企業の勝ち残り戦略 〜「経営戦略全史」より〜


ホンダ 無鉄砲な日本企業

1908年のフォード以来、アメリカの自動車業界はフォード、GM、クライスラーのビッグ3が占めていた。そこに、ホンダは殴り込みを決めた。なぜなら、日本市場ではトヨタ、日産に勝てないから。ビッグ3は当然口をそろえて「不可能だ」と唱えた。なぜなら

①すでに市場は飽和状態

②優れた競争相手が日米欧にいた

③自動車に関する経験が皆無に等しかった

④自動車の流通チャネルを持っていなかった

から。


しかし、ホンダは成功を収めることになる。

成功要因は以下の3つ

・環境エンジンCVCCが世界で最初にマスキー法(1970年に設定)をクリア

・オイルショック(1973)で低燃費かつ少排気ガスに注目が集まる

・フォードに比べ、ロボットによる溶接や迅速な金型交換などによる一貫生産によって大量生産に依存しない高生産性を実現しつつあった

ホンダは規模や経験曲線といった依存の壁を打破したのである。


これに対しBCGは

「ホンダは経験曲線に基づくコストリーダーシップ戦略で、新しい市場(アメリカでの小型バイク)創造に成功し、その後そこでの経験曲線を利用し、既存市場(中大型バイク)をも席巻した。」

とポジショニング的分析をだした。


ところが、9年後の1984年、パスカルがBCGの分析を真っ向から否定する衝撃的論文を出した。

「ホンダに当初、明示的な戦略はなかった。ホンダの「戦略」は失敗を積み重ねる中で創発的に生まれてきたものだ。」

パスカルはBCGの分析を「現実を過度に単純化し、直線的に説明しようとする西洋的考え方だ」=「ホンダ効果」とした。一種のハロー効果である。

後にホンダの、試行錯誤や、非分析的・無計画的行動が明らかになったのである。

この「ホンダ効果」は、「人間的要素」「計画的より創発的」の重要さを示したことで、ポジショニング派が依拠していた大テイラー主義(分析ですべてわかる)を脅かした。


トヨタ 「在庫は悪」

在庫をゼロにしよう。そうすることで、流れは滞って生産も販売も減るだろうが、隠されていた各工程のムダ・ムリ・ムラがわかるはず。品質が上がる!

また、細かい分業ではなく一人でいくつもの作業をこなせる「多能工」をめざした。これは、作業の標準化や安定につながった。

大テイラー主義と大メイヨー主義の融合である。


ベンチマーキングで復活した、ゼロックス・サウスウエスト航空・フォード

ホンダと同様、キャノンの参入により市場シェアがみるみる低下してしまったゼロックスは、「品質・時間・コスト」で日本企業に劣っていたことを素直に反省した。そして、企業改革を進めた。そのための手法が

・TQM

 経営戦略から品質目標、顧客満足度目標まで落とし込む

・ベンチマーキング

 他部署、他企業のベストプラクティスから目標やプロセスを学ぶ


サウスウエスト航空はインディ500に学んだ

ローカル航空会社だったサウスウエスト航空は1970年代、低価格を打ち出すために大胆な作戦を考えた。それは、「15分ターン」本来空港での駐機時間を45分で回していた飛行機を、15分にできないかということである。

常識では不可能な15分ターンを実現したのは、「業界プロお断り」の採用方針「インディ500に学ぶ」ことであった。

まず、座席指定チケットをやめたことでお客さんは早く飛行機に乗り座席を確保するようになった。これは素早い離陸準備を可能にした。

そして、インディーカーのピット作業に、事前の段取り、専用工具の開発などを学び、熟練とチームワークが向上して15分ターンが実現した。


流行を先読みしないアパレルブランドZARA

ファッションアパレル業界はハイリスク・ハイリターンである。流行に沿わなければ大損する。なぜなら内部環境である産業バリューチェーンの時間的長さが外部環境である流行の変化スピードにまったく合っていないからである。

そこで、一般的アパレルブランドは1年前には委員会で流行を予測・合意し、シーズンの数ヶ月前に行われるファッションショーで、消費者をその方向へ導く。


GAPは、規模の力でファッション品を安くした。多店舗展開しているのでアイテムあたりの発注量を多くし、そこそこファッショナブルなものを低価格で提供することに成功した。


ZARAは商品開発スピードでファッション生を高めた。流行を先読みすることをやめ、流行を創り上げることもしなかった。実行したのは、「新製品をどんどん出して、消費者の「本当の」好みを探って、それに合わせていく」というもの。1週間で動きが悪ければ店舗からは除かれる。逆に、売れていても4週間以上は店舗に置かない。なぜなら、継続的に顧客に来店してもらうためである。「今買わないとなくなってしまう」感を出すためである。

流行を実際にはかる。その試行錯誤の仕組みが大成功へ導いた。

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