ひたすらAI絵をやってたら絵が描けるようになってた話
こんにちは、「機動戦士ガンダム 水星の魔女」が大好きなおじさんです。「水星の魔女が好きすぎて、AI絵をひたすら生成してたらいつの間にか絵が描けるようになっていた」という妙な体験をしたので、それについて記事を書いてみようと思います。具体的にどれくらい?というと、特に練習していないのにこれくらい変わっていました。
始めにお断りしますが、この記事は、「AI絵をやるのがお絵描き上達への近道だョ!」だとか、「お絵描きをやるにはこうしたらいいョ!」といったものではありません。「絵が描けるようになる」の定義は人によって違うでしょうが、少なくともこの程度のレベルで他人様にお絵描き指南をしようなど、完全に暴挙であることくらいは分かります。私は今の自分の絵をお世辞にも上手だとは思っていませんし、それほど絵を上手になりたいとも思っていません。
この記事は「特に絵を練習していないのに、いつの間にか絵が描けるようになっていた体験」がめっちゃおもしろかったので、せっかくだから書き残しておきたいな、という趣旨であって、それ以上でも以下でもありません。私が「1年半AI絵をやってきた」というのは具体的に何を「やってきた」のか、AI絵をやるなら手描きなんてしなくてよいはずなのに、なぜ手描きをし始めたのか、さんざん「AI絵師」と揶揄されてきた画像生成AIユーザーが実際に絵を描けるようになったらどんなことを感じたか…ということを、淡々と振り返るだけの記事にしたいと思っています。
執筆×コイカツ=?
まずは私の来歴からお話しします。私は某社で執筆・編集関係の仕事をしておりまして、文章のプロとして15年~20年くらいのキャリアがあるおじさんです(ちょっとぼかすぞ)。ウェブ上ではたまに成人向け小説を書くなどして気まぐれに活動してきましたが、絵についてはさほど関心がなく、小さいころ漫画やアニメの模写をしてみた記憶がある程度でした。ここで「AIを始める前はもっと下手だったんですよ」とお示しすると記事の格好がつくのですが、そもそも絵を描くことがガチでなかったので、お見せできるものが何もありません。
ウェブ上での活動の転機になったのが、2015年に「illusion」というエロゲメーカーから発売された「ハニーセレクト」というタイトルをプレイしたこと。これは女の子の3Dモデルを自由にクリエイトして会話やHシーンを楽しめるという超・画期的なソフトでして、よりアニメタッチになった後発タイトル「コイカツ!」が大ヒットしたので、ご存じの方も多いかと思います。
髪型から体型、目のデザインまで全て自分で設定したキャラクターをフィギュアのようにポージングさせ、アングルや光源や背景を自由に設定して撮影できるというのは本当に衝撃的な体験で、おじさんはあっという間に夢中になりました。「自分で設定したかわいいキャラクターを最高にかわいいシチュエーションの画像にして、SNSで友達同士見せ合って楽しむ」という要素は、まさにAIイラストとよく似た体験だったと思います。作ったキャラクターや衣装は「カードデータ」として他人と共有でき、まさに無限の可能性を秘めたクリエイティブなゲームでした。
振り返ってみれば、自分の小説にコイカツで作った「挿絵」を付けたのが、自分の文章スキルとビジュアルコンテンツを組み合わせた最初の体験でした。挿絵だけではあきたらず、コイカツのスクリーンショットをCLIPSTUDIOでつなぎあわせて、漫画らしきものを作ったこともあります。今からみると漫画とはとても言えないレベルのヤベェ呪物でしたが、クリスタでせりふの吹き出しや擬音を付けるとまるで漫画家になったようで楽しく、「クリエイターごっこ遊び」的な面白さがありました。
illusionはその後活動を終了してしまいましたが、このとき「光と影と反射光、そして色彩によってビジュアルはできている」ということを体感的に理解していたことが、絵を理解するにあたって結構大きかったのではないかと思っています。
NovelAIとの出会い
私が画像生成AIに初めて触れたのは2022年10月、海外発の画像生成サービス「NovelAI」がサービスを開始したときでした。3Dモデルを「IK」や「FK」といった技術で関節ごとにポージングさせ、光源やカメラ位置を工夫して一生懸命1枚絵を作っていた私としては、AIイラストが完全な「上位互換」のように感じられたものです。
当時のNovelAIv1(現在はv3)は今から見ると「いかにもAI」なイラストしか生成できませんでしたが、コイカツと同じようにアニメキャラクターの再現もできましたし、3Dキャラメイクの延長線上で画像生成を始めた方も結構いたのではないかと思います。
NovelAIに感動した私が最初に思ったのは、「コイカツ時代よりもちゃんとしたH漫画を作れるのではないか?」ということ。以前書いた短編小説をもとにプロットとタイトル絵とキャラクター設定を作り、着地点も決めないまま、いきなり1ページ目からがりがりと超自由に作り始めました。
毎日画像生成してはクリスタで組み合わせ、せりふを付ける工程を繰り返し、しっかりとしたネームもないままにどんどんストーリーは進んでいきます。なんと2週間たらずで70ページもできてしまいました。しかし…というべきか「やはり」というべきか、そのあたりで暗礁に乗り上げたため、この漫画はいまだに世に出ていません。
何があったのか?
