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台湾風習:祭祀と旧正月の過ごし方

 ただ今、台湾は旧正月休み期間中。バタバタしてて、つい旧暦1月3日に入っちゃった。早速だが、台湾の年末年始の風習を紹介しようかと。


除夜(大晦日)

 もしくは「除夕」や「除夕夜」とも呼ぶのだ。そして、この日に天を祭る風習がある。ここから、紹介しよう。

 まず、時刻は古代の十二支を使う。子の刻*になると翌日。(*午後11時から翌日の午前1時まで)

祭天

 祭られるのは「天公」や「玉皇大帝」呼び方は様々なんだが、すなわち、天界を統べる主宰神のことだ。
 作法は以前に紹介した流れとほぼ同じだ。

1.テーブルを出して、供物と冥銭を供える。これでシンプルな祭壇が出来上がった。
 一つ注意するのは、金箔が貼られるのが神仏に供える「金紙」と呼ばれるものだ。一方、銀箔が貼られるのは「銀紙」と呼ばれ、ご先祖様や霊的な存在に供えるものだ。ここは前者を使う。

金紙と銀紙

 とは言っても、二つとも通称にすぎないである。実際には「寿金」とか「天金」とか「刈金」とか様々な種類がある。違う場合もそれぞれだ。

色んな種類の冥銭

 供物は、通常、お茶3つ、お酒(米酒)1つと「三牲(鶏1匹、魚1尾、豚肉1つ)」である。他にもフルーツやお菓子など、多ければ多いほど、豊年の象徴とも言える。個人的に一種の見栄っ張りかと思うけれど。

2.線香を焚く。
3.線香を持ちながら祈る。
4.三回礼をして香炉に線香を挿す。
5.合掌しながら、また三回礼をする。
6.神様に供物を食べる時間を与える。
7.冥銭を取って三回礼をする。
8.自宅の金炉(冥銭の焼却炉)で燃やす。
9.金炉には二つある。赤色/大きいのは神様への郵便窓口。灰色/小さいのはご先祖様もしくは霊(中元祭の時)への郵便窓口。そして、配達員は焔を司る神様だという。
10.儀式の終わりを宣言するため、爆竹を燃やす。
11.最後に、もう一回全員揃って祈る。

これで終了。

 お菓子を食べたいと思うのだが、まだダメだ。何故なら、祭天の儀式で出した供物を、一回だけ、より下位の神様に供えることが可能だ。そして、もう一回だけ、ご先祖様再びその供物を供えることが許されるという。まあ、節約しないとね。でも、逆はダメだ。ちなみに、台湾人の宗教観によると、仏はビーガンなので、肉や魚などは供物として禁止されている。

それでは、祭祀が終わった以上、一旦寝よう。


神仏とご先祖様の祭祀

 朝起きたら、自宅で祭られる神仏の祭祀だ。

 ウチは田舎なので、一軒家の最上階に「神明庁」があるので、そこで儀式を行う。
 「神明庁」とは仏壇に扱われる部屋のこと。専用の高架机(神卓)の上に、神像や仏像は真ん中に鎮座する。ご先祖さまの位牌は隣で祭られる。机の後ろには、神仏の絵が飾られている。前方には、もう一つ、供物を供えるための机がある。
 普段は線香とお茶を供えるだが、祭事の時だけフルーツやお菓子などを用意するんだ。
 そして、近所の土地神廟に参拝する。作り方は過去の記事に参照ください。
 続いて、昼ご飯を済ませたら、ご先祖さまの祭祀が行われる。
 流儀は地域や民族によって異なる可能性があるけれど、こちらは大体未の刻(午後13時から15時)で進める。
 作り方は、ほぼ前書通りだが、若干違う。

