まちづくりに必要なのは、"まちの係活動"なのかもしれない。
さまざまなまちづくりのプロジェクトで、部活動をモチーフとした「◯◯部」が増えています。その先駆けとなったのが、2012年にスタートしたみなさんご存知の「前橋◯◯部」です。
◯◯の中に、自分の好きなモノ、趣味、食べ物を入れて誰でも部活を立ち上げることができるという画期的な仕組みで、グッドデザイン賞を受賞した2015年時点で、前橋ワイン部、前橋ジオラマ部、前橋除雪部など約130もの部活が立ち上がり、全国各地での"ご当地〇〇部"が発足しました。
もともと好きなことが一緒な仲間たちとゆるく楽しむものでしたが、前橋で記録的な大雪に見舞われた2014年には、まちの非常事態のために自ら動こうと「前橋大雪たすけあいセンタ-」が発足。結果的に、まちが自分ごととなり、まちづくりに積極的に関わりたいという思いを持った人たちがたくさん増えていたことが明らかになったのでした。
ちなみに、前橋をモデルとした"ご当地◯◯部"は、2019年時点で全国60箇所まで広がったものの、ほとんど長続きはしなかったそう。とはいえ、まちづくりの気軽な入り口として、いまでも"部活動"というモチーフそのものは十分に有効だと思います。
いま係活動がアツい
こうして"まちの部活動"が定着したからこそ、これからのまちづくりにおいて提案してみたいのが"まちの係活動"です。
◯◯部も◯◯係も、あるいは掃除や給食などの◯◯当番も、学校生活では当たり前です。それぞれ異なる役割があるからこそ、「係を押し付けられたなあ...」「当番ってイヤだったなあ...」というふうに、嫌な思い出を持っている人もいるかもしれません。
部活動はどちらかというと自分で選択し、自分やチームの成長のために打ち込むものです。一方、当番活動は、進んでやりたいことではないけれど、クラスのためには誰かがやらなければいけないことであり、基本的に全員で分担します。
では、係活動とはどんなものでしょうか?
僕が過ごした時代には生き物係くらいしか記憶にありませんが、いま改めて「係活動」で検索してみると、保健係や新聞係はもちろん、誰かの記念日をお祝いするお祝い係や飾り付け係、クラスを盛り上げるクイズ係や占い係、クラスメイトにアンケートをして集計結果を発表するランキング係などユニークなものばかり。
そう、いまや係活動は、クラスがさらに良くなるために必要なことを自分たちで考え、作り出す活動という、とても魅力的な位置づけにあるのです。
部活動と係活動の最大の違いとは?
ここで稚拙ながら「能動的/受動的」「プライベート/パブリック」というシンプルな2軸で、学校生活としての部活動、係活動、当番活動と、塾やお稽古といった習い事を分類してみたいと思います。
ちなみに部活動は、能動的でも受動的でもあり、プライベート(自分の成長のため)でもパブリック(学校のため)でもあり、人によってグラデーションがあるので特殊なポジションです。
まず、能動的/プライベートが「やりたい習い事」です。きちんと月謝も払い、夢に向かって邁進する、そんな感じですね。一方、「受動的/プライベートが「やらされている習い事」です。親の願いが押し付けになってしまうと悲惨です。
次に、受動的/パブリックが「当番活動」です。誰かがやらなければいけないのだから、仕方ありません。とはいえ、「誰でもいいこと」だからこそモチベーションが上がらない、ということもあるのかもしれません。
そして、能動的/パブリックが「係活動」です。自分の知識やスキルを発揮しながらも、主たる目的があくまでクラスがさらに良くなることというのが部活動との大きな違いです。
これらをヒントにまちづくりに応用してみると、習い事は個人の知識やスキルの研鑽にあたり、素晴らしいことではあるけれど、社会性はどうしても薄まります。当番活動は持ち回りになることが多いPTAや町内会の役員にあたるかもしれません。(もちろん積極的に取り組まれている方もいらっしゃるので、あくまでイメージです)
また、部活動は、有事のときにはそこで育まれたつながりはとても強力ですが、"まちのため"といったパブリックな目的を強調することはあまりないように感じています。逆に言えば、参加するときの敷居の低さこそ"まちの部活"の最大の魅力なのです。
では、"まちの係活動"とはどんなものなのでしょうか。それは、まちがさらに良くなるために必要なことを自分たちで考え、作り出す活動です。
例えば、まちの生き物係で、動植物を守るためのクリーンアップに参加したり、まちの保健係であれば、近所に住む高齢者の方の体調に気を配ったり... いや、もっと気軽にまちの挨拶係として毎朝小学生に声をかけたり、まちの地図係として、観光客を道案内してもいいかもしれません。
もちろん前橋ワイン部や前橋ジオラマ部が、そのまま前橋ワイン係や前橋ジオラマ係として、新たにまちがさらに良くなるためのプロジェクトを立ち上げるというのも素敵ですね。
まちづくりのプロジェクトを考えるときに、いまの仕事(do)を無理に組み合わせようとするだけでなく、こうした"まちの◯◯係"という(be)を棚卸しすることで、よりユニークで本質的な発想ができるのではないでしょうか。
この8月はそんな仮説をもとに、いずみ市民大学(大阪府和泉市)、秋田・ソーシャルデザインの学校(秋田県秋田市)、ふるさとワーホリ(奈良県川上村)といった地域プロジェクトや、東北プロボノプロジェクトやさとのば大学の一環で、beの肩書きワークショップ〈"まちの◯◯係"編〉に挑戦してみました。
次回の記事ではそのレシピをみなさんと共有したいと思います。お楽しみに!
はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