画像生成AIの技術はそのころ「1カ月後は近未来」というほど驚異的なスピードで進化しており、ページが進むごとにどんどんキャラ絵のクォリティが上がってしまったのです。読んでいておかしく見えないように始めから作り直しても、「清書」が終わる前にまたAI側ががっつり進歩してしまう。その上、漫画を作っているうちに自分の漫画スキルもどんどん上がるせいで、最初のほうがレベルが低く見えてしまうんですね。
「先にAI技術をしっかり勉強して、長編に挑戦するのは進化が落ち着いてからにしたほうがいい」とさすがに気付いて、それからはAIイラストの技術研究だけに集中してやっていくことにしました。「いきなり大長編を作るのではなく、1枚絵や数ページの短編が作れるようになってから取りかかるべきだ」という当たり前のことも、やってみないと分からなかったのです。
スレミオとの出会い
この時点で我ながら相当アレな経緯なのですが、さらに内容は狂気的になっていきまして…
NovelAIの登場から半年後の2023年春から夏に掛けて、「機動戦士ガンダム水星の魔女」というアニメの第二クールが地上波放送されました。私はおじさんなので、当然それなりにガンダムは好き(ORIGIN>08小隊=1ST=UC>サンボル>ターンエー>Gの順)。ふーんという感じで第一クールからなんとなく見ていたのですが、22話で完全にやられてしまいまして…
気付けば主人公二人を中心に、グッズや画集や関連書籍を集めまくる立派な「水星オタク」と化していました。漫画やアニメ、ゲームは人並み以上に好きな方でしたが、グッズを集めるほどハマったのは初めてのことで、おじさんはぶっちゃけ家族にもちょっと引かれています。
余談ですが、水星の魔女にハマりすぎて初めてコミックマーケットに一般参加してしまいました。めちゃくちゃたくさん同人誌買いました。楽しすぎてこれまた記事にしたので暇な人はどうぞ。
一方そのころ、画像生成AI界隈では何が起きていたかというと、2023年2月から夏頃にかけて「Controlnet」や「LoRA」といった拡張技術が花開き、モデル開発者が学習させていないポーズや構図、キャラクターやタッチといったものも、ユーザーがある程度自由に(後天的に)生成させることができ
るようになっていました。
それまでは、いわゆる「呪文」と呼ばれていたプロンプト指示がAI絵のすべてだったわけですが、これによって私にもスレッタやミオリネさんのイラストが自由に生成できるようになってきたわけです。
多分これが初めて投稿したスレミオ絵。LoRAはよほど卓越した技術者が追加学習させない限りはこの程度しか似ませんし、当時の私は一切加筆ができなかったので、なんというか…という出来ですね。それでも複数のキャラクターがキャンバス内に同居して、文脈のある演技をさせられたのは、当時としては画期的なことだったのです。
スレミオAI絵を作ろう
「自由に」と書きましたが、本当に頭で思い浮かべたとおりの絵を出そうとすると、まだまだ大変な作業が必要でした。これは昨年7月、「ディズニーランドでデートするスレミオ」(水星の魔女の主人公、スレッタとミオリネさんのこと)を作ろうとして8時間くらい掛かったワークフローです。(GIF動画)
なぜこういうことをせねばならないかというと、スレッタさんとミオリネさんを同時にAIに生成させようとすると、二人の髪の色や容姿が混じってしまうので、最初に素体を作ってから少しずつ二人に寄せているわけです。