  1. まず扉に向けて空に三拝、振り向けて神仏に三拝、線香を挿す。続いてまた三拝。

  2. すると、室内を出て、扉のすぐ隣に設置された「門神」の像に三拝、線香を挿してまた三拝。
    門神」とは、文字通り、「門番の神様」ということだ。台湾の民間信仰により、天界には「天兵天将」という存在がいる。すなわち、神様や信者の家々を守る用心棒の神様だね。
    ここでは、壁に固定され彫刻付きの金属製ミニチュア香炉を使う。

  3. 話を元に戻す。「門神」の後、ご先祖さまに三拝、線香を挿してまた三拝をする。

  4. 祈って、ご先祖さまに供物を食べる時間を与える。

  5. 冥銭(銀紙)を持て三拝、「今からお金を送るぞ」を示すためだ。

  6. そして冥銭を燃やす。

  7. 全焼(送金完了)を確認した後、もう一回、ご先祖さまに祈って三拝。これで終了。

「囲炉」

 夜になると、家族みんな揃って食事をする。中国語では「囲炉」や「吃年夜飯」と呼ぶ。ちなみに、「年夜菜」という定番の料理がある。例えば、「魚」料理は四字熟語の「年年有餘」にかかっている。中国語では「魚」と「餘」(余る)は発音が同じなんだから。「年年有餘」とは、毎年稼いだお金や食料は余るほど多いということだ。

圧歳銭(お年玉)

 年末年始休み期間、子供たちや家庭主婦やまだ無職の家族メンバーにお年玉をあげる。日本と違うのは、赤い封筒が使われる。
 そして、子供たちは貰ったお年玉を枕カバーに入れて頭を乗せる習慣がある。期間は、確か旧暦1月15日の「元宵節」まで。地元では「圧歳銭」と呼ぶ。一年の悪運を鎮めるためのお金(中国語から歳と祟*は発音が同じ)つまり、好運を祈る風習である。

「守歳」

 すなわち「歳月を守る」という。大晦日の夜から翌日になるまで寝ないこと。つまり、子供にとって怒らずに夜更かしする日である。いや、冗談冗談。本当は一年の終わりに対して溢れだす「惜しい」という感情、最後の一刻まで見届けて、新しい一年の到来を迎える。と同時に年寄りの長生きを祈るための風習である。実際、大昔は本当に徹夜するという。

明かりをつく

 ペンダントライトでも常夜灯でもなんでもいい。大晦日の夕日から、翌日の朝まで部屋に(微かな)明かりをつけておく。これもまだ好運を祈る風習だと思われる。「明かりを来年へと繋いでゆく」ということである。

春節初一(旧正月)

 旧暦1月1日、中国語では「春節」や「初一」と呼ばれる。

「春聯」を貼る

 実際、いつ貼っても問題ない。
 「春聯」とは祝福の言葉が書かれた赤い色紙のことである。
 色んな種類がある。

  • 四角形の色紙に「福」や「春」など一文字が書かれたやつ。(逆さまに貼る。中国語で逆さまを「倒著」と呼ぶ。到来の「到」にかかる)

  • 矩形の色紙に四文字が書かれたやつ。よく見かける言葉と言えば、「恭賀新禧」(新年おめでとうございます)、「恭喜發財」(益々のご発展をお祈り申し上げます/直訳すれば:お金たくさん稼ぎますよう、お祈り申し上げます)等々。

  • 「対聯」:上聯(通常7文字)、下聯(文字数は『上聯』次第)、横批(結論だと思われる4/7文字)という三つで構成されている。上聯/下聯に「対句」が記されている。例えば「天増歳月人増寿,春満乾坤福満門」。自分も偶にオリジナルのを作る。結構複雑なので、今は説明するつもりはない。

禁忌もしくは迷信

  「初一」の日、洗濯や髪の毛を洗うことはダメだ。一年の好運が水に流されちゃうという。

神様の祭祀

年始の挨拶みたい。作法は前述通り。

「走春」

散歩したり、花見に行ったりをする。
正月期間にあらゆるアウトドア活動の総称である。

初二(旧暦1月2日)

