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砂漠の少年サハラ


【第一幕】


 ここは砂漠の王国ロックダウン。毎日太陽が激しく照り付けて、雨が降ることはほとんどありません。この国はとても不思議な国で、なんと高い岩山に囲まれ、どこにも出口がなかったのです。あるのは岩山の隙間に作られた大きな扉、しかしその扉は鍵によって硬く閉ざされていました。その昔戦争から逃れた王様とわずかな国民たちがここへ逃げ込み、襲われないようにと扉を設けたのだとか。それ以来扉はあけられることはなく、ロックダウンは外の世界を知らぬまま、成長を遂げるのでした。

 この国には、誰からも愛され、親しまれる少年がいました。その少年の名はサハラ。サハラはとても力持ちで、荷物運びを仕事にしていました。暑くて誰もやりたがらない荷物運びをサハラはいつも笑顔でこなしていく。相棒のラクダにまたがり、軽快に砂漠へと駆け出していく姿を見ては、村の人たちは呆れるような、笑ってしまうような、そんな気持ちにさせられたのでした。そんなサハラには誰にも言わない、大きな夢がありました。「いつか、この国をでて外の世界を冒険する」こと。村人たちは、外に出るなんてバカげた話だと、そう思っていたけれど、サハラは決して諦めてはいなかったのです。

 そんなロックダウンにはある問題がありました。それは「水」の問題です。あたりは一面砂漠で、雨も降ることが滅多にないため、村人たちは常々飲み水の心配をしています。その上、一番問題なのはその水を売っている男にありました。ドグマ、という男です。彼はものすごく頭が良く、商売上手で、何より欲深い男でした。ドグマはいかに効率よく雨水を集められるかという研究をし、そのための機械を作り、見事より多くの雨水を確保することに成功したのです。しかしドグマの恐ろしいところは、その水を村人に対しそれはもうとんでもなく高い金額で売り付けたことです。水不足の村人たちに抗う術はなく、どんどん国中の資産がドグマのもとに集中しました。そして最後には国王ですら手が出せなくなり、実質的な支配力はドグマの手に渡ってしまいました。代々国王のもとに受け継がれた扉の鍵も、今ではドグマの手の中にあるのです。

 サハラはこの状況をなんとかしたいと思っていましたが、彼にはどうすればいいのか、具体的な策が思いつきませんでした。そんな中、いつものようにみんなの荷物を運ぶために砂漠を歩いていると、突然激しい砂嵐に襲われました。砂嵐は風の状況によって時々起きるものですが、今回は特別激しいものでした。しばらく耐えるように静止していると「うおおおおおん」という不気味なうねり声を聞こえました。その瞬間「どーん!!」という大きな音と衝撃が襲ったのです。何が起きたのかわからないまま、砂嵐はしだいに消えて行きました。するとそこには驚きの光景が広がっていました。自分の目の前に、見たこともない、鉄の塊が現れたのです。驚きを隠せないまま、観察していると、やがてこれがいつか本で見たことのある、飛行機という乗り物だということがサハラにはわかりました。その時飛行機の扉が開き、なんと!サハラと同い年くらいの少女が出てきたではありませんか。少女は気を失い、サハラは慌ててその少女を家へと連れ帰りました。

 サハラが去った後、突如現れた謎の物体の噂は瞬く間に広がり、当然ドグマの耳にも入りました。するとドグマの鋭い表情がより一層険しくなるのでした。


【第二幕】


 サハラが一生懸命看病した甲斐もあり、少女は無事に目を覚ましました。最初は戸惑っていた彼女でしたが、サハラの真摯な心遣いに安心したのか、自身の身の上を話しました。彼女の名はネル、はるか遠くの地にある水の都のお姫様である。そしてここにきた理由は、王家のしきたりに嫌気がさして思い切って自家用の飛行機に乗り家出をしたところ、気がつけば帰り道が分からなくなり、彷徨っていると突然の砂嵐に襲われ、いつの間にか気を失っていた、ということらしい。それを聞くとサハラは信じられないような気持ちでした。しかし彼女の仕草や態度を見ていると嘘ではないし、ネルならありえるだろうと思いました。それと同時に初めてあったとは思えないような心地よさも覚えるのでした。

 ネルは水の都の話だけでなく、これまでに訪れた国の数々、家族の話、どれだけヤンチャに過ごし家族を困らせてきたのかを面白おかしく話してくれ、サハラも一緒になって笑い転げました。その楽しげな様子は、こちらまでついつい笑いたくなるほど愉快なものでした。