今から見ると狂気的というか偏執的というか…ここまでやっても、スレミオにはあまり見えないものしか生成できなかったのですね。ただ、このころ狂気的な気合で作ったAI絵にはなぜか何万いいねもついたものがあり、要するに人は「美麗な絵」が見たいのではなく、多少つたない出来でもその人が込めた気持ちが伝わってくるような作品が見たいのだな、と妙に納得したことを覚えています。
理想のスレミオが見たいんじゃ
私がちょっとずつ絵に加筆をするようになったのもこのタイミングです。AI絵はよく見ると指の数がおかしかったり、目が溶けたような感じに見えたりするのが当たり前でしたので、まともな作品として見栄えのするものにするのは、それなりにAI技術の習熟が必要でした。
正直に言ってしまえば、AIにそうした破綻を何とかしてもらうよりも、自分でちゃちゃっと描き直したほうがよっぽど早い。私にとっては「幸せそうなスレミオをもっと見たいんじゃ!」というのが唯一無二の目的であって、それができるならやり方はAIだろうが加筆だろうが何でもよかったのですね。
いまだ見ぬ理想のスレミオ絵を作る上で、お二人の表情やポーズ、位置関係、しぐさといったものは非常に重要です。AI絵の生成結果はそれなりに偶然性に左右されるため、意図しない表現が往々にして生じるわけですが、納得のいくスレミオを表現するためには、画面上に描かれたものすべてが私の着想や創意に基づいて配置されている状態が望ましい。
そこで思いついたのが、「ド初心者の落書き程度でも、AIに参照させることでより意図通りのイラストが作れるのではないか?」という実験です。image2image(i2i)によるパクリ事件を知っている方なら想像ができると思いますが、あの技術を他人の絵をパクるのに使うのではなく、自分の下手な絵を特殊な方法(Controlnet/Tile)でi2iする手法を検証したわけですね。
自分が絵を描けないことは分かっていましたが、「そこに誰がどんな感じで描かれているか」さえ最低限AIに伝わればよいので、別に「絵が描けるようになる」必要はありません。そこで「トンチキ絵」と名付けて、このような実験を繰り返していました。
AIは色の置かれた場所さえわかれば、学習した内容に従って「清書」することができます。元の絵が下手かろうが関係ないので、堂々とトンチキな絵を読み込ませて絵を仕上げていきました。
できたものを頑張って組み合わせて加筆していくと、これまでよりずっとスレミオらしい絵に。
自分のトンチキな絵がきちんとした絵に仕上がるのは、なんだか本当に絵を描いているみたいで非常に楽しい経験でした。
このころ思ったのは、「絵を描く」ということは膨大な時間を注ぎ込まないと習得できない魔法のように思っていたけども、巧拙を気にしないトンチキ絵なら描けるではないか、ということです。
そして、「絵というものは上達するのにはセンスが必要だが、ある程度までなら座学で習得できるのではないか?」という疑問もわきました。特に、線を引く行為には長年の修練が必要だけれども、クリスタによる着色やエフェクトはPC上の操作ですから、知識さえあればある程度誰がやっても同じなはず(※今思えば傲慢な発想)。コイカツを触っていたときから、きちんと道理を学べば「それらしく」見える影は作れるということを体感的に理解していましたし、いっちょ本で勉強してみっかと思ったわけですね。
本を沢山読んだ
とりあえず知りたかったのは、絵をゼロから描く方法よりも、単純にクリスタの使い方や、瞳や手の加筆のやり方でした。どんな本を買えばいいかもわからなかったので、フォロワーさんに教えてもらいながらとりあえずそれらしい本をどんどん買い込みました。
