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かっぱのクレモと魔法の鉛筆

作:KAZ

【第一幕】


 「えーん…えーん…。」どこかのお花畑で小さな子どもが泣いています。近くに寄ってみると、その子は緑色の肌、クチバシもあり、しっぽも生えて、赤い長靴を履いているし、変な被り物もしています。この子は一体何者なんでしょう?

「おーい、クレモよーい。」そして今度はどこからかお年寄りの声が聞こえます。どうやらあのこどもはクレモという名前のようですね。おじいさんはお花畑の向こう側から、ゆっくりとクレモに近寄りました。

「探したぞクレモ、そんなに泣いてどうかしたのか?」するとクレモは顔をあげます。ああ、この顔はもしかして……。

「ぐすん…ぐすん…だって……だって………うえぇーん!!」あれあれ…すごい泣き虫なこどもですね。

「ああ、わかったわかった。お前は不安でしかたがないんだろう?何が不安かすらよくわからなくて怖いんだろう。お前は色んな気持ちを感じ取ることができる優しい子だ。そうだ、お前にいいものをあげよう。」そう言ってそのおじいさんはクレモに小さな何かを渡しました。

「これ…なぁに?」クレモの手の中にあったのは、鉛筆です。

「これはな、魔法の鉛筆じゃ。描いたものが現実のものになるという不思議な力を持つ鉛筆なんじゃ。正しき心を持つものには幸運を、悪しき心を持つものには不幸をもたらす。」そう言いながらおじいさんは懐からスケッチブックを取り出してクレモに何か描いてみるよう促しました。クレモがスケッチブックに何か描いて見せると、そこから少し歪な蝶々が次々と飛び出してくるではありませんか!クレモは、はじめは驚いていたものの、次第に蝶々たちと戯れ出しました。その姿をみたおじいさんは優しく微笑み、どこかへと歩いて行ってしまいました。そしてどこか遠くから、おじいさんの声が聞こえてきました。

【クレモよ、その鉛筆で世界を幸せにするのじゃ。そのためにはたくさんの出会いとたくさんの経験が必要じゃ。お前ならきっと良い友達に恵まれるだろう。この世界を頼んだぞ、かっぱのクレモよ。】

クレモが気づいた時にはおじいさんの姿はどこにもありませんでした。ひとりぼっちになったクレモは、泣き出しそうになりましたが、一生懸命堪えて、力強く鉛筆を握りました。

「神様……ぼく、がんばるから……!」そしてまた泣き出してしまいました。

 あれから月日が流れ、クレモはある少年の家で暮らしていました。その少年の名はコータロー。クレモがひとり彷徨っているところに遭遇し、家に招き入れてくれたのです。彼はもうすぐ10歳になる。

「ねークレモ!今度はさ、恐竜描いてみてよ!」コータローとクレモは互いに一番の親友になっていた。クレモの魔法の鉛筆のことももちろん知っている。クレモは喜んでコータローの要望に応えました。

「え…なにこれ……?」スケッチブックから出てきたのはかなり歪なトカゲのようなもの。まだまだクレモは絵の練習中なんです。ふたりはそれを見て笑い合いました。コータローとはおやつのドーナツを分けあったり、家の中で隠れんぼをしたり、学校の宿題を協力しながら終わらせたり、とたくさん遊んでたくさん笑いました。そんなふうにコータローと過ごす時間は、クレモにとってとても幸せなものでした。

 クレモはある時から、少し違和感を覚えるようになりました。最近なんだかコータローの元気がないように感じたのだ。大好物のドーナツを少し多めに分けても、ボーっとしながら口に運ぶだけ。話しかけても上の空で、コータローが喜びそうな絵をたくさん描いても反応を示さなくなった。これは明らかにおかしい……!そしてある日、とうとうコータローは、クレモに向かっておかしなことを言い出しました。

「ねぇ、クレモ……。その鉛筆って…ぼくにも使えるかな……?」

 「その鉛筆を使って、ぼくも何か出したりしたいんだけど……できるかな……?」クレモは衝撃を受けました。なぜならコータローはお絵かきが大の苦手で、今まで自ら絵を描こうなんて言い出したことがなかったからです。これは明らかにおかしい…!コータローの身に何かあったのだろうか?クレモはあらゆる可能性を考えましたが、とても思いつきません。頭から煙を出していると、コータローは静かに身支度をして、とぼとぼと玄関に向かいました。そして小さな声で

「行ってきます…」と家を出て行きました。そうです、この時間コータローは決まって学校に通っているのです。コータローのママさんと一緒に心配そうに見送っていると、クレモは不意に閃きました!

