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ITサービスマネージャ 災害に備えたITサービス継続計画【論文の書き方】(令和4年春問1)

本記事ではITサービスマネージャの午後II(論文)対策として、令和4年問1で出題された過去問を分析します。
実際に論文を書く上での考え方を整理し論文骨子を設計するところまでやっていきます。

問題(令和4年問1)

過去問は試験センターから引用しています。
表題:『災害に備えたITサービス継続計画について』

設問文は以下の通り。


何が問われているかを把握する

問題文を読むとITサービス継続計画の作り方について述べられていることが分かります。
問題文の中段に①②③で書かれていることが、ITサービス継続計画の具体的な策定方法です。
一方、設問文を見てみると設問アは例年の通りの「あなたが携わったITサービスの概要」に加え、作成手順の①②が対応していることが分かります。

①はITサービスに影響を与える事態
②は事業への影響

ですね。

設問イが③に対応しています。
③には、対応策の作り方として目標に従って決定するべきと書かれています。

また設問文にしか書かれていないこととして、その対応策が妥当であると判断した理由も問われています。
まとめると、設問イは目標、対応策、妥当性が問われています。

設問ウの前半部分は定型的な質問で、「評価」を書くものです。
後半部分は今後のITサービス継続計画の見直し・改善活動が問われています。

おしなべて、BCP(事業継続計画)の問題であり、テーマとしてはオーソドックスな内容といってよいと思います。


強いて注意点があるとすれば問題文の中段③の中に、

「目標復旧時間、目標復旧時点、目標復旧レベル」

という目標の具体的な指標が例示されているところです。
設問イをはじめ目標を論述する箇所はこれらの指標は意識して採用した方がよいでしょう。


まとめると問われていることは次の通りです。

設問ア
 ITサービスの概要
 ITサービスに影響を与える事態
 事業への影響
設問イ
 ITサービス継続計画の目標
 ITサービス継続計画の対応策
 対応策の妥当性
設問ウ
 ITサービス継続計画の対応策の評価
 ITサービス継続計画の見直しと改善活動



出題要旨と採点講評からの分析

試験センターから公表されている出題要旨と採点講評を確認して出題の意図と論述のNG例を把握します。


出題要旨

採点講評

出題要旨の2段落目の1文目は、設問ア~ウで問われていることを単に列挙したものです。
具体的には本記事の前節のまとめ部分と同じなので、確認したい方はそちらをご覧ください。

採点講評の1文目には以下の記述があります。

日頃から、災害に備えたITサービス継続計画の策定に関わっている受験者にとっては取り組みやすいテーマ

これは実際の組織では災害や他社の障害事例を目にするたびに対策するので、取り組みやすいテーマでというのはその通りだと思います。


また同じく1文目に"良かった点"として

顧客の事業継続計画の目標を正しく理解
ITサービスの特徴を踏まえた適切な対応策

という文があります。


前者の文は、「事業継続計画」と「ITサービス継続計画」を分けて考える必要があることが示唆されています。
紛らわしいですが問題文にもこの2つは明確に使い分けがされており、混同すると減点対象となるでしょう。

最も大きな違いは、事業継続計画は顧客(利用部門・経営陣など)が策定するのに対し、ITサービス継続計画はITサービスマネージャが策定するという点です。


後者の文は、対応策がITサービスの特徴を踏まえている必要があることが読み取れます。
設問アで述べるITサービスの特徴を踏まえて、設問イで対応策を論述する必要があります。


また、採点講評には以下のNG例に関する記述があります。

ITサービス継続計画の目標を論述せずに対応策だけを論述したもの
ITサービス継続計画の目標と対応策が整合していない論述

ここから、ITサービス継続計画には目標ありきで対応策を策定することが重要であることが読み取れます。
目標と対応策は設問イで問われる内容ですが、設問文にもある通り対応策の妥当性についても論述する必要があります。
妥当性を示すために目標との対応付け(整合性)が必要と考えられます。


本問題のポイントは、対応策の妥当性にあります。

妥当性を示すために目標に言及し、その目標を設定した理由が設問アで分析した災害事象や影響を極小化するためという形で論文全体で整合性をとることが重要でしょう。


論文を設計する

問われていることの概略を把握したら自身の経験や用意してきた論文パーツに当てはめてどのように論述を展開するかを設計します。


設問アの設計

設問アは「ITサービスの概要」「ITサービスに影響を与える事態」「事業への影響」について問われています。

採点講評の1文目を思い出してください。設問イで書くことになる「対応策」は「ITサービスの特徴」を踏まえる必要があります。
たとえばそのITサービスがすでにクラウド上で構築されているのに対応策が自社内の停電時について書かれているような論述は適切でないことが分かります。

