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【ライフスタイル誌Pen特別企画】村松充裕×蔵石ユウさんが“横読み漫画と縦読み漫画”を語る!

雑誌『Pen』が主催する若手クリエイターのためのプロジェクト「NEXT」にて、Webtoon部門のコンペ×ワークショップの開催が決定!
プログラムでは、メンターをコンテンツスタジオ「STUDIO ZOON」編集長・村松充裕が務め、縦読み漫画制作のノウハウや、さらなる表現の可能性を模索します。
今回はプログラムの開催を記念し、村松と、『食糧人類 ーStarving Anonymousー』シリーズや『アポカリプスの砦』などで知られるマンガ原作者・蔵石ユウ先生との対談イベントがライブ配信されました。
村松と蔵石ユウ先生は、二人三脚でヒット作を生み出してきた唯一無二のコンビ。ファシリテーターにマンガライター・ちゃんめいさんを迎えたライブ配信では、息ぴったりのコンビがどのように出会いマンガづくりと向き合ってきたのかを振り返りました。
さらに、視聴者から寄せられた質問への回答し、村松と蔵石先生がタッグを組んで立ち上げた新連載の話や、現在参加者を募集している「NEXT」に対する村松の想いも明らかに。
「横読み漫画と縦読み漫画」をテーマに語られる、ふたりのマンガづくりへの考えや経験談は必聴です!

⇩コンペ×ワークショップに応募する⇩

【対談】
村松充裕(編集者)× 蔵石ユウ(マンガ原作者)

【ファシリテーター】
ちゃんめい(マンガライター)

\YouTube配信はこちらからいつでもご視聴いただけます/


「ガンダム × アムロ」みたいなコンビが出会い、縦読み漫画をつくるまで

ちゃんめい こんばんは。雑誌『Pen』が主催するコンペとワークショップのプロジェクト「NEXT」では、現在、参加者を募集しています。今回は同部門でメンターを務める「STUDIO ZOON」編集長・村松充裕さんと、マンガ原作者・蔵石ユウ先生をお招きしてライブ配信を行います。横読み漫画と縦読み漫画についておふたりにいろいろとお話しいただこうと思います。どうぞよろしくお願いします。

蔵石&村松 よろしくお願いします。

ちゃんめい 早速ですが、おふたりの関係性について伺いたいと思います。日々打ち合わせで顔を合わせていろいろ話しているとはいえ、公の場で話すのは初めてですよね。
もともと『アポカリプスの砦』(講談社)や『食糧人類 ーStarving Anonymousー』(講談社)などでご一緒されていましたが、おふたりの出会いはいつですか?

村松 僕はいま、サイバーエージェント運営の「STUDIO ZOON」というコンテンツスタジオの編集部で縦読み漫画をつくっているのですが、その前は講談社で20年くらいマンガ編集を担当していました。
蔵石さんと初めて会ったのは、講談社に入社して10年経っているかいないかくらいの頃で、当時担当していた『週刊少年マガジン』(講談社)を離れる少し前だったのは覚えています。新宿3丁目のバーで会いましたね。

ちゃんめい 偶然、バッタリ出会われたのでしょうか?

村松 共通の知り合いを交えて会いました。その方は、僕にとって友人関係の先輩だったんですけど、その日はめちゃくちゃ盛り上がったんですよね。「蔵石さんとめっちゃ仲良くなった」と思って次の日に会社で蔵石さんと会ったので「どうも!」って挨拶したら、スッて視線をすぐに外されて(笑)。

ちゃんめい&蔵石:(笑)

村松 蔵石さんがシャイすぎて、お会いして挨拶しても視線を外されるのが3回くらい続きました。「この人、どんだけ飲んだら仲良くなるの?」って感じでしたね。

ちゃんめい それは、恥ずかしかったからですか?

蔵石 恥ずかしいからですね。

ちゃんめい&村松 (笑)

蔵石 飲んでるときと飲んでないときの差が激しいとよく言われるんですよね。

村松 飲んだ次の日には関係性がリセットされているんですよ。

ちゃんめい ちなみに蔵石先生は酔うとどうなるんですか?

蔵石 テンションがとても高くなりますね。

村松 でも、次の日は「スンッ」となる。

蔵石 そうですね。「あぁ、喋りすぎちゃったな」と恥ずかしくなって、大人しくしなきゃって思うんです。

村松 (笑)

ちゃんめい いまはすごく仲良しですけど、おふたりはどうやって距離を縮めたんですか? 作品づくりを一緒にしていくうえで徐々に距離が縮まったのでしょうか?

