『パラダイム』 感想
サタンが水をゲーゲー吐きながらこの世に復活しようとジタバタするのを阻止する映画。
物語はよくわからなかったのだけれど、全編カーペンター節に溢れていて、カーペンター好きならもうずっとうっとりできる良作。
なんか、隠された教会の地下に閉じ込められたサタンの息子が人間の信仰心のなんかに付け込んで復活しようとしているらしくて、司教は物理学の教授を呼んで、「世界が滅びるかも知れない。なんとかしたいから助けて」とお願い。
そこで教授は学生たちを増員として使うことに。
彼らが閉ざされた教会の地下に足を踏み入れると、そこには緑色した液体(メロンソーダそっくり)が詰まった、巨大な筒状の水槽がそびえ立つのであった。
「世界が滅びるかもしれないのに学生のボランティアで大丈夫なのだろうか?」と困惑するこちらの思惑通り、彼らは勿論大変な目にあうのである……!
科学の発達により、キリスト教の信仰心に揺らぎが起き、そこにサタンが付け込んで復活するので、物理学の教授とその生徒達によって、信仰心を科学的に裏付けする、という作品の根幹を成すミッションが、イマイチ伝わり辛く、前半は中々物語に没頭するのに苦労する。
それでも、前半の終わり、放射能学者のスーザン(若きアン・マリー・ハワードの眼鏡っ子ぶりが超キュート)が、顔面にブシャーと、メロンソーダそっくりのサタンの息子を顔面に浴びることにより、人格が乗っ取られてしまい、そこからは急激に面白くなる。
周りをヌボーっと無表情で一列に並んで立つホームレス(アリス・クーパーが壊れた自転車でお腹を突き刺してくるから逃げられない!)に囲まれ、陸の孤島となった教会に閉じ込められた司教と教授、学生ボランティアの面々は、誰がメロンソーダを顔に浴びてサタンの息子に乗り移られたのかわからないまま、世界を救うための戦いを始める!
と、書くと、「お、『遊星からの物体X』みたいで超楽しそうじゃん」と思うかも知れないが、あの傑作ほどは緊張感がないというか、メロンソーダを顔に浴びる人が誰かは、きちんと見せてもらえるので、「ひょっとしてこいつメロンソーダ浴びてるんじゃ……⁉︎」みたいな疑心暗鬼になるシーンはありません。
むしろ、『物体X』にはなかった、顔面に口からメロンソーダを嘔吐するシーンがバンバン見られることにより、別の楽しさが生まれます。
そう、それは、美女の口から吐瀉されるメロンソーダを顔面で受けるというシーンは、とてもエロい! ということ。
我が家にある『ホラーの逆襲』という本で、日本随一のカーペンターマニアである鷲津義明さんは、『パラダイム』について、
(引用)
『パラダイム』の暗黒の王子を封じ込めた円柱のカプセルは男根を想起させ、そこから発射された液体を精液の暗喩だとすれば、その液体を吸収したケリーが受胎し妊娠したことは容易に納得ができてしまう。
(引用ここまで)
と書いている通り、口からゲーゲー勢いよく液体を吐瀉するシーンがどこかエロティックなのは当然なのだ。
で、あとはカーペンター監督お得意というかもはや、文字どおりカーペンター節というか、ベベンボバンバンボンベボン、みたいなシンセが全編通して鳴っている中、『ゴーストハンターズ』で見たことのあるお馴染みのアジア人俳優とかが右往左往する中、『エクソシスト』みたいな自己犠牲のアクションにより、世界は滅亡を免れて良かったね、で終わる。
最後の晩餐みたいな構図のシーン。
こう書くとエロいシーン以外はいかにも退屈そうだが、本当に中盤からは楽しくて仕方ないのですよ、本当です!
特に虫に全身を食われてグズグズと朽ち果てていく男のショットなんか美しい驚きに満ちているし、首を斧で跳ね飛ばされた女子が転がった自分の首を掴んで元に戻して微笑むシーンなんかやり過ぎてて楽しいし、サタンの息子に乗り移られた黒人がアメージンググレイスを歌いながら木片で首を掻っ切るシーンは超フレッシュだ!
何はともあれ、この作品が『遊星からの物体X』と、『マウスオブマッドネス』という、カーペンター終末三部作の間をつなぐという意味でも、必見なのです。
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