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『クリムゾン・ピーク』 感想

幽霊が見えてやだなあ、って映画。

ギレルモ・デル・トロ監督による、哀しくも切ない恋愛要素たっぷりの幽霊屋敷映画……みたいな宣伝のおかげで、他の人も「切なそう!」とか「悲しそう!」とか「衣装が綺麗!」とか勘違いして観に行ったら、まさかの怪獣映画という嬉しくない方面の驚きで、世間的にはあまり評判のよろしくない映画。

しかし、「衣装が綺麗!」なのは間違っていなく、「美術も綺麗!」「俳優も綺麗!」なので、ハッキリ言ってこれらが同じ画面上に浮かび上がって右へ左へウロウロしているのを観るだけでもチケット代だけの価値はある素晴らしい映画なのだが、問題は「切なくて悲しい恋愛映画だと思ってたらまさかの怪獣映画だった! 金返せ!」みたいなことを言っている人たちである。

いや、そこまで言ってる人がいるかは知らないけれど、結構他の人のレビューを読むと、「ラストでがっかりしました」とか「いろいろ投げっぱなしじゃないですか」とか「最後まで美しい恋愛映画で行ってもらいたかった」みたいな意見が多いのですよ。

俺も実際に映画本編を観るまでは似たようなこと思っていました。

ギレルモ・デル・トロ作品の中には『デビルズ・バックボーン』やプロデュースした『永遠のこどもたち』『MAMA』のような、切なくて悲しい幽霊映画の傑作があるからです。

もしくは、幽霊物ではありませんが、『パンズ・ラビリンス』といった美しくも悲しい極悪ファンタジー映画など。

なので、「美しい人達が美しい美術の中で美しい物語をやってくれるんだったらそれはそれで良いものではないか」などと思っていたわけです。

確かに前半は幽霊物で進んでいき、「あ、いいねこの感じ。好き好き」とにこにこして観てたのですが、中盤、とある凄惨な殺人事件が起こると一気に映画はミステリ・サスペンスへと変わっていきます。

「犯人は一体誰?」みたいな。「うわー犯人は誰だろう? 謎だ」と思いながらドキドキして観ていると、やがて物語はドロドロの恋愛模様を挟みながら、ラストで一気に家屋崩壊の怪獣映画となり変わるのです! 

これには驚きました。「うわー! 怪獣映画になった! 面白い! やれやれ殺せ! ぶっ壊ちまえ!」と、自分は最後の最後まで大満足したのでした。

と、観ている途中で気づいたのですが、この作品の監督は、あの、ギレルモ・デル・トロなわけです。

『パシフィック・リム』『ヘルボーイ』シリーズ、『ブレイド2』『ミミック』の、あの、ギレルモ・デル・トロだ!

幽霊映画よりも怪獣映画のほうがラインナップが多いじゃないか! どうして観る前に気づかなかったんだ!

なので、最後の怪獣バトルにブーブー言う人は、「ギレルモなら仕方あんめえ」といって諦めて、さっさと他の映画を観ればいいのです。俺は大満足だったので何度でも観たい! と思いました。

で、中盤の殺人シーンですが、初見で何か既視感があったのです。

「なんかこれ、見たことあるぞ?」と。

調べてみると、同じことを思った人は多いようで、すぐに『サスペリア2』の殺人シーンのオマージュであることがわかりました。

なのでこないだ『サスペリア2』を借りてきて観直してみたら(123分ある完全版の方)、見事に同じで感動的ですらありました。

更に言うと『サスペリア2』の原題は『profondo rosso』で、直訳すると「深い赤」という意味。『クリムゾン・ピーク』も直訳すれば「濃赤の最高潮」というような意味なので、ここも似せている。

そしてラストに近づけば近づくほど、色々と同じじゃないか! と驚きます。本当に細かいレベルで「似ている」どころでなく「同じ」なので、ギレルモ監督によるオマージュとリスペクトの凄さに呆れてしまいます。

「僕の好きな映画の好きなシーンを、僕の映画でもやりたい!」そう思うのは自由ですし、気持ちもわかるのですが、実際やってみると、いかに難しく、勇気のいることか。

上手にやらなければ「パクリだ」と言われるし、全然面白くなければ「名作に傷をつけた」と言われるし、やりたいことをやるには予算も人出も足りなく、ありあわせのもので作ってしまえば「こんなはずじゃなかった」と自己嫌悪に陥り……と、色々と茨の道ではあるのですが、それでも上手いこといけばこういう素晴らしい作品として記憶に残るわけで、そういう意味でもギレルモ監督凄いし、信頼できます!

#映画 #映画レビュー

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