見出し画像

『ババドック 暗闇の魔物』 感想 ※ネタバレあり

怪物ババドックが家の中に入ってくる映画。

噂には聞いていましたが怖い映画でした。怖かったー!
最近見た外国映画で一番怖かったかも。

老人介護施設で働く未亡人のアメリアは、息子のサミュエルと二人暮らし。

サミュエルは、アメリアの同僚に「病気の息子」と呼ばれていることから、ADHDではないかと思える。

実際サミュエルは同世代の子供に比べて必要以上に活発だし、死んでしまった旦那の母親からは「サミュエルは思ったことを全て口に出してしまう」と言われている。

それでもアメリアはサミュエルを愛し、サミュエルもアメリアを愛している。愛犬のバグジーも仲良しだ。

サミュエルは子供らしく、夜のベッドの下やタンスの中に潜む怪人ブギーマンに恐怖心を抱いているが、自作の武器で対抗する覚悟を持っている勇気ある子供だ。そして手先がとっても器用。

そんな中、サミュエルが学校で問題を起こし、教師たちの態度にいらっときたアメリアはサミュエルを学校から連れだす。

サミュエルに絵本を読むことをせがまれたアメリアは、サミュエルが何処かから持ってきた飛び出す絵本『ババドック』を読んで聴かせる。

それは謎の怪人ババドックが、家の中に侵入してくる、という内容であった……

オーストラリア産の恐怖映画。
監督と脚本はジェニファー・ケントという女性で、これが長編デビュー作っぽい。

病気の息子を持つシングルマザーの身に降りかかる嫌な目が、全て詰まってるような悪夢のような物語は、さすがの説得力です。

はじめはサミュエルにしか見えていないババドッグですが、中盤、アメリアの目に見えるようになってくる。

そのきっかけとなるのが、サミュエルに鎮静剤を投与する、という場面からなのです。

問題ばかり起こしてアメリアを寝不足にさせるサミュエルをおとなしくさせるため、アメリアは医者に薬の投与をせがみます。
まだ幼い子供にそんなことをするのがあまり乗り気でない医者を説得し、アメリアはなんとか薬を手に入れ、サミュエルに飲ませます。
その日だけはゆっくりと寝られたアメリアでしたが、その気持の良い目覚めの後、家の扉を3回ノックする音が響くのです。

ドック、ドック、ドック……

バ……バ……ドック、ドック、ドック……

その出来事から、アメリアの目にもババドックが見えるようになるのです。

これは、幼い息子に、自分が寝られないから、という理由で危険な薬の投与をしてしまった自分の心の生まれた闇がババドックという形で現れたということでしょう。

その後、アメリアはサミュエルに対する態度や言葉遣いが以前とはまるで違って強くなっていきます。

遂には、「お腹が空いたよママ」というサミュエルに対し、「糞でも食ってろ」とまで怒鳴りつけてしまうのです。

これはつまり、育児ノイローゼの果て、薬とストレスと寝不足でアメリアが見た幻覚がババドックという形で現れ、そしてそれは育児放棄、虐待の末、子供を殺して自殺しようとする自分の未来に対する、アメリアの言い訳のように見えるのです。

全てはババドックのせいで、自分のせいではない。
という風に。

そしてババドックは、地下室にいます。

そこは、サミュエルの誕生日に、破水したアメリアを病院へ連れて行く途中で事故で死んでしまった夫の遺品が収められている場所でした。

アメリアは死んでしまった夫のことが忘れられないばかりか、妹や義母、息子がそのことを話そうとすると過剰な反応をしていました。

口では「もう吹っ切れた」と言いつつも、全く吹っ切れていなかったのです。

つまりババドックの正体は、アメリアの心の弱さの全て、だったのです。

しかしアメリアには味方がいました。
それは隣りに住む義母であり、なにより息子のサミュエルです。

サミュエルはすっかり自我をなくしたアメリアに対して、
「お前なんかママじゃない!」
と叫び、自作の武器で対抗するのでした。

ラスト。

家族の愛により自分の弱い心を乗り越えることが出来たアメリアでしたが、弱い心を消し去ることだけは出来ませんでした。

それは亡き夫との思い出であり、今後もしっかりと向き合うべき自分自身でもあったからです。

アメリアとサミュエルは、弱い心=ババドッグを地下室に閉じ込めて飼いならしながら、新たな人生に光を当てていくのです。
そしてそれは、手先が器用なサミュエルがとても素敵な手品を成功させる、という未来なのでした。

アメリアがサミュエルに読み聞かえせていた絵本に『三匹の子豚』があり、自身がババドックに乗っ取られた後、サミュエルの籠城する部屋へ入ろうとする姿が狼にかぶるなど、面白い伏線の貼り方も良かったです。
そしてそこからのドアの開け方がアグレッシブ過ぎて笑った。

あと、ババドックの絵本を作り、一度捨てられたはずなのに修復して家に戻したのは誰なのか?
という問題ですが、ほぼアメリアで間違いないでしょう。

アメリアは介護施設で働く前は児童書を書いていた、という台詞があるので、飛び出す絵本が作れてもさほど不自然ではないです。

夫もバイオリンを弾いていたし、サミュエルも手先が器用なので、アメリアも手先が器用なのではないかと思います。

#映画 #映画レビュー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?