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ベイシー楽曲分析-Fly Me To The Moon

リスニング(聴くこと)が、ビッグバンドをスウィングさせるために必要不可欠な要素だ、と気付いたことから、指導するバンドにカウント・ベイシー楽団の曲を毎週1曲ずつ聴かせようと、リスニングの助けになる楽曲分析を始めました。それを、こちらに掲載していきたいと思います。

今回はこの曲「Fly Me To The Moon (In Other Words)」 (Arranged by Quincy Jones)」。

1. リスニングのポイント

フランク・シナトラによる歌、クインシー・ジョーンズによるアレンジ、カウント・ベイシー楽団による演奏と、3拍子そろった素晴らしいセッションです。フランク・シナトラの小粋な歌はもちろんですが、クインシー・ジョーンズのハイセンスさがアレンジに凝縮されています。

演奏者としてのリスニングのポイントは、ホーン・セクションの裏拍のタイミングの遅さや、スタッカートの短さでしょうか。カッチリとしたシャッフル気味のスウィングならではの後ノリは、なかなか真似できないものです。

2.形式

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1コーラスはABAB'の32小節で構成されています。キーはCメジャーのようですが、Cメジャーに落ち着くのは途中の一瞬や、最後の音のみなので、ほとんどAマイナーといった趣きです(この点は「Autumn Leaves」や「My Fanny Valentine」といったスタンダード曲と似ています)

全体的には、短いイントロ・短いエンディングが付加された2コーラスの構成。とても短い中にも、クインシー・ジョーンズのセンスが光っています。

3. 楽曲分析

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ブラシを使ったDrumsのみの短いイントロの後、GuitarとBassの刻みに乗ってフランク・シナトラによるVocalが入ります。裏ではFluteがブルー・ノートを含むフレーズを吹いています。後のSaxのリフでも触れますが、さり気なくブルー・ノートを入れてくるあたりが、クインシー・ジョーンズの最高に粋なところです! ところで、

このアレンジで最も素晴らしいのが、2回目の[A]に登場するサックス・セクションのリフです。これについては後で詳しく解説します。ブラス・セクションの弱い裏打ちの連続も入っていますが、各コードを先取り(アンティシペーション)していて、実に心地よいリズミック・テンションを与えています。それにしても、この裏打ちの長さはごく短く、裏拍のタイミングをグッと後ろに持ってきた「シャッフル気味のスウィング」ならではのキッチリしたノリを醸し出しています。

ハーマン・ミュートを使用したTrumpetによる合いの手が彩りを添えながら、Drumsの三連符で盛り上がり、間奏へと突入します。

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間奏は強力な全合奏によるメロディで、金管のグリス・アップ(Do it 奏法)が実にジャジーです! しかし、すぐに弱奏となり、Saxのメロディ+Fluteの合いの手となりますが、それもつかの間、[A]に戻るための強力なE7-9のコードが全合奏で入り、2回目の[A]のVocal戻りとなります。

2回目の[A]では再びサックスのリフが登場しますが、Vocalが高いE音の伸ばしに入るや否や、バックはEm7-5とA7+9のハイテンションな2拍3連のアクセントを2小節間持続させ、エンディングを盛り上げます。このクインシー・ジョーンズの思い切りの良さには脱帽します!

最後は2小節間のブレイクにベイシーのピアノ・ソロが登場し、あっさりと終わります。

4. サックスのリフについて

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このアレンジに2回登場する8小節間のサックスのリフは、このような感じになります。メロディがテンションではなくコード・トーンで始まることが多く、単調になりがちな「Fly Me To The Moon」ですが、このようなリフが入ることで、完全なるジャズに仕立て上げているのが驚きです。それは3、4、6小節目の3拍目に入ったブルー・ノートによる効果でしょう。特に、4小節目のようなトニックにブルー・ノートをのせる技は、アドリブ演奏などにも大いに役立つものですから、皆さん大いに真似をしましょう(笑)

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