またシナリオとして「私」がユーザ企業にいるかアウトソース先の企業にいるかを決める必要がありますが、今回のケースではアウトソース先の企業にいると若干書きづらいのではないかと思います。
理由は、よく似た言葉ですが、「事業継続計画」と「ITサービス継続計画」を分けて理解して論述する必要があるためです。

「事業継続計画」はユーザ企業(利用部門)の立場で論述しなければいけないのに対し、「ITサービス継続計画」はITサービスマネージャの立場で書かなければなりません。
もしも「私」がアウトソース先の企業にいる場合は、ユーザ企業の「事業継続計画」に対してアウトソース先の企業として提供している「ITサービスの継続計画」を論述する必要がありますが、その関係性を論述しようとすると設問アの文字数が足りなくなる恐れがあるからです。


1-1. ITサービスの概要

ここではITサービスの具体的な内容(システムの運用管理、運用業務、サービスデスクなど)に加え、のちの「対応策」を意識した特徴を入れることが必須です。

問題文の2段落目に

ITサービス継続計画には、ITサービス継続要件を実現する
対策実施、教育訓練、維持改善、緊急時対応が含まれる

とあり、「対策実施」を含んでいますので、この時点では対策前のITサービスを記述するのが書きやすいと思います。

のちにシステムを冗長化して可用性をあげることを対応策とするなら、この時点では「冗長化されていない」ことを明示したり、のちにデータを遠隔地に退避させることを対応策とするなら、この時点ではデータもシステムと同じ所に存在しバックアップもないことを明示したりします。

私の場合はのちに「バックアップサイトをデータセンタに構築する」ことを対応策とするために

ITサービス(基幹システムの運用管理とサービスデスク)が本社に構築され本社にのみ存在する

という特徴を入れました。


1-2. ITサービスに影響を与える事態

前節のITサービスの特徴を受けた内容にします。

私の場合は

本社の被災

という内容を入れました。

この節(1-2.)は次の節(1-3.)と合わせて論述しても問題ないと思うので、文章量が少なく感じる場合は節の設計を検討しましょう。


1-3. 事業への影響

この節も顧客への影響や目標を理解しているかをアピールする上で採点上重要なポイントです。

設問イにはITサービス継続計画の目標を記載する必要があるので、この節の書き方としては、

  • その目標を達成できなければどうなるかという逆算的なアプローチ

と、前節からの流れで

  • ITサービスに影響を与える事態が発生したら事業がどうなるかというアプローチ

の両方から考えるとよいでしょう。


またポイントとしてはITサービスやシステムの観点ではなく、システムを利用する利用者の立場にたっての影響を記載する必要があります。
ですのでたとえば

  • ○○システムが2時間使えなくなる

のではなく

  • ○○業務が2時間停止する

と書く必要があります。
言いたいことは同じようでも、ここを混同すると関係者間の立場を理解してないととられ減点対象となるでしょう。


私の場合は1-1.で書いたITサービスが2つあるのでそれぞれ、

基幹システムの長時間停止による販売業務停止
サービスデスクの停止による社員と顧客の満足度低下

としました。


設問イの設計

問題文の中段の③が対応していることと、設問文に「対応策が妥当であると判断した理由」を含めるという指定に注意して論文を設計します。

③を注意深く読むと、

事業継続計画で定めた目標(目標復旧時間、目標復旧時点、目標復旧レベル)に従って決定し、ITサービス継続計画に反映する

とあるので、設問からは指定されていませんが、まず「事業継続計画」の目標を書いた上で「ITサービス継続計画」の目標を書くのが分かりやすいと思います。

論文上は、一例として

2-1.節 ITサービス継続計画の目標(冒頭に事業継続計画の目標も書く)
2-2.節 ITサービス継続計画の対応策(対応策ごとに妥当性を書く)

