「ストーリーとしての競争戦略」 楠木建


経営・戦略が成功するには、「法則はないが論理はある」


法則とは、どんな文脈でも再現可能な一般性の高い因果関係を意味する。しかし、経営や戦略は「科学」ではない。ゆえに、法則は「嘘」となる。


戦略とは


戦略とは因果論理のシンセシス(綜合)(ひとつにまとめること)であり、それは「特定の文脈に埋め込まれた特殊解」という本質を持つ。そして戦略の本質は、「違いを作って、つなげる」ことである。

戦略は論理化が大切となる。なぜなら、論理は①視野を広げ、②汎用性があり、③不変であるから。


ストーリーとしての競争戦略


ストーリーとしての競争戦略は、「違い」と「つながり」という戦略の2つの本質のうち「つながり」に軸足をおくものである。

[ストーリーとは何ではないのか]

①「アクションリスト」ではない つながりと流れがわからない

②「法則」ではない 「文脈依存性」や「シンセシス」がない

③「テンプレート」ではない アナリシスになる。文脈から離れる。静止画になる。

④「ベストプラクティス」ではない 「違いをつくる」と「シンセシス」に逆行する

⑤「シミュレーション」ではない 数字の背後にある因果論理が無視される

⑥「ゲーム」ではない ゲーム理論的な戦略思考は、プレイヤーがすべて合理的で、相互の行動がもたらす成り行きを完全に理解できていると想定する。しかし、何を合理的とするかは各企業の主観的な判断。


競争戦略と全社戦略


競争戦略とは特定の事業がその競争の土俵で他社とどのように向き合うのかに関わる戦略。単位は企業全体ではなくあくまでも特定の事業である。(事業戦略)

全社戦略は企業として、どのような事業集合であるべきか、どの事業に優先的に経営資源を振り分けるべきか、どの分野に進出してどの分野から撤退すべきか、などを考える戦略。

本著では、競争戦略についての話をしていく。


競争戦略の目的


競争戦略の目的は、明確に、「長期にわたって持続可能な利益をだすこと」ということができる。他のあらゆる基準も、結局は「利益」が成果を出すことで達成できる。一つ一つ見ていく。

まず「シェア」について。シェアと収益性には正の相関があるという研究がある。また、極端な低価格戦略は短期的にシェアを拡大するが、そのうち会社が潰れてしまうため結局収益重視の戦略に転換する。

これは、「成長」も同様である。「成長」は規模の変化率である。

次に「顧客満足」について。「利益こそ顧客満足の総量である」という言葉のとおりである。たとえ低価格にして売れたとしても、値下げをしなければろくでもない商品なのかもしれない。

「従業員満足」について。従業員満足の要素として、雇用維持、給与、やりがいなど、利益と強い結びつきがある。

「社会貢献」について。まず、法人税の支払いが社会に対する最も大きい貢献である。別の社会貢献についても、企業にとって追加的コストがかかるものである。

最後に「株価」について。株価上昇に向けた順番として、①業界評価以上の高い利益水準を達成し、②利益を出し続け、③投資家が評価し、④株価が上がる。「市場を向いた」経営、たとえば超高額配当なども、利益あってこそ。


利益の源泉


第一の利益の源泉が「業界の競争構造」である。すなわち、その業界が儲かりやすいかどうか、である。マイケルポーターの「ファイブフォース」が指標になる。いわゆる全社戦略。


第二の利益の源泉が「戦略」である。競争戦略とは、「競争がある中で、いかにして他者よりも優れた収益を持続的に達成するか、その手立て」である。それは、「目標」でもなく、「組織体制」でもなく、「市場環境の分析」でもなく、「ベストプラクティス」でもなく、「気合い」でもない。

以下では、第二の利益の源泉「戦略」について、「戦略ストーリー」の立てる順番を述べていく。


戦略ストーリーの5C


・競争優位 ストーリーの「結」ー利益創出の最終的な論理

・コンセプト ストーリーの「起」ー本質的な顧客価値の定義

・構成要素 ストーリーの「承」ー競合他社との「違い」

・クリティカル・コア ストーリーの「転」ー独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素

・一貫性 ストーリーの評価基準ー構成要素をつなぐ因果論理

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競争優位 ストーリーの「結」ー利益創出の最終的な論理


まず、戦略ストーリーで最初に考えることが、「持続的な利益が創出される最終的な論理」である。

まず利益(P)とは、

 P = WTP - C

(WTP・・・顧客が支払いたいと思う水準  C・・・コスト)