マンガの知識が全くなかったせいで痛い目を見たので、「マンガのマンガ」は大変勉強になりました。いまだにコマ割りはできませんが、漫画の超初歩が頭に入った気がします。
その後も大型書店に行くたびに色んなイラストハウツー本を買い集めていたのですが、このとき買った左の三冊、特にさいとうなおき先生の「技の書」との出会いが衝撃でした。
他の本はどれも体系立てられた「絵の学び方」「クリスタの使い方」「絵の本質」などが順序立てて語られており、絵が全く描けないおじさんにはハードルが高い記述も多かったのですが、技の書はもっともっと実用的だったのです。
「最初に細かく影を入れるな、おおざっぱに入れよ」
「悲しみの表情?目力を弱くして口角と眉尻を下げればOK」
「影は清潔感を出したいなら緑や青、健康的なら赤、怪しい感じにしたければ紫系で入れよう」
「目にうるおいを足すならグラデーションをふわっと入れる」
といった風に、最低限アニメキャライラストを描く上で必要な知識やメソッドが、ひたすら具体的かつ端的に網羅されているのです。
具体的で端的なので、その通りにやるとおじさんにもその通りの絵が描けます。「キャラクターイラストを描くのはそんなにハードルが高いことではなく、巧拙を問わなければ誰にでもできるんだ」「どうしてそうするのか理由が分からなくても、とりあえずちょっとしたルールを守るだけでそれっぽく見えるんだ」ということがよく分かり、目から鱗が落ちました。
AI絵の瞳(黒目部分)を自分で描いただけではしゃぐおじさん。かわいいですね。
いろいろ試して体感的に分かったことがあります。私は「正確に被写体の色や形を観て・それがなぜそうなるかを学問として言語化できるようになり・正確にうつしとる」「その鍛錬を繰り返すことで、いつかそらで描けるようになる」ということが「絵を描く」だと思っていたわけですが、実態は「何が気持ち悪くて何が気持ちいいかを理解して、ルールに沿いながらできるだけ気持ちよく予想を外す」ことが絵を描くということだったわけです。そしてそのやり方は既に体系化されており、正確に観られたり、描けたりしなくても、メソッドをなぞるだけで(ある程度までなら)誰でも表現することができるのです。
好きな瞳を探る
そこからは、「自分の好きな目ってどんなのだろう?」ということをひたすら考えました。このころ「すごい」と思った表現が二つあって、一つは「葬送のフリーレン」のユーベルちゃんのまつげの描き方。もう一つは「ひろがるスカイ!プリキュア」の、これまたまつげの描き方。どちらも人体構造からすれば全く正確ではない描き方なのですが、自然に見えるしすごくカワイイのです。
よく考えたら、イラストのほとんどは人体と見比べると正確でもなんでもなく、顔の造形も頭身も髪の房の描き方まで、人間が観て気持ちよい形に改変(デフォルメ)されている。これまでAI絵では「どうにかして原作のスレミオに見えるようにする」ことを目指してきたわけですが、私は別に原作に見える絵が出したいわけではなく「最高に尊いスレミオを表現したい」だけだったことに気づき、「ミオリネさんの瞳は灰色で、瞳孔は黒で、瞳孔のななめ左上やや小さい丸いハイライトを入れなくてはならない」という思い込みを捨てることにしました。
漫画「ブルーピリオド」1巻にもそのようなシーンがありましたが、ミオリネさんのまつげを白く描いてもいいし、
目を紫に描いてもいいし、
メガネをかけてもらっても構わないのです。
「ミオリネさんの目は灰色でなくてもよい」というのは個人的に衝撃的なことで、このころはもう夢中で、AI絵の目を塗りつぶしては毎晩好きな感じに塗ることを繰り返していました。
Pick it up.