村松 3回目までは「スンッ」と視線を外されていたんですけど、さすがに4回も5回も飲んだらちょっとは話してくれるようになって。
酒の席で「こんなマンガやりませんか?」という話題で盛り上がるうちに「じゃあ一緒になんかやりますか」という流れで、作品づくりが始まったんです。
タッグを組んだ最初の頃は「昼にこんなところで話すのも恥ずかしいですね」とか言いながら、お弁当マンガの企画について打ち合わせしたんですよね。
この企画は、酔っ払ったときにみんなで「あはは!」って笑いながらつくった企画だったんですけど、お酒が抜けた頭で打ち合わせしたら「やっぱり酔っ払って考えた企画なんだな」と感じました(笑)。

蔵石 でも描いていて楽しかったですよ。

村松 楽しかったけど、会議では通らなかったんですよ(笑)。

ちゃんめい (笑)。付き合いのある期間はもう10年以上ですか?

蔵石 10年以上ですね。『アポカリプスの砦』が始まったのが2011年9月。東日本大震災があった年だったから、よく覚えてます。『我妻さんは俺のヨメ』(講談社)も一緒に連載が始まったんですよね。

村松 あのときは大変でしたね。2つも連載を抱えていましたから。

ちゃんめい しかもラブコメとパニックホラー、ジャンルが全然違うものでしたね。

村松 でもジャンルが全然違うからこそ、両輪でやれたっていうのはありますよね。

蔵石 どっちも楽しくやれました。ネームのセリフ量でいえば『我妻さんは俺のヨメ』はびっちり埋まってるんですよ。3ページくらい読むのに1分くらいかかっちゃうときもある。
対して『アポカリプスの砦』は1分くらいで1話読めるくらいのスピードで描いてたので、全然違うんです。

村松 蔵石先生は珍しいタイプで、編集者に合わせて作風が変わるんですよ。

ちゃんめい 「この編集者の方にはこういう作風でいこう」と意識されているんですか?

蔵石 最初の読者は自分なんですけど、2番目は編集者。自分の次に読む人が編集者なので「この人を楽しませよう」って思っちゃうんですよ。とにかく担当さんを「笑わせよう」「びっくりさせよう」と考えて描いてますね。

村松 なので蔵石さんは担当編集者によって作風が変わるんです。ラブコメが好きな担当が蔵石さんと組めば『我妻さんは俺のヨメ』になりますし、パニックホラーが好きな僕が担当すると『アポカリプスの砦』や『食糧人類 ーStarving Anonymousー』になるということです。

ちゃんめい 作品づくりをスタートするときの打ち合わせって、どのように話を展開させていくんですか? お互いが好きな映画の話から始めるのでしょうか?

村松 ゆるい雰囲気で始まります。「どうしようか〜」って(笑)。

ちゃんめい 行き詰まったときはどうするんですか?

蔵石 ずっと行き詰まっています。2時間ずっと「どうしようかな」って。

村松 逆に、やることが見えていると「はい、こうして、こうして、こうして、おしまい!」と、打ち合わせをパパッと終わらせるときもあります。

ちゃんめい 思い出に残っている打ち合わせトップ3はなんですか?

村松 打ち合わせするたびに蔵石さんは僕を驚かせてくれるので、毎回メモリアルです。

蔵石 担当さんを驚かせようと思って描いていますから。

村松 僕が好きそうなことを描いてきてくれるので嬉しいですね。蔵石さんは僕の好きなことを形にしてくれる人です。

蔵石 村松さんが喜んでいると「よし、やった!」って心の中でガッツポーズします。

村松 ただ不思議なもので、ホラーとか怖いシーンのネームを読んでるときは爆笑しちゃうんですよ。「怖い」というよりも、びっくりさせられちゃって嬉し笑いしちゃう。爆笑しながらOK出してます。

ちゃんめい 村松さんが爆笑していると手応えを感じますか?

蔵石 感じますね。

村松 いつもすごく嬉しそうですよね。

蔵石 嬉しいですね〜。作品をつくっている側は、読者の笑顔って見られないじゃないですか。だから、目の前の担当編集の人が笑っていると嬉しいです。

ちゃんめい そんなおふたりが今、『STUDIO ZOON』で縦読み漫画の新連載を立ち上げていて打ち合わせを進めていると伺いました。
もともと蔵石先生はずっと横読みのマンガをつくられていましたが、どのような経緯で縦読み漫画に挑戦してみようと思ったんですか?

