悪魔の試み
悪魔の武器
悪には，3つの武器があります。
第一に「必要」です。貧困や病気によって，悪は人を惑わすのです。共産主義を提唱したマルクスは，この武器に惑わされ，悪に陥落してしまいました。
第二に「善」です。霊的に人を安心させ，罪を忘れさせるのです。極端な霊的哲学を説いたソロヴィヨフは，この武器に惑わされ，最後には厭世主義に陥りました。
第三に「不当な運命」です。世の不条理を嘆いたイワン・カラマーゾフ(ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」)は，この武器に惑わされて，絶望という名の無間地獄に陥りました。
彼らだけではありません。多くの知恵ある人々，多くの優秀な人々が，これら三大兵器によって悪の軍勢に敗れました。ニーチェは「必要」によって超人主義に陥り，カール・バルトは「善」によって(観念的な)キリスト中心主義に陥り，ライプニッツは「不当な運命」によって極端な楽観主義に逃避しました。
第一の誘惑
悪魔は，すべての人を試みます。人間は是非とも，この試みに打ち克たねばなりません。では，どうやって悪魔は人間を惑わすのでしょうか？第一に「肉の誘惑(必要)」です。つまり，食欲・性欲・快楽の誘惑です。こうした肉的欲求―主に情欲―により，人をして神を忘れさせるのです。
肉の誘惑に打ち克つ道は何でしょうか？
「神の言葉によって生きよ！」
この世の食物や快楽を頼りにせず，神の言葉(聖書)に立脚して生きる時，人間は第一の誘惑に打ち克つことができます。
第二の誘惑
肉の誘惑に失敗した悪魔は，次なる攻撃を仕掛けます。それは「霊の誘惑(善)」です。つまり，霊的名誉心をくすぐり，信仰によって人間を傲慢にするのです。「俺は信仰によって救われた。俺はもはや神の側にある。つまり，俺は凡人より一段高い境地にいるのだ！」こうした霊的高慢により，人をして世界を忘れさせるのです。
霊の誘惑に打ち克つ道は何でしょうか？
「神を試みるな！」
自分が特別な存在だから，救われたのではありません。神が特別な存在だから，救われたのです。信仰を与えられた者は，神に感謝こそすれ，神と同じ側に立つことはできません。むしろ，より一層，己の罪と向き合わねばなりません。神の前に完全に謙る時，人間は第二の誘惑を斥けることができます。
第三の誘惑
霊の誘惑に失敗した悪魔は，最終かつ最大の攻撃を仕掛けます。それは「完全な誘惑(不当な運命)」です。つまり，世の不条理に注目させ，神を恨み世を恨み，人間を目の前の苦悩から逃避させるのです。「なぜ，祖国に尽くしたソクラテスを，同国人は殺したのか？なぜ，神のために生きたイエスを，神は見捨てたのか？なぜ，善良に生きた多くの人々は，不遇な生涯を送らねばならぬのか？」こうした嘆きと共に，人間をして神に反逆せしめるのです。すなわち，正義の不在により，人をしてキリストを忘れさせるのです。
完全な誘惑に打ち克つ道は何でしょうか？
「神のみに仕えよ！キリストに従え！」
悪魔の目論見は，この世の不条理を私たちに見せて，「苦悩すること，己の十字架を負うこと」を回避させることです。世の不条理を嘆く人間は，知らず知らずの内に，世界の傍観者と化します。しかし，人間は世界の乗組員であって，世界の乗客ではありません。すべての人間は，世界の改善に主体的に参与するよう，神に召されているのです。そして私たちは，苦悩の道，十字架の道を進む時，完全な誘惑に打ち克つことができます。
悪に勝つ道
私たちは，旧約の預言者やイエス・キリストの如き霊的眼光によって，悪の策略を見抜かねばなりません。悪魔の目的とは何でしょうか？第一の誘惑は，神性を忘れさせることです。第二の誘惑は，人性を忘れさせることです。第三の誘惑は，神人性を忘れさせることです。いずれにせよ，神と世界のために十字架の道を進んだキリストへの服従，これのみがサタンに勝利する道です。悪はただ，イエス・キリストの誘惑の中で勝利できるのです。
そして，悪魔の誘惑に打ち克った時，不可知な世界から聖霊が降り，私たちを勇気づけてくれます(ルカ伝22－43)。では，聖霊は私たちに何をもたらすのでしょうか？第一に「思考」です。決して思考停止に陥らず，常に思考し続ける理性です。第二に「行為」です。目の前の現実から逃げず，具体的に行動する力です。第三に「忍耐」です。どんな不遇に直面しようが，決して諦めない堅忍不抜の意志力です。第四に「希望」です。すべての人に無視されても，どんなに失敗しても，決して自暴自棄にならない陽気さです。最後に「勇気」です。堕落したこの世，小人が蔓延るこの社会を突破する大胆不敵さです。
神は，ある特定の人々に，特別な能力を授けるかもしれません(前世を見抜くとか，病気を癒すとか)。しかしながら，それは例外であって，決して誇るべきものでも，望むべきものでもありません。聖霊がすべての人に与えるもの，キリストの霊が万人に授けるもの，それは思考・行為・忍耐・希望・勇気であると，私は考えています。
「キリストは苦しみ試みられたからこそ，試みられる者たちを助けることができる」(ヘブライ書2－18)
以下は参考書籍です。
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