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『ホラー・シネマ・パラダイス』 感想

スター女優になれなかった惨めな映画館支配人が、やがてスターを夢見て輝いていく映画。

ジョン・ウォーターズが絶賛!
というコピーを見て、なるほど、と思った。鑑賞中、チラチラと『セシルB・ザ・シネマウォーズ』のことを思い出していたからだ。あと、ジョン・ウォーターズ作品常連のミンク・ストールが出てるし。

2010年にアメリカで作られたインディーズ映画なのだけれど、大変面白かったです!

幼いデボラは、大好きなパパの経営する映画館のステージで、歌を歌う。ピアノの伴奏は勿論パパ。

パパは、「デボラにはスターの素質があるよ」なんて言うけれど、ステージ上のデボラは、クラスメイトの視線や野次に耐えかねて、歌いながら失禁。更にマイクコードが小便に漬かったことによりデボラは哀れ、感電してしまうのだった。あー可哀想。
慌てたパパはデボラを泣きながら抱きしめる。一命を取り留めたデボラだったが、パパの愛情がもう、ものすごく泣ける。そして美人の継母は、そんな二人の姿をステージ袖で見ながらゲラゲラ爆笑してる。なんだこのババア。

そして始まるハイセンスなオープニングタイトル!
ここまでで、映画は始まって五分ほどしか経ってないんです!
心を奪われました。

時が経ち、大人になったデボラは映画館の経営を手伝いながらも図書館で働いている。
大好きだったパパは先日死んでしまった。

デボラはパパの大切な映画館は、自分が残していかなきゃ、と心に決めていたが、その映画館も今や、深夜に古いホラー映画を専門にかけて、少数のファンが来るだけの沁み垂れた経営状況。

図書館の同僚のおばさんのエヴリンには、「そんな仕事辞めた方が良いわよ」とか心配されているが、デボラには届かない。

四十年以上その映画館で映写技師を務めたトゥイグスというお爺さんも、映画館で働いてくれている。
デボラは「給料なんて払えないのよ」と言うのだけど、トゥイグスは「私はこの映画館が全てなのです。お手伝いさせてください」と。
泣ける。

そしてハーシェル・ゴードン・ルイスの『血の祝祭日』を上映する日、高校生のスティーブンスもこの劇場のファンで、デボラに「君のお父さんのおかげで僕は沢山のホラー映画に会えたんだよ」と感謝とお悔やみの言葉を告げる。
なんて良い話なんだろう。
そしてパパは経営者としては有能ではなかったかもしれないが、とても愛されていた人物なのだ。

しかし、そんなパパを全く愛していなかった人物がいる。
デボラの継母である。

彼女はよりによって『血の祝祭日』を上映する日に劇場にやって来てデボラに会うなり、「この映画館は潰して売って生活用品店のチェーン店にするから」と信じられないことを告げるのだ。

勿論デボラはそんなの絶対にゴメンなので、「嫌だ嫌だ」と拒否するのだけど、このクソババアは、ポップコーン機の熱い部分にデボラの手を押し当てたり「お前は冴えない豚だ。何がスターだ。何が女優だ。お前の父親もお前と同じくらい愚かだ。バカ! バカ!」と罵ったりするのです。
酷い!

で、ブチ切れたデボラは、映画館売却のサインをするためのボールペンを継母の喉にグッサリ。
血がドバー。
そしてデボラは継母を刺し殺しながら、『13日の金曜日』の台詞を喚くのです。その瞬間、デボラの中で、殺人と女優が一つに繋がるのだった。

そしてその犯行の総ては、監視カメラに記録されていたのだが!

その頃映画館の観客席では、映画が中々始まらないので数少ないホラーファンがブーブー言い始める。
我に返ったデボラは、映写室に駆け込み映画を流そうとするが、どう操作して良いかわからず、誤って監視カメラの録画映像をスクリーンに流してしまうというドジっ娘ぷり。

どういう映像ライン組んでんだよ! と呆れるが、スクリーンに映った、撮れたてホヤホヤの継母殺人映像に、ホラーファンは「良くできてるね!」とやんややんやの拍手喝采。

そしてその様子を見ていたトゥイグスは、一瞬で状況を察し、デボラを救うため、観客の前で「今観たあれは、私たちが作った短編映画だったんです。どうです、デボラはすごいでしょう」と演説。

高校生のスティーブンスはすっかり信じ込み、デボラを捕まえるなり、「君は天才だよ!」と絶賛。

デボラは、これこそが私の生きる道なのだ、と、女優として、監督として、そして殺人鬼として、才能を発揮していくのだった……。

これは、映画という虚構の芸術作品への賛美を描くと同時に、劇中でも学校のシーンの台詞で語られている、「マイノリティの人々がどう生きていくのか」という映画でもある。

スティーブンスは、高校を卒業したら美術を学んでアニメ作品を作りたい、という夢があるのだけれど、頭の固い教師や母親には理解されず、更に教師からは「コロンバイン銃撃事件のようなことをいつかやらかす危ない奴」だと思われている。
だけど、彼らは生まれた時から殺人者だったわけでは無い。
何処かで、誰かが手を差し伸べてやることさえできていたら、きっと未来は変わったものになったはずなのだ。

デボラも同じ運命を辿っていくのだが、彼女は唯一の「家族」であった父と継母、二人の死をキッカケとして輝ける自分に気づいてしまったが故に後戻りできなくなっていく。
更にデボラは、キチガイ暴力あんちゃんや、双子殺人鬼などの、新たな「家族」を手に入れ、次々と「作品」を撮影していくのだった。

スティーブンスの「家族」である母親は、だけれど最後まで息子を見捨てたりしない。呆れ、嘆き、苦しみながらも息子を理解していこうと戦う。
だからスティーブンスは、ヒーローになることが出来るのだ。

監督のジョシュア・グランネルという人は、これがデビュー作だと知って驚きました。

といってもアメリカのアンダーグランドカルチャーでは、Peaches Christと名乗るドラァグクイーンとして、ダンサーとして、パフォーマーとしてかなり有名な人みたいです。

本人も映画の中に、本人役として結構美味しい役でたくさん出てました。楽しかった。

レンタルで観たので、特典映像が予告編一個しか入ってなくって残念だったのですが、購入盤だと、しこたま特典映像が入ってるようなので買おうと思いました。

中でも、ワールドプレミア上映の時、出演者が舞台で全員で歌ったり踊ったりしたパフォーマンス映像が丸々入ってるらしくて、それが大層面白いらしいので是非とも観たいです。

こういうホラー映画で、出演者が仲良い風景って本当楽しくてワクワクしますよね。
詳しくは、『HORROR SHOCKS 呪』というブログのこの記事に詳しく書かれているのでぜひ読んでみてください。

映画というのは、想像力が生み出す圧倒的な力をスクリーンに込めた芸術で、決して現実の殺人をそのまま撮影したところで、それは紛い物でしかないのだ。
紛い物のスターにしかなれなかったデボラには、誰からも尊敬されない惨めな未来が待っているのみなのだ。

オープニングタイトルで一目瞭然のように、あらゆるホラー映画へのリスペクトが込められている。
ラストは『デモンズ』!
あ、あと途中『シリアル・ママ』も彷彿とさせてましたね。

素晴らしい映画でした!
皆も是非観よう!

#映画 #映画レビュー

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