見出し画像

『ストレイト・アウタ・コンプトン』 感想

伝説のヒップホップグループ、N.W.A.の結成から分解までを描いた映画。

1986年、L.A.郊外の街コンプトン。
イージー・Eは麻薬の売人という生活に先行きを見出せずに燻っていた。
ドクター・ドレーは妻と子どもがありながら、一回50ドルのDJ仕事に嫌気がさしていた。
アイス・キューブは高校に通いながら、ノートに詩を書き溜めていた。

ドクター・ドレーは自分の作ったトラックとビジョンがきっと大金を生み出してくれるはず、と確信していた。

ドレーはイージー・Eに出資をしてもらい、自分たちの音楽を世に出すためのレコードレーベルを設立する。

ドクター・ドレーのトラックと、アイス・キューブのリアルな歌詞。
そこにストリートのリアルを声に乗せられるラッパーさえいれば、きっとこの曲は売れるはずだ。

出資者であり社長であるイージー・Eに、ドレーはラップをしてみろ、と提案する。

実際にコンプトンで、ドラッグの売人としてストリートに生き、警察の暴力的な取り調べから生き延びていたイージー・Eには、そのリアルな声を発することができるはずだ、という、ドレーの確信があったのだろう。(実際に映画本編は、イージー・Eがドラッグの取引をしているところに、L.A.警察が戦車で突入してくる、というコンプトンのとんでもない現状を映すところから始まっている)

はじめはド下手であったイージー・Eであったが、彼にはカリスマ性があった。
そうして『ボーイズ・ン・ザ・フッド』という曲が生まれることとなった。

リリースされると瞬く間にN.W.A.は話題のグループとなる。

レコードは飛ぶように売れ、やがてイージー・Eの前に、ジェリー・ヘラーというユダヤ人がマネージャーとして彼らに介入してくる。

ジェリーはN.W.A.を大手レコード会社に売り込み、全米ツアーを組み、1stアルバムをレコーディングしていく。

そんな中、N.W.A.のメンバーはL.A.市警察の不当な人種差別丸出しの職務質問に怒りが遂に爆発。

アイス・キューブは『FUCK THE POLICE』という詩を書いてくるのであった。

やがてアルバムが発売されると300万枚を越す大ヒットとなり、ツアーは大盛況。

しかしN.W.A.は「暴力を煽る歌詞を書く」として、警察やFBIに目を付けられ、『世界で最も危険なグループ』と言われるようになるのであった。

そんな折、アイス・キューブは、ジェリーとイージー・Eのギャラの取り分と、他のメンバーとのギャラの取り分との差に不信感を抱き始める。

アルバムのほとんどの歌詞を書いているのは自分なのに、受け取る金額が少なすぎる……、と。

素晴らしい映画でした!

N.W.A.が結成されたとき、周りの業界人たちは口を揃えて「コンプトンの歌なんか誰も聴きたがらない」と嘲笑う。
「ニューヨークみたいな大きな街でないと」と。

しかし、彼らには「じゃあニューヨークの歌に変えよう」という選択肢はない。

何故なら、自分たちを作り上げたのはコンプトンだから。

コンプトンで培った怒りが、自分たちには一番リアルだから。

そこは、クリップスとブラッズという対立するギャングたちがドラッグを巡って争い、警察は彼らを殲滅させようと、強行手段に出ている街。

高校生のアイス・キューブも、黒人である、という理由だけで、警察にボンネットに叩きつけられる。

自分たちが社会に感じている怒りは、ニューヨークなどに行かずとも、コンプトンから世界に発信できるのだ。

彼らの怒りを警察は恐れている。
民衆を惑わし、攻撃的にするのではないかと。

そして1992年、ロドニー・キング事件をきっかけに、ロス暴動が起こる。

だが勿論、N.W.A.の曲が人々の暴動を招いたのではない。
N.W.A.のメンバーらと同じような怒りを溜め込んでいた人々が多くいただけなのだ。

だからN.W.A.は売れた。
それがコンプトンの歌であれ、世界的に通用する普遍的な怒りと、徹底的にリアルを歌っていたからだ。

ロス暴動のシーンで、対立していたクリップスとブラッズのギャングたちが、お互いのカラーのバンダナを一つに結んで共に警官に立ち向かうシーンが感動的。

デスロウ・レコードのシュグ・ナイト以外は殆ど善人に描かれていて(後にグループ崩壊の原因となる、マネージャーのジェリーですら、人種差別からメンバーを護ろうと警官に立ち向かう、という良いシーンがある)少し都合よすぎるきらいはありますが、元メンバーが映画の製作にガッツリ関わってるから致し方のないことかも知れませんね。

まあシュグ・ナイトは良いところが本当にないっぽいので描きようがなかっただけかも知れませんが。

あと、ボーン・サグスン・ハーモニーは大好きなグループなので、もう少し出して欲しかったかも、と個人的な思いが。
当時も相当売れてたはずなのに、映画の中ではまだまだこれからの新人さん、みたいな登場しかしないんですよねー。

あ、あと、自分がまさか難病もので号泣するとは思わなかった!

#映画 #映画レビュー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?