1回 これぞ正統派喫茶店! 神田「ブラジル館」

 リハの前や後に、ちょっと打合せできる空間、時間をつぶせる店、楽譜を広げられる席、ひとりで考えごとができる場所…。そんなところを探してませんか? スタジオスタッフが足で稼いだ、神田界隈の喫茶店情報をご紹介します!

 少し前に20代の知人と、こんな会話を交わしました。
  私「喫茶店にでもいって茶でもしようぜ」
  友人「喫茶店? カフェですよね?」

 さも私が前時代的なことをいっているかのような態度で、その友人は「いまはそう呼ばないんですよ」と諭すがごとく、若人的老婆心でもって、そう言ってくれたんだとは思います。

 でも、違うんです。喫茶店とカフェは別なの!

 お役所的な定義で言えば、喫茶店には「喫茶店営業許可」、カフェには「飲食店営業許可」が必要とのことですが、小難しいことは置いときましょう。

 20代から30代にかけて、街を歩けば50メートルに1軒は喫茶店があった時代を過ごした感覚では、「小一時間くらい遠慮なく座っていられて、注文を取りに来てくれ、商品を運んでくれ、後片付けをしなくていい」のが喫茶店。「なんとなく長居する雰囲気ではなく、オーダーも商品受取もセルフで行い、自分でトレイを下げなくちゃいけない」のがカフェ。

 だからこそ喫茶店では1杯500円前後のコーヒーが、カフェでは半額程度で飲める、という、そんな認識があるほどです。

 なのに最近は1杯500円ちかくするカフェが当たり前だもんなぁ…。そんなふうなぼやきが入るのは、これ、自分が年齢を食った証拠なのかもしれません。

  ○

 さて、喫茶店をめぐる第1回目の散策は、これもスタジオ最寄り駅の一つである神田駅からはじめて見ました。

 なんとなく喫茶店があるっぽい西口商店街へ。20メートルほどいった最初の四つ角に立つと、右に入った左側に、すぐに喫茶店がみつかりました。

ブラジル外観

 「COFFEE Brazil」の横長看板と、「珈琲ブラジル」の四角い箱形電飾看板。てっきり「ブラジル」が店名と思いきや、正式には「ブラジル館」というそうです。

 喫煙者を親の仇かなにかのようにあつかう健康増進法のアオリなんでしょう、店頭には「喫煙目的店」のステッカー。わざわざ貼らなきゃならない鬱陶しさを感じてしまいます。

 さっそく店内へ入ると、いきなりの喧噪。地元の常連さんに支えられているのが一目瞭然の、遠慮のない会話音。静寂からはほど遠く、といって一部の配慮のない話し方だけが目立つわけでもなく、適度な喧噪は、かえって耳に心地いいから不思議です。

店内

 昼過ぎとあって満席に近く、かろうじて角に空いていた2人用の席に着きます。すぐさま、カウンター内とは別にいるおばさんが手際よく、水、おしぼり、灰皿を並べていき、テーブルそばに待機する気配。

 卓上をみてもメニューはありません。壁にもそれらしき表示はありません。ここで「メニューください」と言うこともできるはずですが、店には店のやり方がありそうです。忙しい時間に手間をかけさせたくもありません。いきなり目にした常連さんたちの手前、なんとなく張り合う気持ちもあったのでしょう。

「んじゃ、ブレンドで」

 すると、愛想一つなくカウンター内にもどっていくおばさん。かと思えば、きびすを返すようにコーヒーをお盆にのせておばさんが戻ってきます。たった一言でやりとりが済んだことに満足をおぼえて、一安心。

 それにしてもコーヒーが出てくるまでの時間が短い…。

「沸かし直しかな…」

 警戒気味にコーヒーカップに鼻を近づけてみますが、しかし焦げたような気配はありません。一口すすってみても、酸味のきいたブレンドの香りが広がります。カウンターをのぞくと、サイフォンが数本。昼時で、絶えずコーヒーを淹れているから、こんなに待ち時間が短いのだと納得。

 ここではじめてホッと一息。腰を落ち着けて店内観察の余裕が生まれてきます。

 まずは自分の卓上から。お冷や(水)があり、おしぼり、灰皿、そしてコーヒカップ。備え付きの砂糖はグラニュー糖とコーヒーシュガーの2種類。そして、裏向きにさりげなく置かれた伝票。

卓上

 いいですね、この卓上の賑やかしさ。ここにタバコを置くと、もうほかにはスペースがありません。これぞ喫茶店のテーブル! 一個のテーブルを独占しているかのごとき光景は、カフェには求められない姿です。

 次は店内観察。大半が常連さんという見立ては間違いなさそうで、昼食帰りによったとおぼしきサラリーマンの2~3人組がおおく、なかにはパソコンを広げて商談しているらしき2人組もあります。地元の商店主なのかラフな格好の40代グループがいれば、これは素性が見てとれない年配の5人の集団もいます。一方で、テーブルにのった皿から軽食とその食後を楽しんでいると思われる60代の洒脱なおじさまの姿もあります。このかた、文庫を片手にしていて、昔ながらの喫茶店利用客の典型のようなたたずまい。

 適度な喧噪が、読書も、おしゃべりも、商談も可能にしているようです。

 私も30分ほどでしょうか、読みかけの本を開いてコーヒータイム。気づくと店内にいたお客さんは、あらかた退出しています。

 出入り口そばのレジでお支払い。ブレンド1つ400円――。

 わずか40分ほどの滞在でしたが、400円では申し訳ないくらいの至福のひとときでした。

 ブラジル館
 東京都千代田区内神田3-11-10
 03-3254-2356
※店を出て左に歩くと神田警察通り。これを左にいって一つ目の信号を右折すれば、スタジオまでは一本道。約8分で到着します。


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