村松 蔵石さんは僕が誘ったんですよね。
会社をやめるとき、引き継ぎはちゃんとしつつ、基本的に講談社の作家さんにお声がけするのは控えさせてもらったのですが、蔵石さんに関しては「僕のほうで引き取らせていただきます」という気持ちで誘いました(笑)。
僕とやるのがいいんじゃないかと思ったんです。

ちゃんめい 即答だったんですか? 戸惑いや抵抗はありませんでしたか?

蔵石 最初、村松さんから講談社をやめると連絡を受けたとき「うわ、捨てられる!」と思ったんですよ。連絡を受ける直前は、ちょうど引っ越して家賃が上がったタイミングだったんです。

村松 僕が会社をやめると伝えたら「え! 家賃上げたのに」と言ってましたね(笑)。まさか家賃の話をされるとは思いませんでした。新しいリアクションでしたね。

蔵石 きっと「捨てられる!」というショックからきたリアクションですね(笑)。

ちゃんめい それくらい一緒に作るのが楽しかったし、馬が合っていたということですよね。

蔵石 そうですね。

村松 僕と蔵石さんは、ガンダムとアムロみたいな関係だと思います。

ちゃんめい それはなかなか巡り会えるものではありませんね。

村松 ガンダムの「蔵石さん」の中に入ればアムロの僕が一番うまく操縦できる、みたいなイメージです。
蔵石さんも「いつでもきて!」という感じで、いつも胸のあたりをパカって空けているような状態だから「じゃあ僕が乗ろう!」という関係が今日まで続いて、今回縦読み漫画で一緒に新連載を立ち上げました。


ヒット作を生んだ作家が、縦読み漫画に挑戦したワケ

ちゃんめい 蔵石先生はもともと縦読み漫画を読んでいましたか?

蔵石 正直言うと、読んでいませんでした。
でも打ち合わせの最中、村松さんと「いまはどうも縦読み漫画が熱いらしい」という話をしていて。
僕は新しいことにはなんでも挑戦したいタイプだから「やりたい」と伝えたんですけど、村松さんは「ふふふ」と笑っていました。

ちゃんめい 「ふふふ」という笑いにはどういう意味が含まれているんですか?

蔵石 僕はかなりの機械音痴なんですよ。だから「パソコンがない縦読み漫画は描けないよ。君はパソコンも使えないよね」という意味があったんじゃないかと思います。

村松 蔵石さんはアナログで描いているイメージで、かつアナログから離れられるイメージがなかったんです。
「この人、レシートや巻物のような縦長の紙に描くのかな」と思ったんですよね。

蔵石 それが許されるんだったら、それでやりたいですよ。

村松 でも今はタブレットで描いてますもんね。

蔵石 はい。iPad Proを使っています。

ちゃんめい 縦読み漫画制作のためにデジタルに完全移行したということですか?

蔵石 そうです。

ちゃんめい 村松さんが『STUDIO ZOON』編集部に転職しなければ縦読み漫画には挑戦していないし、アナログのままだったんですね。

村松 蔵石さんは新しいことに挑戦するのがお好きですよね。
ジャンルにもこだわりがなくて、蔵石さんが描いたことがないようなものを「描きますか?」と打診してみると、大体は「やります」と答えてくれるんです。

蔵石 少女マンガもやってみたいですね。そういうお話がきたら挑戦すると思います。
僕なりのストーリーを先方が許してくれるかどうかですけど、いろいろなジャンルのものをやりたいですね。

ちゃんめい ちなみに最近読んで面白かった縦読み漫画作品はありますか?

蔵石 『桃と終末の書ーLast word of the worldー』(HykeComic)です。

村松 中国の縦読み漫画なんですけど、マンガ的なコマ割りをしているんです。いい意味で縦読み漫画のイメージを壊してくれる作品。表現方法にも注目して読んでおくと面白いですよ。

蔵石 あまり縦読み漫画らしくない作品ですが、だからこそマンガが好きな人は興味を持ちやすいだろうし、読みやすいんじゃないかと思います。


「蔵石ユウ × 村松充裕」が 縦読み漫画で目指すもの

ちゃんめい おふたりは今、縦読み漫画で新連載の立ち上げを準備されているかと思いますが、ジャンルはどのように決めたのでしょうか?