土地神とご先祖さまの祭祀

流れは前述通り。そして、実際に祭祀の日を繰り上げても大丈夫だ。事前に祀られる相手に事情を話せば。

「回娘家」

 「回」は「帰る」という意味である。
 中国語で言う「娘」は「お嬢」や「女々しい」や「お母さん」など色んな意味があるのだが、主に「お母さん」のことだ。って言うことは「お母さんの実家に帰る」ということだ。
 結婚した方なら、奧さんの実家に戻る。そして、奧さんのお母さんは別の日に帰るか、一緒にお婆さんの家に行くのか、時間をすらすのか、それは人次第だ。普段奧さんちで暮らしている方なら、男の実家に帰るという。

その他

 博奕
 ところで、ここだけの話なんだが、休み期間、家族の間”倫理的に”小額の博奕は許されるという。もちろん、法的にオススメはしない。麻雀とか象棋とか(象棋:元々将棋の類なんだけど、ここは特別な遊び方で進める。強いて言えば麻雀に近いと思う)

 参拝
 自分に縁のある寺院に参拝すること。

 悪口
 正月期間、悪口を言わない。

 まあ、月日は移り、時代は変わる。何事もフレキシブル、絶対的なものはない。ここに書いたことは、所詮、古い時代の記録であり、参考である。

「開工」(仕事始め)
 自分が勤める会社は今年旧暦1月6日。実際、新暦に合わせて毎年何日にするかは決まっていない。会社次第。
 伝統を重んずる会社は、「開工」と呼んで仕事始めの日にも天を祭ったり、土地神廟に参拝したりをする。やり方は大体前に書いた通り。ただ、供物はそこまで拘らずお菓子だらけでもいい。そして、朝で行われること。

元宵節(旧暦1月15日)

 年末年始休みは通常1週間なんだけど、伝統的にこの日を新年の終わりだと思われる。地元では「小過年」(いわば小正月)とも呼ばれている。

提灯

提灯で飾る。提灯を持て出かける。
ちなみに毎年地方公共団体から提灯の立体パズルが貰える。

「吃湯円」

  「湯円」(団子の一種)或いは「元宵」(餡の入れる湯円)を食べる。「団円」すねわち「家族円満」を象徴する。

「猜灯謎」

「なぞなぞ」をすること。

ランタンフェスティバル(灯花会)

 台湾ランタンフェスティバル:台湾各地を巡回して開催される重大イベント。開催されない地域でも、独自の灯花会を行う。
 確か、日本の横浜中華街にも似たようなイベントが開催されるという。知り合いから写真を見せた。中華レトロな雰囲気ができている。凄く異国情緒が溢れている。まあ、台湾はより現代風になっているから。
 ちなみに、今年(2024)の台湾ランタンフェスティバルは、新暦2月3日から3月10日まで、古い歴史を持つ「台南」で開催される。(公式サイトは→こちら日本語対応)

他の地方の伝統行事:

  • 新台北市 平渓の人は「天灯」を放つ。
    「天灯」とは、熱気球の一種である。というより「飛べる提灯」だ。
    みんな願い事を書いて空に放つ。

  • 台南市 塩水の人は「蜂炮」を放つ。
    無病息災を祈願する風習である。世界の危険な祭り十選の一つ。地元民はロケット花火を集めて砲台を作る。そして、指定されたエリアで神様の巡行隊列に放つ。安全のため、参加者は必ず重い服を着てヘルメットを被る。レインコードは燃えやすいので厳禁。
    去年、台湾公共放送による生中継映像(47:13から):

  • 台東県の人は「炸寒単」という儀式を行う
    「寒単」とは、寒単爺という財福を司る神様である。あの方は寒いのが苦手なので、みんなは彼(神様の化身)に爆竹を投げることで、彼の体を暖めて財運を祈る。

  • これもまた去年台湾公共放送による報道映像:

以上、何かご不足があればご指摘ください。それでは、良いお年を!

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