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『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』感想

かつての天才シェフが屋台をしながらアメリカ大陸を横断する映画。

主人公はかつて、天才と謳われ、評論家にも希望の新星と書かれたが、それも昔の話で、今は生活のためにレストランの雇われ料理長。
あの頃の料理への愛情は、毎日決まったメニューを出す、というルーチンに埋れてしまっている。

美人の妻とも離婚し、息子には週末に会えるのみ。

生活にも張りがなく、ギャラは良いけどこのまま老いさらばえて行くのかな、と思ったところへ、有名料理ブロガーがシェフの料理を食べに来るという。
彼は昔シェフのことをベタ褒めしてくれた人なのだ。

あの頃の俺と変わっちゃ居ないぜ、と燃えるシェフ。

だけどレストランのオーナーは、そんな勝手な料理なんか出すな。うちのレストランのメニューではない。と、何時もの代わり映えのしないメニューを出すように指示。

雇われだから仕方ない。それでも腕によりをかけて作るのだけれど、楽しみに見たブログでの評価は散々。

料理人にとってみれば、死ね、と言われてるような辛辣な内容。あーあ。

怒りに満ちたシェフは、リベンジだ、とばかりに斬新な料理のフルコースを作り上げ、ブロガーに挑戦状を叩きつける。ツイッターで。

で、その挑戦状は瞬く間に拡散されて、レストランの予約は満席。

舞台は整ったはずだったが、やはりオーナーは、そんな料理出すな。言うこと聞けないならクビだ。と激昂。

怒りとプライドで視界が狭くなったシェフは、あー上等だ、とレストランから出て行ってしまった。

今日の料理はどうするの。
副料理長が異例の出世をするのだ。

で、シェフは家に帰って、今日出すつもりだった料理を自分一人のために作り上げ、テーブルに並べる。

これさえ食べてもらえれば。
だが、そんな場は与えられなかったし、レストランから出て来たのは自分なのだ。

そんな折、ブロガーはレストランから、ひでえ料理が今日も出てきおった、あのシェフは挑戦状叩きつけたくせに負け犬のように逃げよった、などと実況ツイート。

シェフは、もう許せん、とレストランまで駆けつけ、ブロガーのテーブルの前で悪口を言いふらす。

当然周りの客はそれをスマフォで撮影→YouTubeにアップ→Twitterで拡散。

あっという間にシェフは、悪い方の有名人になってしまう。

彼は、自分程の腕があれば再就職も余裕だ、と考えていたのだけど、拡散された動画を見た人は誰も雇いたがりません。

面白かった、とか、爆笑した、とか、スカッとした、とは言ってくれるけど、そんな言葉かけられても仕事があるわけでなく。

唯一、料理を作れる相手は、週末に会う息子だけになってしまった。

息子は、お父さんの仕事場が見たいよ、とか言うのだけれど、シェフは断ります。
あんな言葉使いの汚い現場に子供を入れられないよ、と理由をつけて。

仕事もプライドもなくしたシェフは、離婚した妻の機転により、とうとう妻の最初の旦那から、ボロボロの屋台を譲り受けます。

別れた妻の! 最初の旦那から!
屋台を!

もうこの時点で、シェフがかつて持っていたプライドは殆ど残って居ないのです。

残ったのは、旨い料理を作れる、と言う自信だけだ!

と言うわけで、生まれ変わってゼロからやり直すことに決めたシェフは、アメリカ大陸を東から西へ、屋台を走らせながら人々に料理を振る舞って行きます。

気の良い仲間も手伝ってくれ、更に息子も夏休みを利用して父の屋台に乗り込み……

男三人による大陸横断料理旅の始まりです。

やがてシェフと息子は、親子の大事な絆を取り戻して行くのですが、そのやりとりをジメジメ見せるのではなく、アメリカ各地の名物料理や音楽、そして息子の操るSNS、というところが大変にクールです。

かつて自分の身を(自業自得とはいえ)滅ぼす原因となったSNSは、使い方によっては大変な武器ともなるのです。

やがて彼らの旅も終わりに近づき、シェフは、ある重要な決断をします……

という、大変に面白い映画でした!

やや展開に御都合主義と甘すぎな向きはありますが、シェフの転落が前半で一気に起こるため、あとは緩やかに回復して行くのだ、と思えば気にならないかもしれません。

監督脚本主演のジョン・ファブローの経歴から生まれた映画で詳しいことはWikipediaで調べればどういう人がどういう経緯でこのような脚本を書いたか、は容易に予想できると思います。

でも元々監督はインディーズ出身であり、パンフレットでも語ってましたが、けしてネガティブな感情からこの映画を作ったわけではない、とはっきりと言っていました。

テーマはとてもわかりやすく、大人から子供まで楽しめる作品で、何よりも料理が美味しそうすぎるのと、音楽のセンスが抜群に良いので、BGMとしても優秀な映画です。

使い方によっては、毒であり敵にもなるが、薬であり味方にもなる。

というのが今作でのSNSの一面として描かれますが、全ての登場人物と料理も、同じように描かれています。

もちろんオススメです。

#映画 #映画レビュー

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