村松 横読み漫画では、ちゃんとネームを切ってきて表現してきましたけど、それを縦読み漫画で同じレベルか、もしくはそれ以上にしなきゃいけない時点で表現方法に脳みそを使うし、ちゃんと仕上がればその時点でしっかりと新しいものになる。そこに、さらに新しいことを掛け合わせないないほうがいいと思ったんです。
だからサバイバルホラーのような、今まで一緒にやってきたジャンルをベースにしてつくりました。

ちゃんめい 蔵石先生は実際に作業してみていかがですか?
制作方法をアナログからデジタルに移行するという時点で、かなり大きな挑戦かなと思うのですが……。

蔵石 そうですね。でも「人をびっくりさせよう」というベースは一緒なので、あまり変わらないですね

ちゃんめい 先ほどは「縦長の紙に描けたら描きたい」とおっしゃっていましたが、縦読み漫画では横ではなくて縦長に描いたものでネームを切らなきゃいけなくなりますよね。そういった表現面でギャップを感じたことはありませんでしたか?

蔵石 ギャップはないです。

村松 縦読み漫画のネームを切るとき、ほとんどの作家さんに共通していることがあって。縦読み漫画のネームを初めて描くとき、1〜2回くらい往復するなかで「縦読み漫画だとこういうふうに描いたほうがいいかもしれないですね」というやりとりが多少入れば、割とすぐにアジャストするんですよね。
横読み漫画しか描いたことのない人が縦読み漫画のネームでつまずいている場面はまだみたことがありません。横読み漫画から縦読み漫画に移る場合はスムーズに対応できると思いますが、逆に縦読み漫画しか描いたことがない人が横読み漫画に移行するのは、ちょっと難しそうだなと感じています。

蔵石 紙の場合は「めくり」という独特の読み方もありますからね。

村松 めくり単位で描いていくこともそうだし、視線誘導もすごく難しい。

蔵石 マンガと比べると、視線誘導は縦読み漫画のほうが簡単かもしれません。

ちゃんめい 上から下ですもんね。

村松 ほぼ一直線。

ちゃんめい 今取り組まれているジャンルはパニックホラーですが、縦読み漫画だからできるという表現はありますか? 
たとえば、縦読み漫画は上から下に視線誘導されるのなら、すごく深い穴に落ちるシーンはスクロールするから迫力がでるのかなと思うのですが。

蔵石 あります。

村松 落下シーンもそうですし、縦読み漫画ならではの表現方法はめちゃくちゃ没入感があります。没入感はマンガよりも高く感じますね。まるでVRのような感覚です。
実は、蔵石さんとのコンビで縦読み漫画をつくると決めたときに「何を目指す?」という話を最初にしたんですよね。その話し合いで、僕たちは「VRくらいの没入感で楽しんでもらえるものをつくろう」という目標を置きました。
当時、アベマタワーの16階で打ち合わせしてたんですけど、カフェの端っこで2人で腕組んで斜め上をみながらずっと「どんなものにしましょうね」と話していて。
たとえば、同じフロアの隅っこのほうで商談している人たちがゾンビになって周りを襲い始めるシーンがあったとしたら「僕たちの今のこの目線から見るような、横読み漫画ではできないような没入感のある表現を目指しましょう」と決めたんです。
そう考えたら、ふたりとも「そんな感じか!やれそう!」と思えて、実際にやってみたら味わったことのない没入感がありましたね。
この没入感は、ぜひ早く皆さんに体験していただきたいなと思っています。

蔵石 そのシーン、実際にプロトタイプを描きましたよね。

村松 そのときはまだ縦読み漫画のネームを描いたことがないから「じゃあ今言ったシチュエーションを描いてみましょう」という流れで、プロットタイプを描いてみたんですよね。アベマタワーの16階で打ち合わせをしていたら、向こうで商談している人がゾンビになって襲いかかってきて、なんとかガラス窓を割ってゾンビを叩き落とす、というシーンを仕上げたと思います(笑)。
実際に描いてやりとりをちょっとして、ちゃんと縦読み漫画で面白さを表現できているから「じゃあ僕たちもやれるな」と自信になりましたね。

ちゃんめい おふたりにとって、縦読み漫画で「面白い」という感覚は、さっきおっしゃっていた「VRっぽい」ということですか?