と書くとよいでしょう。
書く方の書きやすさによっては「事業継続計画の目標」や「妥当性」の節を分けて書くのもよいでしょう。


2-1. ITサービス継続計画の目標

設問アの1-3.の事業への影響を受けて、その影響を極小化するための目標を設定します。

私の場合はまず事業継続計画の目標を書きました。

①販売業務の半日以内の再開
②サービスデスクの停止を理由にした顧客満足度の低下をさせない

繰り返しになりますがこの目標は利用者(経営者)の目線で書く必要があり、ITサービスマネージャとしては主体的に策定するものではなくインプットされるものと理解しておくとよいでしょう。

次にITサービス継続計画の目標を書きますが、私の場合はここで目標復旧時間、目標復旧時点、目標復旧レベルの観点を入れました。

この観点は具体的で詳細になればなるほどシステム寄りの対応策が講じやすくなるので、ITエンジニア・担当者としての能力をアピールするのに最適な部分だと思います。


例えば、以下の要領です(私の場合)。

①販売業務の目標復旧時間:12時間以内
 目標復旧時点:被災時点の販売データからシームレスに業務再開
 目標復旧レベル:在庫限りの販売を再開。仕入れ販売は物流復旧のちに再開。
②サービスデスクの目標復旧時間:即時
 目標復旧時点:被災時点の対応データからシームレスにサービス再開
 目標復旧レベル:平常時と同等

番号は事業継続計画の目標と対応づけをしておくと採点者にとって理解しやすくなります。

また実際には休日・夜間の場合はどうなるかなど、具体的な経験をしている方であればあるほど書き込みしやすい部分でもあると思うので、紙面が許せば経験をアピールするためにも場合分けを書き加えておきましょう。

たとえば、営業日に限るなどの注釈をいれたり、休日・夜間の対応も念頭にいれて逆算したと目標の設定プロセスを書いたりなどが考えられます。


2-2. 対応策とその妥当性

本問題の中心となる節です。
対応策を列挙するだけではなく、なぜその対応策が妥当なのかと言う理由を盛り込む必要があります。
さらに目標との整合性も意識しましょう。

構図としては、

  • 対応策が○○である。

  • なぜ○○を策定したかというと目標△△を達成するためである。

という展開を意識すればよいと思います。


また対応策は設問アで触れたITサービスの特徴も踏まえている必要があります。
これについては設問アの節で注意した通りです。

問題文として触れられている表現としては、第二段落に

ITサービス継続計画には、ITサービス継続要件を実現する
対策実施、教育訓練、維持改善、緊急時対応が含まれる

と書かれており、このうち維持改善は設問ウで問われるので対応策としては「対策実施」「教育訓練」「緊急時対応」が挙げられています。

具体例は問題文中段の③の中に

災害発生時のサービス代替手段の準備
重要データの遠隔地保管 復旧手順の策定 災害発生に備えた教育訓練の定期実施

などが挙げられているので、ここから自分の経験に照らして書きやすいものを2 ,3ピックアップして書くのがよいでしょう。


私の場合は、次のように設計しました。

①-1.基幹システムのバックアップサイトをデータセンタに構築
 Webシステムはコールドスタンバイ、
 データベースは目標復旧時点を達成するためホットスタンバイ。
①-2.バックアップサイトへの切り替え訓練を計画
 目標復旧時間を達成するため年に一度実施。
 休日・夜間であっても対応できるように
 定期的に手順を確認する。
②.サービスデスクを複数の拠点に分散する
 目標復旧時間を達成するため本社と支社に分散配置。
 担当者が共有する対応データはすでにデータセンタ上の
 個別システムで管理され済み。

論述のテクニックとして丸番号は目標と対応付けています。
①-1.①-2.と分けているのは目標①に対して対応策が2つあることを紐づけて論述するためです。

分類すると①-1.と②は問題文でいうところの「対策実施」にあたり①-2.は「教育訓練」にあたります。

「対策実施」はITサービスマネージャのみで行うのではなく、システムアーキテクトやプロジェクトマネージャーの範疇になってくるITシステムの開発部隊と連携して対策を実施した、と書くと立場と役割を理解していることのアピールになると思います。

