旅日記 秩父にて 弐 旅立ちの丘
僕らは旅立ちの丘にいた。
あんなに遠くで聴こえていた「旅立ちの日に」が、今では僕らのすぐ側で響いている。スピーカーから流れる音楽は罅割れ、ノイズが混じっている。柵には幾つもの南京錠が掛けられていた。世のカップル達が永遠の愛を誓い、離れないように鍵を掛けてこの地を去っていく。
素敵な話だが、疲れ切った男二人には少しも響くことなく、同じ敷地内にある音楽堂へ向かった。
途中、自販機でジュースを買った。熱を持つ身体、乾き切った喉を炭酸が刺激する。体中に水分が巡っていく。