そんなこんなで、コイカツおじさんからAI絵加筆おじさんにクラスチェンジした私は、日々新しい未だ見ぬスレミオを求めて夜な夜な画像生成をしては目を加筆する令和の妖怪と化していました。(スレミオが好きな人は、AI絵を見てもきっと喜んでもらえないだろうという葛藤は常にありましたが、それでも自分の一番やりたいことがそれだった)
気づいたらあっという間に年末に。瞳の描き方がどんどん変わっていきました。
年越ししてもさしてやっていることは変わらず、スレミオの目をひたすら塗る日々だったわけですが、そんなおり、2月末にこんな投稿が世界的にバズっているのが目にとまりました。
御覧の通り、初音ミクさんの上質なAI絵を多数投稿されているユーザーさんに対して、海外のアカウントが「ミクはあなたのひどいAI絵にうんざりしている」(AIを使わず自分で描け)とペンを突き付けるミクさんのイラストを送り付けたという内容です。この投稿を後追いするようにして、このユーザーさんには次々に海外のアカウントから鉛筆を投げるミーム画像が送られ続けました。(私の見ていた限り、ユーザーさんはそうした行為に反論や抗議をすることなく、その後も淡々とミクさんのAI絵の投稿を続けていたようです)
「Pick it up」投稿の是非はさておくとして、ここから読み取れるのは、「絵を描く人から見ると、我々のようなAIイラスト投稿者は『絵が描けないからズルをして承認欲求を満たそうとしている不届き者』に見える」ということです。もちろん、我々はAI絵を作って投稿したいだけであって、「絵師」になりたいわけでも、「絵師」と呼ばれたいわけではありません。「彼らはかつて絵描きを目指していたが、挫折したのでAIで恨みを晴らしている」的なストーリーをあてはめられることも多いのですが、読者の皆様は既にご存じの通り、私などはただのスレミオ加筆おじさんですし、皆さん基本的には自分の好きなAI絵(好きなキャラ)を出しては投稿するのが好きな人、という印象です。
そもそもどんなに美麗なAI絵を出したって絵が描けるようになったことにはなりませんし、それは加筆をしたからって何か変わることでもありません。「私たちは絵描きになりたいわけではない」「絵を描く人と言い争う気もない」ということを理解してもらえるように、優しい雰囲気のAI絵でアンサーできたらよいのに、とも考えました。ただ、どんな絵を出そうとも「思い上がったAI絵師の反撃」としてさらにひどい揶揄をされることは目に見えていますし、醜い争いにミクさんを巻き込むのも違うだろうという気もしました。
いろいろ考えましたが、とりあえず「描け」と言われたし描いてみると分かることもあるだろう…と思い、死ぬほど眺めてきたミオリネさんをそらで描けるか試してみることにしたわけです。午前2時半を回っていました。
そしたらなぜか、自分の認識の100倍描けたんですね。
自分は手と目の修正くらいしかできないと思っていたのですが、なんとなく〇を描いて頭部の立体構造を作っていけばよいことも本で読んで知っていましたし、どうすると目の焦点がずれて見えるか、どうすれば直せるのかもわかりましたし、影の色は単に暗色にするのではなく、少し赤色方面にずらすと色がくすまないことも「パルミー」のTwitter広告で見て知っていました。
子供のころから絵が描けた方には「この程度でイキるなよ…」とあきれられてしまうでしょうが、毎日スレミオの目を加筆して遊んでいたとはいえ、私にとっては衝撃的に「描けた」ので驚いたものです。思いっきり歪みツール(絵の歪みを正せるチート並に便利なツール)やCtrl+zを使いまくっているので、紙とペンで描けと言われたらもっとへたくそですが、とはいえ自分が何も見ずにミオリネさんを描けたというのは驚きでした。
SNSの「AI絵だ、AI絵じゃない論争」でよく見掛けるタイムラプス機能というのも生まれて初めて使ってみました。実に面白かったです。
一度描いたイラストをAIに見せて、「お手本」を作ってみる試みもやってみました。自分なりに「すごくよく描けた」と思ったのですが、AIに直してもらうと後頭部がおかしいことや、髪のはね・とがりが不自然であること、面長でかわいくないことなどがよくわかり、どこが理想通りでないのか・どうしたら理想に近づくかも分かるようになりました。
AIは学習していないキャラクターを描くことができませんが、手描きならなんでも描けますし、首から上を描いてしまえば残りをAIに描き足してもらうこともできる。表現の幅が突然無限に広がって、「描いてみないとわからないことは沢山あるのだな」ということがよく分かりました。