村松 そうですね。VRっぽさも含めて、読みやすくて、作品の魅力が伝わりやすくなっているということです。

ちゃんめい 即興でネームも描くなんて、すごいですね。今のところ、縦読み漫画づくりで苦戦はしていなさそうですね。

村松 そうですね。ネーム上では、いまのところ苦戦はしていません。
これはワークショップの内容につなげたいなと思っているんですけど、横読み漫画しか描いたことがないという人でも、1〜2回の打ち合わせをすれば縦読み漫画のネームを描けるようになるんです。
僕の中で横読み漫画と縦読み漫画は、サッカーとフットサルという感じ。
サッカー選手ってフットサルもできると思うんですけど、フットサル選手がサッカーをするのは、コートが広くなるから実は難しい。


実際につくってみて気づいた、縦読み漫画の魅力

ちゃんめい 今までお話を伺っていると、縦読み漫画に挑戦されてから特に困ったことや大変なことがないという印象なのですが、逆に魅力を感じた瞬間はありますか?

蔵石 着彩ですね。色がつくと今までとは違うなと思います。

村松 色がついたものを見ると盛り上がりますよね。

ちゃんめい 蔵石先生は色を細かく指定しますか?

蔵石 全然しないですね。落書きみたいなのを描いただけですごく綺麗な絵が上がってくるので、毎回びっくりしています。

村松 これが出来上がりなんですけど……(PCの画面見せる)

ちゃんめい  うわぁ! すごいですね。 
さっきおっしゃっていた「VRみたいなもの」がわかりました。こっちに向かってくる感覚がありますね。

村松 完全に一人称視点のマンガみたいだから、強烈なインパクトがありますよね。

ちゃんめい 蔵石先生は、ゲームがお好きなんですか?

蔵石 ゲームはやりませんね。

ちゃんめい さきほど完成の途中のものを見させていただきましたが、ゲームっぽいというか、カメラを向けているような感じでネームを切ってらっしゃるのかなと感じました。

蔵石 カメラは意識して描いています。『バイオハザード』もやればいいと思うのですが、怖いからできないですね。

村松 怖いものを描ける人は怖がりですからね。怖がりじゃないと怖い作品は描けないと思います。

ちゃんめい 怖がりなのに、どうやったら人の怖さを刺激するものが描けるんだろう。引き出しが多いなと感じました。

蔵石 こうなったら嫌だな、ということを思い浮かべてゾワゾワしながら描いています。

村松 自分たちが起こってほしくないことや、嫌だなと感じることを話し合って描いています。

ちゃんめい 気持ちが滅入りませんか?

村松 これが不思議と、ネームを見たら爆笑してしまうんです。

蔵石 かなりテンション上がりますよね。「こうなったら嫌だよね」「こうなったら怖いよね」と話し合って実際に描いてみると「うわ、ほんとだ」って。

ちゃんめい ちなみに、現在進行中の作品はスムーズに進みましたか? 何回かボツになってリテイクはしましたか?

蔵石 ないと思います。

村松 作品の枠組みを決めて、最初のシチュエーションだけをちょっとつくったあとは割とスムーズに進みました。
「もうちょっとこう描いたほうがいいと思います」と意見を出すと、蔵石先生が「なるほど」と言いながら縦読み漫画ならではの表現をたくさん入れて返してくれるんです。
見ているこちらが「なるほど、こういうこともできるのか」と感心するような、新しい発見がたくさん生まれました。表現方法を開発しながら進めていく面白さがありましたよね。

蔵石 そうですね。あとで見返して「これは違ったな」というのもありますが、手付かずの状態なので「こういうのどうだろう」というアイデアを試しながらつくりました。


質問回答タイム

ちゃんめい おふたりへの質問が届いているので、いくつか紹介させていただきます。
Q. 縦読みと横読みで心理ネームの量は変わりましたか?
蔵石 変わりました。

ちゃんめい どれくらい変わりましたか?

