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『アシュラ』 感想

小物汚職警官が、悪者の間で板挟みになってストレスを感じる映画。

清々しいくらいに善人が一人も出ない。
あ、二人だけ女性が出るんだけど、台詞もほとんどないし、そのうち一人は病気で死にかけなのですが、その二人が少しだけ善人だったかもしれない。作品内で詳しく語られないのでわかりませんが。

途中、主人公が小物すぎるため、物語が一度だけややこしくなり、そこだけ中弛みするのですが、それ以外はほぼ暴力描写と脅迫のみで画面が埋まるという実に思い切りの良い残酷映画でした。

特に『新しき世界』での兄貴が最高だったファン・ジョンミン演じる市長が素晴らしすぎて、彼が画面に映る度に人が死にまくる映画なのに何故かホッコリする、という謎の現象が起きていました。怪演てのはあれのことを指すのか! と感心してしまうほどに素晴らしかったです。

パンフレットの解説で越智啓太先生も書いてましたが、サイコパスというのがどこか人好きさせる魅力を持っているというのを、演技で魅せてくれたのが素晴らしい!

で、そのサイコパスと、己の信念のために法を犯すブレーキの壊れた検事との間に挟まれた小物の主人公がどんどん追い詰められて最後逆ギレすることにより、やったれ! というカタルシスを得ることができるのですが、その時にはもう既にゴールに地獄しか待っていない、というヘルツアーを描いたのが今作であります。

特にラスト20分くらいの葬儀場のシーンは特筆すべきで、映画秘宝のインタビューで監督も仰ってましたが、「この地獄がいつまでも永遠に続いて欲しい」とこちらも思えるくらいの地獄絵図で、傑作ゾンビ映画『ブレインデッド』を凌ぐのではないか? と思わせるくらいの血糊量で度肝抜かれました。

『神の一手』でもボコボコにやられたことで「この人はボコボコにされればされるほど美しくなる」と思わせてくれたチョン・ウソンさんは今作ではほぼまともな顔で出てないくらいずっとボコボコにされていて、最後はとうとうコップを噛み砕いて口の中までズタズタにする、というどこまでも傷だらけの役者根性を魅せてくれました。美しい。

とにかくハッピーエンドになる道は何処にもない状態まで全員追い詰められてからの葬儀場のシーンは本当に素晴らしく、地獄がこの世にあるとすればこれだ! みたいなビジュアルを観せてくれた監督に感謝です。
葬儀場って人生の終わりなのに、その先にまだ地獄がある、というのを知らしめてくれたのが本当に有り難かったです。

あの葬儀場のシーンだけでもリピートして何回も観たいのですが、こんなリピートキャンペーンやってるとは知らなかったです。
企画者は絶対に性格が悪いと思う。

#映画 #映画レビュー

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