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旅日記 秩父にて

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これは、僕が夏に秩父を旅した時の話をエッセイ調に書いた日記です。現実と妄想が入り混じった素敵な旅に仕上がっていると思います。良かったら見てください。 自転車のメリーとの妄想恋愛の… もっと読む
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おわりに

 「旅日記 秩父にて」無事、完走致しました。  自転車に名前を付けて妄想恋愛したり、旅人気分に酔っていたりと、痛々しい部分が多々ありましたが、個人的には少し気に入っている作品です。  皆さん。楽しんで頂けたでしょうか。僕としてはこの作品を一人でも好きと思ってくださる方がいれば、それだけで満足でございます。  こんな時期ですが。世界が元通りに戻ったらぜひ、秩父に行ってみてください。きっと素敵な思い出が作れると思います。  では、僕はシラクスに行ってディオニス王に、鉄拳を

旅日記 秩父にて 捌 終演

 数回の乗り換え。僕らの旅の終わりが近づく。二人はこれからのことを話した。  進路のこと。次はどこへ行くか。大学生のうちにしたいこと。なんて、自宅の最寄り駅に突くまで一度も途切れずに話し続けた。  駅に着いた二人は、また一緒に旅に行こうと約束して別れた。   さあ、バスで帰ろう。  バス停に向かうが、もうバスは走っていなかった。人の姿もほとんどない。金が無い僕は、仕方なく家まで歩いて帰ることにした。  耳にイヤホンをする。  流すのは、ベン・E・キングでスタンド・

旅日記 秩父にて 漆 さらば秩父

 僕たちは西武秩父駅にいた。  思い出したようにお土産コーナーで物色をしている二人。僕は兄妹にクッキーを。両親には味噌モツを買った。  冷凍の味噌モツ。当然、保冷剤やら保冷パックなんかに包んでもらえると思ってレジを済ませたが、どうやら何もしてくれないらしい。  無地のレジ袋にキンキンの味噌モツ。後ろにはいつの間にか列が出来ていた。  諦めた僕は、水滴の浮いたレジ袋を持って友人の元へ行く。  先に買い物を済ませていた友人と豆腐味のソフトクリームを買った。出て来たソフト

旅日記 秩父にて 陸 しばしの別れ

 僕達は坂を登っていた。旅立ちの丘に比べたら大したことのない坂を。  太陽が少しずつ沈んでいく。時刻は4時を過ぎたところだ。  僕らの旅の最後を飾るに相応しい場所。見晴らしの丘に辿り着いた。此処は、秩父という美しい町を一望出来る。   僕は今日。此処に来れて良かったよ。   ええ、私もよ。 私は今までも。これからも。此処で生きていくの。   そっか。じゃあ、僕は必ず。また、此処へ来るよ。   それじゃあ、私はいつまでも貴方を此処で待ち続けるわ。  僕らは再開を誓

旅日記 秩父にて 伍 神に願う

 ここは「礼所10番 大善寺」。此処の神様はどうやらお喋りが好みのようだ。大慈寺の階段下には殻だけの卵がお供えされているが、その中には人々の言葉が籠められているらしい。それが、どんな御利益になるかはわからない。   貴方なら何を込める?   そうだね。君と出会えたこの奇跡を忘れないようにって籠めるかな。   バカ。  メリーは、照れながらそう呟いた。だけど、彼女を大慈寺に連れて行くことは出来ない。だから、僕達は道路の隅に愛車を置いた。   メリー、すぐに戻るよ。

旅日記 秩父にて 肆 闘争心

 僕らは道に迷っていた。代わり映えのない住宅街をぐるぐると回る。   ねえ、メリー・ルー。僕達は辿り着けるのかな。   貴方なら大丈夫よ。だって私の愛する人だもの。   君がそう思うのなら心配ないね。だって君はいつだって正しいのだから。  それから何度も同じ景色を堪能して、やっと次の目的地である「秩父礼所17番 定林寺」に到り着いた。僕らは愛車を道の端に置いて定林寺を観光した。  木々に囲まれたこの寺は、心地良い風が流れている。それはまるで、僕の汚れた心を洗い流して

旅日記 秩父にて 参 Mary Lou

 僕らは公園にいた。友人は園内の手入れをする高齢者達に挨拶する。僕もそれに習って挨拶をした。   こんにちは。   こんにちは。暑いのにご苦労さま。  初めて会ったはずの老人達は微笑みと共に挨拶を返してくれた。そして、労いの言葉も添えてくれた。僕らはただの旅人。自分達の思い出づくりのためだけにこの場所へ来た。  だから、暑いのに此処へ来る人をもてなす為、働いている貴方達の方が労いの言葉を送られるべきだ。心の中でそんなことを考えながらも、頭を下げ、その場を立ち去る事しか

旅日記 秩父にて 弐 旅立ちの丘

 僕らは旅立ちの丘にいた。  あんなに遠くで聴こえていた「旅立ちの日に」が、今では僕らのすぐ側で響いている。スピーカーから流れる音楽は罅割れ、ノイズが混じっている。柵には幾つもの南京錠が掛けられていた。世のカップル達が永遠の愛を誓い、離れないように鍵を掛けてこの地を去っていく。  素敵な話だが、疲れ切った男二人には少しも響くことなく、同じ敷地内にある音楽堂へ向かった。  途中、自販機でジュースを買った。熱を持つ身体、乾き切った喉を炭酸が刺激する。体中に水分が巡っていく。

旅日記 秩父にて 壱 始まり

 これは僕が夏に秩父に行った話。  始発の電車に揺られ、乗り換えること三回。三時間程かけてようやく辿り着いた場所。友人の後ろに付いて向かったのは駅の中にあるフードコート。少し早い昼飯(秩父ラーメン)を堪能しながら予定を立てる。それぞれの行きたい所を重ね合わせ、一つのルートが出来上がると二人は席を立ち、近くのレンタルサイクルへ向かった。  慣れない小さなタイヤの自転車に乗りながら秩父橋へ漕ぎ始める。外を出歩くには少し暑過ぎる太陽の日差しを浴びながら傾斜のある橋の真ん中で撮影