ただ、手描き技術をどんどん磨いて「絵師」になろう!とはやっぱり思えませんでした。これは顔だけ描いた手描き絵の「続き」をAIに描いてもらった全身図(左)と、それをさらにAI仕上げして、手描き修正したもの(右)です。
ここに描いた通り、絵ではなくAIイラストをやりたい私にとっては左ではなく右が「自分の作品」ですし、右の方が理想のミオリネさんに近い。手描きで右くらい描けるようになったらそれは嬉しいですが、AIでできることを手でできるようになるために頑張るなら別の学びに時間を使いたいですし、それよりも私にしかできない表現、まだ見たことのないスレミオを見たい、という気持ちのほうが強かったです。
ミクさんに言われたとおり「pick it up」してみて、とても楽しかったことはそうなのですが、私はやっぱり手だろうがAIだろうがどっちでも良いので、理想の表現がしたいだけだということが改めて分かりました。
「ずるい!」
これは昨日の夜、水星の魔女の癒し担当、アリヤさんのイラストを描いてXに投稿したときのことです。(このキャラはスレミオほど有名ではなく、AIに容姿が学習されていないので手描きの出番)
何時間かかけてああでもないこうでもないと髪型の「もったり感」に苦心し、ようやくそれなりに納得できるものができたのですが、投稿直後にTLに流れてきたフォロワーさんたちの激うまAI絵が目にとまったとき、不意に「ず…ずるいぜ!!!!」と初めて思ったんですね。
「こっちは白い紙にクソみたいなラフを描いて、それをなぞったへったくそな線画をなんとか歪みツールでごまかして、たどたどしい輪投げ塗りで塗ってるんだぞ… それをあんた、t2iでポヨッと…!神絵師クラスの美麗イラストをお気軽に出してくれちゃってさあ~!」
絵を描かれる方から見たら、AI絵なんて不愉快以外の何者でもないよなというのは当然理解していたのですが、実際に自分の心から「ずるい!」が出るとまた違った感情が湧きます。AIは早くてうまくて、ずるい。自分で描いたことがないと「早くてうまい」しか分からなかったのが、「ずるい」が初めて体感できたわけです。不快なのではなく、逆に「絵が初心者レベルに描けるようになった証拠かな」と妙な感動がありました。
この「ずるい」という気持ちが、世界中の人に「Pick it up」と鉛筆を投げさせる原感情になったのだなと思うと、大きなすれ違いを感じて、これはどう反論したところで理解はしてもらえないだろう…と思い、さはさりながら自分の体験したことは書き残しておきたいという気持ちが勝り、いまこの長い文章を書いているわけです。
縛りプレイ
先にAI絵から入って、あとから手描きが少しできるようになった今、率直に感じることがあります。「AIが使えるのに手描きだけで仕上げるのは、ゲームでいう縛りプレイみたいだ」ということです。私の中ではこれまでずっと「イラストを作る=画像生成+加筆」だったわけですから、わざわざ手描きで全部仕上げるメリットって、さほどないのですよね。
「さほど」と書いたのは、手描きをすると「この人、もともと全然描けなかったのに上手になってる!」とか「キャラクター愛がすごい!」といった反応をもらえて、それは正直めっちゃ嬉しいし、おじさんの承認欲求が満たされるので「メリット」ではあるのですが、手描きには大きな問題があります。「全然理想のスレミオではない」ということです。
これまで作ったAI絵の中で「理想のスレミオだ」と感じられたのはこの2作品でしょうか。
それぞれタッチが全く違うし、1枚目などはあまり似ていないのですが、その時点でベストを尽くした「私の作品」と感じられ、いいねの数とは全く関係なく、本当に満足しています。特に2枚目が完成したときは、じーんとなって涙が出ました。絵としての欠点はいくらでもあげられますが、初めてできた「私が思う理想のスレミオ」でしたから…。
目下の目標は、どの作品を見ても公式絵の模倣ではなく「これはあの人(私)の絵だ」と思ってもらえるような、独自の一貫性を保った絵作りをすることです。毎回偶然性によって左右される画風ではなく、しっかりと私由来の画風・作風が感じられる絵で、理想のスレミオを作っていきたい。私好みのタッチの絵がもっと増えていけば、「賢木LoRA」を追加学習できるのですよね。できれば、もともとのスタート地点にもどって、あのボツNTR漫画をイチから作り直したい!
