用したデータ」「ディジタル技術」「ターゲット顧客・ニーズ」の骨子を決めるのがよいでしょう。
設問イの骨子を決めたら、なぜそうしたかの”根拠・理由”として設問アの「事業環境・事業特性」を決めます。
上図の場合、設問イでどのようなDXを実現するかの骨子に対して、設問アの事業特性として「顧客のこだわりに応えたきめの細かい家事サービスに対応」できるという強みを設定しました。
設問アで強みを論じることで、のちの設問イで、なぜ「従来顧客のデータ」を活用するのかの根拠としています。
また設問イで「新たな顧客のニーズ」として「A社の知名度と営業力」を設定していますが、説得力をあげるために設問アで「A社が業界大手でシェアが高い」などの事業環境を述べておくような工夫も加点対象となるでしょう。
設問アの後半で「DXの取組の概要」について触れる必要がありますが、どこまで述べるべきかは少し悩むかもしれません。
執筆スタイルにもよると思いますが、ここでは2つの案を提案します。
案① 問題文に沿って「~というDX」という表現で論述する
問題文の2つの事例では以下の表現があります。
このように「~というDX」という表現で論述するというものです。
案② 設問イで触れる各要素について一通り触れる
設問イでは「活用したデータ」「ディジタル技術」「ターゲット顧客・ニーズ」について詳しく論じる必要がありますが、一通り触れるというものです。
問題文中の事例の段落(第2, 第3段落はそれぞれ200字強の分量)の書き方を参考にするのも良いと思います。
設問アの骨子の例をまとめます。
設問イの設計
設問イでは「ターゲット顧客・ニーズ」「活用したデータ」「ディジタル技術」について詳しく述べる必要があります。
どの順序で書いてもよいですが、上述の順序で書くのが書きやすいと思います。なぜならば要件(概要)→設計(詳細)の順序となるためです。
ターゲット顧客・ニーズ
ターゲット顧客は「従来の業種・業態における顧客とは異なる新規顧客」を設定する必要があることに注意してください。
問題文中の事例では次の関係になっています。
このことから設定すべきターゲット顧客は従来の業種・業態の延長線上や単なる捉え直しでは趣旨に合わないと言えます。
家事代行サービスを例にとると、従来顧客像が30~40代のファミリー世帯に対して新規顧客像を20代の単身世帯などに設定してはならないということになります。
(このレベルのターゲットの捉え直しではDXにも繋がらないと考えられます)
DXの例として、新旧のビジネスモデルを下に図示します。
従来顧客に対して、新顧客(家事代行サービスを営む個人事業主)を設定しています。
A社としては仲介プラットフォーム業に変革しています。
ニーズについては
「A社の知名度と営業力 が個人事業主には無いため(個人のニーズ)」
「多様な働き方(ギグワークなど)を社会が求めているため(社会のニーズ)」
などを述べることとなります。
活用したデータ・ディジタル技術
実現するDXによって様々な回答が考えられますが、家事代行サービスA社の場合について回答をします。
まず、新ビジネスモデルを再掲します。
活用したデータは「従来顧客のプロファイル・利用サービス」などです。このデータの蓄積はA社の強み(競争力の源泉)であり、設問アの「事業特性」でも触れていた部分です。
論文としては、(なぜそのデータを活用したか)の理由としてA社の強み(競争力の源泉)であるからと述べるのが説得力のある展開となります。
採用したディジタル技術は
・AI技術(機械学習)
・スマートデバイスにインストールするアプリ
です。
前者については、クラウドサービスのマネジメント型のサービスを利用したと述べると現実的で良いと思います。
設問イの骨子の例をまとめます。
設問ウの設計
設問ウは「経営層への提案、評価、改善策」が問われています。
注意したい点として、問題文に以下の記述があります。
したがって、経営層から提案内容を評価された後で、収益モデルやリスク対応策を検討しても遅いことになります。
先に検討して提案に臨むことが求められます。
たとえば
社内に採用する新技術のノウハウが無いので協業先の候補をした
新サービスの市場への普及方法を検討した
などを経営層への提案に盛り込んだことを論述します。
経営層からの評価の例としてはITストラテジストが単独では解決しづらい指摘を受けるようにすると、論述しやすいと思います。
たとえば
協業先の選定には財務状況などの与信調査を行うこと
仲介手数料の料率は、収益予想を明確化し財務目標と整合性をとること
といった指摘です。
逆に上述の指摘をITストラテジスト単独で活動して解決するような動きをすると、「動きすぎ」となり、試験センターが求めるITストラテジスト像から逸脱してしまうので注意してください。
改善策として、購買部・財務部・人事部などと連携を取り、調整してサービス企画を肉付け・改善したと結べば良いでしょう。
論文骨子
以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
本記事ではITストラテジストの午後II(論文)対策として、令和3年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
DXを全面に押し出す、当時としては新傾向の出題であったと思います。今後もしばらくは1問はDX系が出題されると思いますので、狙い目とする方は類題を解いて練習を重ねてください。
私自身の受験記もまとめているので合わせて参考にしてください。
■ITストラテジストの合格秘訣まとめ■
今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。
ではそれまで。
論文全文について
ここまででも十分考え方はお伝え出来たかと思いますが、論文全文を参考にされたい方は有料とはなりますがこの先をご購入ください。
※なお、メンバーシップ(ITストラテジスト合格支援コース 月額800円)にご加入いただければ本記事以外のST対策有料記事も読み放題となり、さらに専用フォームからのご質問もし放題となります。ぜひご検討ください。
■設問ア
1.事業環境、事業特性、DXの取組の概要
1-1.事業環境と事業特性
A社は首都圏の居住者向けの家事代行サービスを営ん
でいる。掃除・洗濯・片付け・買い物代行などに対応し
ており、ヒアリングやアンケートを通じて顧客のこだわ
りに応えたきめの細かい家事サービスに対応しているこ
とが売りである。
昨今の事業環境として、ギグワーカーなど多様な働き
方の台頭により個人事業形態で家事代行事業に参入する
競業が増えており、顧客獲得数が鈍化している課題があ
る。A社の経営陣は従来通りの経営では早晩立ち行かな
くなることを経営課題とし、次に述べる事業目標を中長
期経営計画に盛り込んだ。
・これまで培ってきた家事代行サービスの強みを活か
し、従来の枠組みを超えた新たな事業を創出し新顧
客の獲得を狙う
私はA社のITストラテジストとして、中長期情報シ
ステム化構想の立案に取り組んだ。
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