【もしかして!学校で何かあったんじゃ!?】クレモはママさんに気づかれないようにこっそりと家を飛び出し、そしてコータローにも気づかれないように後を追いかけました。コータローの元気を奪っている原因を突き止めるんだ!とクレモは心を燃やしていました。


【第二幕】


 「へぇ〜!ここが学校かぁ…!」クレモは初めてコータローが通う学校を目にしました。建物がとても大きく、コータローと同じくらいのこどもたちが次々と校舎に入って行きます。クレモは気づかれないよう草むらに身を潜め、人気がなくなると、そばに置いてあった穴あきバケツに身を潜めながら、学校のどこかにいるコータローを探しました。

学校はとにかく広くて、教室も数えきれないくらいあります。コータローを見つけるどころか、他のこども達に見つからないようにするのがやっとでした。探すのに随分と時間が経ってしまい、気づけば他のこどもたちは帰り支度をしています。クレモは一日中、バケツの中で学校中を探し回った疲れとコータローを見つけられなかった残念な気持ちでしばらく動けませんでした。

しかしその時、どこからかコータローの声が聞こえた気がしました。クレモはゆっくりと声が聞こえた方へ近づいてみると、ようやくコータローの姿を見つけることができました。しかしその周りには4〜5人のこどもが囲うように立っていて、その雰囲気はとても穏やかなものではありません。そしてそのひとりが、ニヤリと笑いながらコータローに向かってこう言いました。

「なぁコータロー、お前はどうしてこんなにダメダメなやつなんだ?」

 その少年は続けて、コータローにこう言いました。

「勉強もダメ、工作もダメ、体育もダメ、美術もダメ。ダメダメダメダメばっかじゃん。今日のテストだってお前ドベだろ?先生も呆れて物が言えないって顔してたぜ?」それを聞いたクレモはとても腹立たしく思いました。コータローにそんなことを言うなんて…!許せない!しかしコータロー本人はなにも言い返せない様子で、ずっと下を向いて俯いていました。そんなコータローに苛立ちながらその少年は、仲間を連れて教室から出て行きました。コータローはしばらく、ひとり取り残された教室で俯いたままです。クレモもなんと声をかけて良いかわからず、気づかれないよう校舎を後にしました。

 お家の門限が近づくと、コータローはゆっくりと校舎から出てきました。するとコータローの名を呼ぶ聞き覚えのある声がしました。クレモです。校舎の外で、コータローが来るのを待っていたのです。

「コータローをお迎えに来たんだよ」と笑顔で迎えてみるが、コータローは気まずそうに

「もしかして。。。見てた?」と聞き返してきました。クレモは否定しようとしましたが、嘘をつくことができず、頷いた。コータローは帰り道に、最近の悩みをクレモに打ち明けました。

「ぼく全然勉強とかできなくてさ、運動も苦手だし、手先も器用じゃないし、気が利かないし、みんなの足を引っ張ってばっかりなんだ。だからみんながぼくにイライラするのもわかるんだ。さっき教室にいた子、ヤマトくんって言うんだけど、すっごく頭が良くて運動もできてさ。ぼくがヤマトくんに勝てることなんか、ひとつもないんだよ…。なんかさ、どうして自分はこうなんだろって最近考えちゃうんだ……。」だから最近あんなに落ち込んでいたのかとクレモは理解しました。コータローの悩みは簡単には取り除けない、とても難しい問題でした。それでもクレモはコータローに言いました。

「コータローは誰よりも優しいと思うよ。ぼくのこと見つけてくれて、ずっと一緒にいてくれるんだもん。それってすごいことだと思う。」それはクレモの本心でした。コータローはその言葉を聞いて、少し照れ臭そうにしていました。それでもまだ、コータローの表情が晴れることはありませんでした。

次の日、クレモは昨日の学校探検で疲れたのか、コータローが何度起こしても全く起きる気配がありません。仕方なくそのまま学校へ向かおうとすると、ふとある物が目に映りました。それはクレモが肌身離さず持っている、あの魔法の鉛筆です。コータローはそっとクレモの手から鉛筆を抜き取り、家を後にしました。

 コータローはまたしても学校でたくさんの失敗をしました。算数の授業ではずっと一つの問題が解けずにいたり、家庭科の授業ではボヤ騒ぎ、音楽の授業ではひとりだけ音を外してしまうのです。クラスのほとんどは、そんなドジなコータローの姿を見て面白おかしく笑っていましたが、一部快く思わない人もいました。そう、ヤマトたちです。学校が終わり、帰ろうとするとコータローはヤマトたちに呼び止められました。

「おいコータロー、ちょっとこっち来いよ。」

 その頃、夕方になってようやくクレモは目を覚ましました。随分疲れていたようですね。時間を確認したクレモは驚いていましたが、しばらくして違和感に気がつきました。

「あれ……?ぼくの鉛筆は…?」あたりをどれだけ探しても見つからず、クレモは焦りました。そして窓の外を見つめながら、もしや…と、コータローを心配しました。

 コータローはヤマトたちに連れられ、校舎裏にいました。そしてまたしてもヤマトたちはコータローを責め立てます。

「昨日もあれだけ言ったのによ、何にも変わってないじゃんかよ。学習能力ないんじゃないのか?あぁ?お前がいると授業が全然進まなくて困ってるんだよ!邪魔するなら学校来るんじゃねぇ!」コータローはその言葉を聞いた途端、下を向いて静止しました。あまりにも反応がないのでヤマトたちも様子を伺っています。コータローが顔を上げると、目には涙が浮かんでいました。学校で涙を見せたのは、初めてのことです。

「ぼくがそんなに見たくないなら……!お前たちがいなくなれば良いんだ!!」そう言うとコータローは慌ててノートと鉛筆を取り出し、ノートに何かを描き殴りました。それは決して心地よくない、おぞましい何かです。すると次の瞬間、ノートから、何かどす黒く大きな物が飛び出してきました!


【第三幕】

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