蔵石 縦読み漫画は、できれば少ないほうがいいのかなと思います。でも状況を説明するのも必要で、そこは割と独特ですね。

村松 横読み漫画だと、1コマのなかに心理ネームがびっしり入っている作品もありますよね。たとえば、わかりやすいのが『HUNTER×HUNTER』(集英社)。「これはどういう状況だ」「俺は次こうするぞ」といった心理描写がたくさん入っていますが、縦読み漫画ではそれができません。
横読み漫画で心理ネームがない場合だと、セリフなしのコマでつないで流れを理解しながら読めますが、だからと言って縦読み漫画は心理ネームが減るのかというとそうでもない。
縦読み漫画の場合は、心理ネームがないところにも「読み進めるためのガイド」があるイメージ。絵だけだと目が滑ってしまうところもあるので、主人公の感情をセリフに入れることで常に状況を追えるようになっています。
仮に、横読み漫画のとあるシーンで「ダダダ」と走って曲がり角を曲がったら向こうにたくさんボートがあったとします。バーンとボートの絵があるのが見えて逆方面に走っていったら、読者は危ないボートがあったから逆側に逃げたんだと理解できますよね。
でも、縦読み漫画でそのシーンを絵だけで見せても流れていっちゃうんですよ。
縦読み漫画においての心理ネームは、おそらく「どこに逃げればいい!?」と思いながら走っていて、曲がり角を曲がってボートが見えたら「こっちも行き止まりかよ!」と焦って逆側に走っていく、というようにキャラクターの気持ちがガイドとして常に入っていないと、目が滑るんですよね。

蔵石 それでいて、吹き出しの中の字数は極力少ないほうがいいんですよね
紙のマンガだと、多くても読んでくれるんです。スクロールするかしないかで注意するところが全く違う。そういうのは細々とあります。
あと、見開きが使えないのは大きいですね。見開きは便利です。

村松 縦読み漫画だと、見開きの代わりに「何をやっている」という感覚はありますか?

蔵石 それはないです。

村松 見開きの代わりになるものはありませんか?

蔵石 ないです。あるとすれば、ものすごく長いコマでしょうか。
でも見開きがもつ、めくった瞬間に大きな絵がバン! とくる驚きや衝撃はないですね。とはいえ、ないなりに工夫しています。

村松 僕の感覚では、縦読み漫画だと全コマが1ページまるまる、もしくは1ページを2分割したくらいのコマが入っているイメージです。横読み漫画でいうと、すごく大きなコマだけで構成されている感覚があります。
だから、割と見せ場がどのタイミングでもバンバンつくれる。

Q. コマ割りなどの制約も多いけど、カラーで情報量を足せるとなると調整が難しそう。全部リッチすぎてもダメなんだろうなぁと感じています。
村松 最終的な情報量は、着彩でもバランスを取っている部分はあって。
特に注目させたいところだけしっかり塗って、他のところをわざとぼやかしたり、もしくは壁にしたりなど、工夫はしています。
ネームの意図は着彩でなるべく表現していますね。

ちゃんめい となると、着彩がすごく重要になるのでしょうか?

蔵石 着彩は重要だとは思いますが、僕の場合はすべて着彩担当の方にお任せしています。

Q. 横読み漫画と縦読み漫画では、1話の中でのつかみの描き方に違いはありますか?
ちゃんめい お話を伺っていると、作り方はあまり変わらないような印象を受けました。

蔵石 作り方は変わらないですね。

ちゃんめい ちなみに横読み漫画で1話のつかみをつくるとき、どんなことを意識されてますか? さきほどは「人を驚かせたい」とおっしゃっていましたが。

村松 蔵石さんの場合、ネームはつかみに一番苦戦していますよね。

蔵石 そうですね。

村松 横読み漫画でもそうですけど、1ページ目は何から描き始めるのかが大事。
3ページくらいまでネームができていれば「今回はなんとかスムーズにいくぞ」という感じですね。つかみは特に重要視してますよね。

蔵石 つかみは「わかりやすさ」が大事だと思っています。
これまでの状況や前回からの状況、今どこにいて誰がどう配置されているのかなど、雰囲気は極力わかるように描いているつもりですが、どうかな〜。

村松 いやいや、素晴らしいですよ。

蔵石 ありがとうございます。

Q. 縦読み漫画に向かないジャンルはありますか?
ちゃんめい おふたりはいろいろなジャンルを試行錯誤して今の新連載にたどり着いたというよりは「パニックホラーをやろう」とか「蔵石先生の得意なジャンルでやろう」と最初からジャンルを絞っていたのでしょうか?