 ネルの話を聞いてからというもの、サハラはなんだか嬉しくてたまらなくなりました。なぜならこの国の、この岩山の外にはネルの住む水の都だけではなく、まだまだ自分の知らない世界がたくさん広がっているということがわかったからです。村の言い伝えでは、外の世界は戦争によってすべて滅びた、ということになっているけれど、本当はそうじゃなかった。自分が信じていたことは間違っていなかったと、そう思えました。それに今苦しめられている水の問題も、外に出ることができれば解決することができる。サハラは飛び上がって喜び、ネルと小躍りをした後、「ネル、必ず君を水の都に返してあげるからね!」と約束しました。

 サハラたちが外に出られるようにするためにはみんなに外の世界のことを知ってもらわなくてはいけません。それに外に通じる扉の鍵も、ドグマが持っているため、容易には出られません。ですがサハラは静かに「絶対にやってやる!」と闘志を燃やすのでした。

 その時、何やら外で騒がしい物音がしました。表に出てみると、なんとドグマの親衛隊が大勢でやってきているではないですか!もしや、と思いましたが不安は的中しました。「この国に不法侵入した者がいる!匿っているもの、および姿を見たなどの証言のあるものは名乗りあげよ!偽りとわかった時はドグマ様の法のもと、厳しく罰せられることになるぞ!」親衛隊のリーダーらしきひとりがそう言い放ちました。やはり、ネルを探しにきたのだ。村の人たちにはネルの姿を見られているし、早くこの場から逃げなければ…!サハラとネルはフードを被り、見つからないように逃げようとしましたが、思いの外親衛隊たちの警備が厳重でうまく逃げられません。どうしようか迷っていると誰かに声をかけられました。驚いて振り返ると、それは近所の村人たちでした。「こっちだ」と家に招いてくれ、隠れた地下通路へと通してくれました。彼らはサハラたちのことを密告するどころか、逃げるための手引きをしてくれたのです。サハラとネルは村人たちに感謝を告げて、急いで隠し通路から逃げました。うまく親衛隊たちを撒いたサハラたちが向かったのは、なんとあのドグマが住む屋敷です。このまま逃げていても時間の問題だと悟った2人は、ドグマから扉の鍵を手に入れるしかない、そう思ったのです。

 ドグマの屋敷は国王の王宮よりもはるかに大きいものです。屋敷の警備は村に親衛隊が向かっている分、薄くなっていました。サハラは警備の目が届かないところから屋敷に侵入しました。サハラはドグマの屋敷にも荷物を運んだりしていたので屋敷には少し詳しかったのです。2人が目指すのは一番上にある部屋、ドグマの部屋。鍵を隠しているとすればそこしか考えられません。順調に階を進め、いよいよ、ドグマの部屋に入ろうとドアのぶに手をかけた時!天井から網が降ってきて、2人は捕らえられてしまいました。ドグマの鍵を狙う者への罠です。

 2人は両手を縛られたまま別の部屋に連れていかれました。そこにはドグマが、いかにも高そうな椅子に座っていて、こちらを睨んでいました。「俺の屋敷に侵入するとはいい度胸だな、サハラ。そしてお前が、不法入国者だな。」いかにも不服そうにそう問いかけて、そしてこう結論づけました。「女、お前は不法入国の罪で公開処刑だ。そしてサハラは不法侵入の罪で……お前は砂漠が好きなようだから、砂漠の真ん中に縛り付けてくたばるまで放置してやろう。」

 ドグマはやはり残酷な男でした。2人を殺すのになんの躊躇もありません。サハラがドグマに反論しようとした瞬間、ネルがドグマに話しかけました。

 「あなたはこの国が枯れゆこうとしているのがわからないのね。あなたはそれだけの知恵があって、財を成して、たくさんのものを手にしている。それなのにあなたは何一つ分け与えようとはしない。水だってそうよ、あなただけがたくさん手に入れて、他の人には苦しい思いをさせている。そんなの絶対に間違っているわ。この国は砂漠に囲まれているけれど、みんな必死にたくましく生きているの。その生命を枯れさせようとしているのは、水じゃない、あなたよ。」

 ドグマは怒り狂い、ネルを思い切りぶとうとしましたが、サハラが代わりにそれを受け、気絶してしまいました。そのままドグマは立ち去り、ネルとサハラはそれぞれの処刑のために連れて行かれるのでした。


【第三幕】

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