である。したがって、最終的な理屈は、

①WTP優位

②コスト優位

③ニッチ特価による無競争 (規模の)成長をめざしてはいけない。「小さい市場規模には他社は参入しない」という論理を攻めていく方法だからである。


構成要素 ストーリーの「承」ー競合他社との「違い」


次に、上記の3つの「結」に向けた構成要素を考える。これは、他社との「違い」である。構成要素には、大きく分けて2つある。

①SP(Strategic Positioning) 「ポジショニング」

②OC(Organization Capability) 「組織能力」

である。

SPとは、企業の外的なコンテクストに競争優位を求める戦略思考であり、簡潔に言えば「活動の選択」である。「何をやり、何をやらないか」を決定する戦略である。特に、「何をやらないか」を決めることが大事になる。意思決定行為であるため、時間的広がりはない。

OCとは、企業の内的なコンテクストに競争優位を求める戦略思考であり、「物事のやり方(ルーティン)」である。組織特殊性であり、模倣が難しい。組織内部を鍛えれば、後々できるようになっていくという思考であるため、時間的広がりがある。

SPは他社と違った「ことをする」に対し、OCは他社と違った「ものを持つ」ものである。SPは「What」で、OCは「How」である。


一貫性 ストーリーの評価基準ー構成要素をつなぐ因果論理


ストーリーとは2つ以上の構成要素のつながりである。良い大事なことは3つある。

①ストーリーの強さ 因果関係の蓋然性が高いということ

②ストーリーの太さ 構成要素間のつながりの数が多いということ

③ストーリーの長さ 因果論理が前へ進み、ストーリーの拡張性なり発展性が高いということ(好循環にもなりうる)


コンセプト ストーリーの「起」ー本質的な顧客価値の定義


コンセプトとは、その製品(サービス)の「本質的な顧客価値(商品そのものの価値に加え顧客へのサービスを含んだもの)の定義」を意味する。

わかりやすく言うと、本当のところ、「誰に、何を提供するのか」という問いに答えることである。

例えば、スタバは、高品質なコーヒーを提供しているのではない。「仕事帰りの忙しい社会人に、仕事場とも家とも違う「第三の場」を提供」するものである。

コンセプトは人間の本性を捉えるものでなければならない。そして、「なぜ」に対する答えを含むものでなければならない。「誰に、何を提供するのか」をたてることで「なぜ」が生まれる。「どのように」が先行してはいけない。

調査ではなく、自分の頭でコンセプトを考えるしかない。


クリティカル・コア ストーリーの「転」ー独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素


クリティカル・コアの定義は、「戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」である。

クリティカル・コアには2つ条件がある。1つ目が、「さまざまな構成要素と同時に多くのつながりがある」こと。一石で何鳥にもなる打ち手である。ストーリーを太くし、一貫性を与える。

2つ目は、「一見して非合理にみえる」こと。部分的には非合理であるが、ストーリー全体として見ると合理的であるものにする。他社がまねしようと思えないことがポイントである。

クリティカル・コアはコンセプトと両輪をなすもの。


戦略ストーリーの骨法10ヶ条


まず、以上の話をまとめると

長期利益は目標。競争優位はそのための手段。コンセプトは目的に近い。コンセプトが立ち戻れる場所になる。

以下、骨法10ヶ条

①エンディングから考える

②「普通の人々」の本性を直視する

③悲観主義で論理を詰める

④物事が起こる順序にこだわる

⑤過去から未来を構想する

⑥失敗を避けようとしない

⑦「賢者の盲点」をつく

⑧競合他社に対してオープンに構える

⑨抽象化で本質をつかむ 例:「後出しじゃんけん」 トヨタの「時間」

⑩おもわず人に話したくなる話をする

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