村松 そうですね。縦読み漫画で表現として向いてないジャンルって、究極言うとそれほどないと思うんですよ。
たとえば大河ドラマのような群像劇だったら、たくさんのキャラクターを処理するのは大変そう。でも、工夫次第でやれないことはない。
どちらかと言えば、今の縦読み漫画の市場で何が受けているかという制約のほうが大きいと感じています。つまり表現の制約じゃなくて、売れ筋の制約のほうが大きい。表現のほうは工夫すればなんでもできる。
でも現状は、表現ができるかどうかよりも、ある程度「売れているのか」に合わせられるのかが作家として重要になっている部分はあると思います。

ちゃんめい 売れているのに合わせるということは、まだプラットフォームが限られているということですか?

村松 それはすごく大きな要因ですね。

Q. 縦読み漫画は韓国・中国の翻訳も多いですが、日本ならではのストーリーや描き方、作り方など、違いがあれば教えてください。
村松 やっぱり違うと思います。何が違うのかというと、日本には「マンガ」の蓄積があるんですよね。
たとえば『週刊少年ジャンプ』(集英社)のような作り方ってあるじゃないですか。
日本にはそういった作劇の蓄積が溜まっていますが、韓国の縦読み漫画だとそれほど多くのキャラクターは出てこない。
でも『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』(‎KADOKAWA)とかはキャラクターがたくさん登場して、ちゃんと日本風になっている気がするんですよね。
たくさんのキャラクターを登場させる、ある種ジャンプマンガ的な作劇のメソッドが、日本発の縦読み漫画のヒット作には活かされているなと思います。

ちゃんめい なるほど。

Q.縦読み漫画でも尖った作品はいけるでしょうか?
村松 「尖った」という意味では、僕と蔵石さんが立ち上げた今回の新連載はすごく尖っていると思います。「僕たち、ちょっとやりすぎたかな」と不安になるくらい尖ってます(笑)。
ただ現実的な話になってしまいますが、さっき言ったように縦読み漫画は売れ筋のジャンルが3〜4種類くらいしかなくて、まだまだ少ないんですよ。
蔵石さんと僕が今つくっている作品は、メジャーな売れ筋ジャンルではない。
そんなジャンルに挑戦するには、生半可なパンチでは効かないと思っています。「こんなもんかな」と見積もってペチっと軽くパンチしても、だったら売れ筋のパンチが効くでしょと。
もし今までの縦読み漫画のジャンルにないものをやろうとしているんだったら、めちゃくちゃ攻めてほしいです。

Q. マンガと縦読み漫画、市場的にどちらのほうが需要がありますか?
村松 需要でいうと、市場が大きいのはマンガですね。現状、縦読み漫画の市場規模はマンガの20%以下なんです。ただ配信している作品数は、縦読み漫画とマンガで50倍くらい差がある。
ひと作品にかかる注目度で言えば、縦読み漫画のほうが大きいかもしれません。横読み漫画と縦読み漫画でどちらが日の目を浴びやすいかを考えると、今は縦読み漫画のほうが浴びやすい。でも、横読み漫画もちゃんと描けば上にいける世界であることは間違いありません。
市場規模で言ったら、単純に横読み漫画のほうが大きいです。

ちゃんめい 縦読み漫画に挑戦したい人は、市場を気にするよりは、やりたいことを思いっきりやることを意識したほうがいいですか?

村松 そうですね。縦読み漫画での作品づくりは「尖ったものをつくるか」「売れ筋に合ったものをつくるか」の2種類あって、僕はどちらも面白いと思っていて。
蔵石さんと僕は売れ筋ではないけれど、めちゃくちゃ尖らせた作品をつくってみんなをびっくりさせてやろうと思っています。
一方、売れ筋に合った作品づくりは、逆に狭いマトに作家性をものすごく凝縮させて、レーザービームのように撃ち抜かなきゃいけない。だからこそ横読み漫画をつくるときよりも、かなり濃密な打ち合わせが必要なんですよ。
「あなたはどんな人間なんですか?」というレベルのことを話し合ってから「どのジャンルで、どういうレーザービームが撃てるのか」を見極めなきゃいけないんですよね。
でも、横読み漫画の場合はそこまで激しくない。作家の魅力や売りを知れば「じゃあ弁護士ものができますね」「じゃあ少女マンガのこういうジャンルができますね」と、ジャンルの幅があるぶん、その人に合わせられるジャンルが存在しているんです。
ところが、縦読み漫画の場合はそれほど多くのジャンルが存在していないので、作家さんを純度高く蒸留しないといけない。そのためにものすごく濃い打ち合わせが必要になるのですが、むしろそれがすごく面白いと気づきました。


ワークショップの紹介

ちゃんめい そろそろお時間ということで、最後に改めて「NEXT」のご紹介をさせてください。雑誌『Pen』では、縦読み漫画制作のノウハウを伝えてさらなる表現の可能性を模索するプログラムを行います。
興味のある方はプログラムに応募いただき、その中から選ばれた5組のクリエイターさんは、村松さんがメンターを務めるワークショップに参加いただいたのち、Amebaマンガに掲載する読切作品をご提出いただきます。
詳細は『Pen』の公式サイトや、村松さんと『STUDIO ZOON』の X などからご確認いただけます。ぜひご覧ください。
応募するときの提出物はポートフォリオのみでOKなんですよね?