「教育訓練」は訓練をどの頻度で実施するか、具体的な頻度を数値で論述する必要があるでしょう。


また太字で表現していますが目標○○を達成するためと書いてある部分が妥当性の説明になります。


たとえばなぜ(対応策が)ホットスタンバイなのかというと、その理由(妥当性)は目標復旧時点を満たすため、という構造になるように論述します。



設問ウの設計

設問ウで問われていることは

  • 設問イで述べた対応策の評価

  • ITサービス継続計画の見直し、改善の活動

の2点です。

前者は典型的なやったことの振り返り型の設問ですが後者は問題文から意図を読み取る必要があります。


3-1. 対応策の評価

ITサービス継続計画を策定してしばらく運用した時点を想定し、その間、結果がどうだったかというように展開するとよいでしょう。

ヒントとしては1-2.節と1-3.節で述べた

  • ITサービスに影響を与える事態が実際に発生したか

  • 実際に発生したなら業務への影響は極小化できたか

といった観点を盛り込むとよいでしょう。

「災害は発生しなかった」ですと紙面が余るので、具体的にITサービス継続計画の対応策が発動して、事業への影響を抑え込めた、ということを書くとよいと思います。


私の場合は次のことを書きました。

想定していた被災事象が一度発生。5時間で業務再開でき、目標達成。


3-2. 見直しと改善

問題文の第二段落にある

ITサービス継続計画には、ITサービス継続要件を実現する
対策実施、教育訓練、維持改善、緊急時対応が含まれる

という文の維持管理が対応します。また最終段落に

社会環境の変化、技術動向などによって事業への影響も変わる

という文があるので、念頭に置いてITサービス継続計画を見直す活動を論述しましょう。


私の場合は次のことを書きました。

ソフトウェアやファームウェアのアップデートに伴う切り替え手順の更新。
事業継続計画の目標や対象の見直しに追随。

後者の具体例としては、たとえば本社への依存度を下げる事業方針に追随してバックアップサイトの方を本社にする、ですとか、異常気象を想定してバックアップサイトも同時に被災するケースにも対応する、などが考えられます。



論文骨子

以上を踏まえ、論文骨子は次のようになりました。

1.ITサービスの概要、サービスに影響を与える事態、事業への影響
 1-1.私が携わったITサービスの概要
 衣料品の卸売業者。基幹システムの運用管理とサービスデスク。
 基幹システムは本社に構築されている。サービスデスクも本社にある。
 1-2.ITサービスに影響を与える事態
 本社の被災。
 1-3.分析して評価した事業への影響
 基幹システムの長時間停止による販売業務停止。
 サービスデスクの停止による社員と顧客の満足度低下。
2.事業への影響を極小化するためのITサービス継続計画
 2-1.ITサービス継続計画の目標
 事業継続計画の目標
  ①販売業務の半日以内の再開
  ②サービスデスクの停止を理由にした顧客満足度の低下をさせない
 ITサービス継続計画の目標
  ①販売業務の目標復旧時間:12時間以内
   目標復旧時点:被災時点の販売データからシームレスに業務再開
   目標復旧レベル:在庫限りの販売を再開。仕入れ販売は物流復旧のちに再開。
  ②サービスデスクの目標復旧時間:即時
   目標復旧時点:被災時点の対応データからシームレスにサービス再開
   目標復旧レベル:平常時と同等
 2-2.対応策とその妥当性
  ①-1.基幹システムのバックアップサイトをデータセンタに構築
   Webシステムはコールドスタンバイ、
   データベースは目標復旧時点を達成するためホットスタンバイ。
  ①-2.バックアップサイトへの切り替え訓練を計画
   目標復旧時間を達成するため年に一度実施。
   休日・夜間であっても対応できるように定期的に手順を確認する。
  ②.サービスデスクを複数の拠点に分散する
   目標復旧時間を達成するため本社と支社に分散配置。
   担当者が共有する対応データはすでにデータセンタ上の個別システムで管理され済み。
3.ITサービス継続計画の対応策の評価、見直しと改善
 3-1.対応策の評価
  想定していた被災事象が一度発生。5時間で業務再開でき、目標達成。
 3-2.見直しと改善
  ソフトウェアやファームウェアのアップデートに伴う切り替え手順の更新。
  事業継続計画の目標や対象の見直しに追随。



まとめ

いかがでしたでしょうか?
本記事ではITサービスマネージャの午後II(論文)対策として、令和4年問1で出題された論文の書き方を紹介しました。
障害対応や未然防止策は頻出の分野です。
障害に起因する火消しの対応や再発防止策の策定に携わった方は書きやすいと思いますので、論文という形に落とし込む練習を重ねてください。

自分の苦労談を論文という形で表現できるようになれば実務上のマネジメントにも役に立てることができると思います。

今後も、【論文の書き方】記事を充実して参ります。


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