そのために手描き技術が活かせる場面では活かしたいと思いますが、私はAIでできることを探りたいので、最終的には全く手描きしないでもよくなることが目標です。絵師になりたいとか、ちやほやされたいのではありません。いや、正確に言えば、絵師ではなく「スレミオ愛に満ちた画像生成AIユーザー」としてちやほやされたいのですよね。一番嬉しいのは、スレミオファンの方に「AI絵は嫌いだけども、この作品にはスレミオ愛がある」と思ってもらえることです。
【余談】絵がちょこっと描けるようになってよかったこととして、家族に「プリキュア描いて!」と頼まれたときにちょっと喜ばれるという楽しみを得ました。
終わりに
AIイラストをめぐっては、一部の悪質な人物がイラストレーターへの嫌がらせに使ったり、いわゆる「反AI」叩きが快感になってしまった人がひたすら悪口を垂れ流していたりといったことがあり、単に生成を楽しんでいるだけのユーザーにも非常に厳しい目が向けられています。私も日々、X上ではAIイラストの使い方を広める悪辣な人物として揶揄されていますし、そうした感情を持たれるのもある程度は仕方がないことなのかなと思うようになりました。画像生成AIはうまくて早くてずるいから…。
この記事を通じて伝えたいことは、「手描きは表現の一手法であって、手で描けるようになると世界がとても広がるが、その世界に入っていきたいわけではない人も中にはいる」ということです。絵の道を探究することは素晴らしいことですが、一度しかない人生で必ずしもその道を選ばない人も多くいます。別分野でクリエイティブなことを既にしている人が、AIのちからを借りて他分野に踏み込んでいった結果、これまでにない表現が生まれることもあるでしょう。AIに教わりながら他分野に触れていると、私のようにいつの間にか上達していたなんてこともあると思います。
私はこの1年半で確かにミオリネさんをそらで描けるようになりましたが、本当に「頑張って成し遂げた」と感じているのはそちらではなく、FANBOXで120本のAIイラスト研究ノートを世に残したことや、10万字を超える「プロンプト超辞典」を編纂したことのほうです。
そして、私の書いた記事に、私が勉強して生成したAI絵や、その副産物として描けるようになった手描き絵が挿絵として載ることはとても素晴らしい。AI絵は叩かれることばかりの日々ですが、私の人生はAIとコイカツとスレミオに出会ったおかげで、本当に彩りに満ちたものになっています。
おじさんの怪文書を最後まで読んでくださってありがとうございました。AI絵、よかったらみんなもやってみてね!と言いたいところですが、毎日知らない人に罵倒されるので、おすすめはしません。絵がうまくなりたいなら、AIなど触らず、さいとうなおき先生の本や動画を見てたくさん描いたほうがずっと早く上達できると思います。
AIを悪質な嫌がらせに使う人が早くいなくなって、世間に受け入れられずとも、そっとしておいてもらえる日が来るとよいな…とだけ、日々思っています。
おまけ(近況報告)
気付けばこの記事を書いてから随分経ってしまいました。最近は「AI-Assistant」というツールを使った「ラフのオート線画化」と「オート影付け
」機能のおかげで、なんちゃってグリザイユ塗りができるようになりました。
絵を全く描いたことがなかったおっさんの口から「グリザイユ塗り」というなんかすごい単語が出てくること自体、不思議な気持ちですが、理想のスレミオにまた一歩近づけた気がしています。本当に楽しい!
AIで漫画まで作ることができました。これは本当にびっくりするほどたくさんの感想がもらえて嬉しかったです。
こちらは第2話のネーム。限界おじさんが突如ノートにネームを描き始めるのだからAIはすごい。スレミオ漫画のネームがどうしても描けなくて四苦八苦してますが(ミオリネさんはこんなこと言わない!ってなる)、いずれ絶対作りたいと思います。
画像生成AIをめぐる世間の批判は相変わらずですが、私のようにAIの手助けでイラストを楽しめるようになる人はこれから増えていくのではないかなと思っています。もちろん「自分はズルをしてるよなあ」という感覚は変わらずあり、「これは自分が描いた絵」とはまったく思えないのですが、最近は「AIと二人で作った絵」と胸を張れるようになったように思います。(おしまい)
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