村松 はい。イラスト、ネームを描いたことがあるといったレベルでも大歓迎です。
ワークショップはアベマタワーの小さな会議室で行うので、密な距離感でやれるなとは思っていて。最終的に選ばれた5人(組)で「何を描いたら面白いと思います?」くらいのフラットな話をアイデアを出し合いながら楽しく話せればいいなと考えています。
これを機会に、さまざまな方と縦読み漫画や横読み漫画の話などをしながら追究していけたら面白いと思います。僕自身も、皆さんのお話を聴いて勉強していきたいです。

ちゃんめい ちなみに、もし蔵石先生が応募者でワークショップワークショップに参加できることになったら、どんなワークがあったら面白いと思いますか?

村松 蔵石さん、ワークショップに行かなそうですね。

蔵石 行かないですね。

村松 行かなそう〜!(笑)でも、もし「ふと気がついたらワークショップに瞬間移動していた!」という状況だったとしたら、その後2時間は何を期待しますか?

蔵石 う〜ん…… 帰ります。

ちゃんめい&村松 帰るんだ!(笑)

ちゃんめい じゃあいったん、ワークショップって話はなしにして……(笑) もし、縦読み漫画に挑戦し始めた初期の頃に「縦読み漫画のことならなんでも教えてあげるよ」って妖精さんに言われたら、何を聞きたいですか? 知っておきたかったことがあれば教えてください。

蔵石 それは今もあまり変わっていません。僕もまだ始めたばかりなので、今でも知りたいことはたくさんあります。どうすれば人をびっくりさせられるのかな、とか。

村松 さっき「見開きが存在しないんだとしたら、何ができる?」といった話題が上がりましたが、蔵石先生はビジュアル的な表現に相当挑戦していますよね。
毎回ネームを見せてもらうたびに「こんなこともできるんだ」と感心します。

ちゃんめい 横読み漫画と縦読み漫画についてお話ししていただきましたけども、今回のワークショップは「もともと横読み漫画に興味があったけど、この配信を聞いて 縦読み漫画に興味をもった」という粒度の方の応募も受け付けていますか?

村松 もちろん。ものすごくふんわりした興味でも応募してほしいくらいです。「ちょっとやってみようかな」という好奇心で応募しても大丈夫だと思います。


エンディング

ちゃんめい ワークショップも楽しみなのですが、少しお話しいただいた蔵石先生の新連載も早く読みたいです。

蔵石 ありがとうございます。

ちゃんめい 今、配信を聴いている読者の方も新連載を楽しみにされている方がたくさんいると思うので、一言いただいてもよろしいでしょうか?

蔵石 喜んでもらえるかどうか、とても心配です。歯を抜く前の日みたいな気分です。心配すぎて泣くかもしれません。

ちゃんめい&村松 (笑)

ちゃんめい でも、さきほど少し見せてもらったら「うお!」って思わず声が出てしまうくらいすごかったです。

村松 強烈ですよね。逆に、僕は早く読んでみてほしい。早く歯を抜きたいです。

蔵石 僕は「抜きたくない派」なので。その日がこないでほしいと思いながら仕事をしています。

ちゃんめい&村松 (笑)

ちゃんめい おふたりが公の場でお話しする初の試みだったと思うのですが、今日はいかがでしたか? 

村松 蔵石さんと僕は、人前で話すときはTPOをわきまえて話しているんですけど、今日は蔵石さんの前なので完全に普段通りでした。楽しかったです。

蔵石 僕も楽しかったです。新連載が始まったら読んでください。できれば褒める方向でお願いします…… なるべくなら……。

村松 (笑)。でもこの作品、本当に面白いと思うんですよね。エンタメとしてはかなり面白くできていると思います。

ちゃんめい 楽しみですね。村松さん、蔵石先生、今日はありがとうございました。

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