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#36: 【特別企画】アカスピは録音方法で有利になれるのか?

こんにちは、もりーです。

ついに始まりました令和5年度。
社会人2年目に突入して仕事が多忙すぎる境地に突入しそうですが、相変わらず月2本の更新を目指して頑張っていきたい次第です。

さて、アマチュアアカペラを語る上で必ず外せない話題がありますね。

そう、アマチュアアカペラ3大コンペです。

A cappella Spirits(アカスピ)JAM関西アカペラジャンボリー(KAJa!)という3つの由緒ある大会で結果を残すために全国のアカペラーはバイトする間も勉強する間も惜しんでアカペラに打ち込みます。

春の特別企画として今回はその中の1つ、アカスピにおける1次動画審査における調査を行いましたので、その結果から見えてきた事について書いていきたいと思います。


はじめに

アカスピの流れ

まず、アカスピの流れを確認します。

アカスピは大きく捉えると
① 動画審査(YouTube)
② 地区ブロックライブ審査(1次)
③ 地区ブロック最終予選 (2次)
④ 全国大会(決勝)
の4ステップを勝ち残ることで全国大会で優勝することができます。

いくつかの例外を除くと基本的に③ 地区ブロック最終予選で優勝しなければ、④ 全国大会 に進出することはできません。

そのため、①、②はなるべくセーブしつつ着実に③ 地区ブロック最終予選 へ進み、③以降はベストのパフォーマンスを出し切るようにすることが理想でしょう。

アカスピの動画審査における規定について

アカスピのエントリー規定は以下の通りとなっています(去年度(R4年度)の規定参照)

※8人までの楽器を使わないアカペラグループであること(エフェクター類は可)

2021 年 4 月 1 日以降に撮影された演奏動画 (撮影機材・方法指定なし、リモート動画を含む)

◎動画は 5 分以内のアカペラを含んだパフォーマンスであり、2 次予選以降実地審査で再現可能であれば制限はありません
※これらを満たしていない場合、審査対象外とさせていただきますのでご了承ください。

第 11 回目 A cappella Spirits エントリーフォーム記載事項より抜粋

昨今のアカペラ界隈で物議を醸しているエフェクター等は全面的に認められている上、空間録音、LINE録音、パラ録音からのMIX、重ね録りからのMIXなどどのような手法を利用した動画であれ認められる、ということです。

⚠ 今回の記事に関して ⚠

今回の記事はあくまで、私の個人的なデータの解釈によるものであり、厳密な公証等は一切行っていません。
そのため、この記事はあくまで参考程度に捉えていただけるとありがたいです。


【本題はここから】

《疑問:アカスピは録音方法による通過率の差はあるのか?》

この疑問が生まれた経緯

 私は2017年度に東京外国語大学に入学し、アカペラサークルLINESに10期生として入部しました。
 当時のアマチュアアカペラ界隈にはミキシングやレコーディングというものはほとんどなかったと記憶しています。
 しかし、令和4年度の第11回アカスピのエントリー動画を見ていると大変多くのバンドが当時では考えられないくらい高音質な音源でエントリーしていたため、実際にiPhoneなどで行う空間録音とオーディオインターフェースを利用したLINE録音(2mix音源とMIX音源)で2次に通過する際の通過率に差はあるのか気になりました。

調査方法

 第11回アカスピにエントリーしているバンドのうち、関東ブロックと関西ブロックのみを集計し、それらの動画を「空間録音」「LINE録音(2mixの録音からの簡易的なマスタリング)」「ミキシング」の3つにカテゴリ分けしました。
 このカテゴリ分けは私が実際に全てのエントリー動画を視聴し、聴覚的に振り分けました。
 また、それらのバンドが②地区ブロックライブ審査に進出したか否かを調査し、録音の手法による動画審査通過率を集計しました。
その際、調査時点で動画が非公開になっており、視聴することができなかったサンプルに関しては2次に通過してしているもの、通過していないもの共に集計から除外しています。

調査結果

関東ブロック、関西ブロック合計エントリー数:306バンド
内 地区予選へ通過: 194バンド  非通過:112バンド
通過率:56.54%

両ブロックにおける空間録音の合計:112バンド
両ブロックにおけるLINE録音の合計:194バンド

関東関西ブロック合計

その内の2mix音源の合計:133バンド
その内のMIX音源の合計:61バンド

このような結果を調査から得ることができました。

驚くことに、関東関西の2ブロックを集計すると約6割がLINE録音の手法を取っており、空間録音は4割に満たなかったです。
2017年~2019年頃までは体感ですが7~8割は空間録音であったことを思い出すとあり得ない数値です。
これもコロナ禍によるミキシングの浸透や各サークルのオーディオインターフェースといった機材の導入に起因するものかもしれません。

また、これらのバンドの地区ブロック予選への通過率は以下の通りです。

LINE録音の通過率:52.68%
空間録音の通過率:58.76%

つまり、この2つの手法には6.1%ポイントの差があります。

また、LINE録音の内、2mix音源とMIX音源の通過率は以下の通りです。

LINE録音合計194バンドの内、2mix音源133MIX音源61
2mix音源の通過率:55.64%
MIX音源の通過率:68.85%

つまり、これら2つの手法の通過率には16.2%ポイントの差があります。

データの検証

これらの通過率の差に有意差が厳密に存在するか否かを検証するためには、仮説検定を行う必要があります。

仮説検定を行うにあたり、今回はカイ二乗検定という独立性の検定を行いました。
カイ二乗検定ではデータの差に有意性があるかの検証をp値から判断します。
p値が5%未満であることが習慣的に有意差のボーダーラインとされています。人文科学的分野など厳密な公証が難しい分野においてはp<10%を有意性のボーダーラインとして採用するケースもあります。

カイ二乗検定:空間録音 VS LINE録音

通過率(LINE録音):58.76%
通過率(空間録音):52.68%
p値:30.10%

このことから空間録音とLINE録音の通過率に有意差は無いと言える。

カイ二乗検定:MIX音源 VS 2mix音源

通過率(MIX音源):68.85%
通過率(2mix音源):54.14%

p値: 5.32%

このことからMIX音源と2mix音源の通過率の差に有意傾向がある
また、p<10%を採用した際には有意差があるといえる。


《結果だけみたい方はここまでスキップ》
データ考察

検証の結果から様々なことが見えてきました。
ここから先は検証結果から見える個人的な考察です。

考察(LINE録音と空間録音を比較した場合)

この2者の間には通過率の有意差が見られませんでした。しかし、通過率には約6%ポイントの差があります。

この原因として色々な要因が考えられます。

  • LINE録音しているバンドは機材を使う手間を使っている分演奏に力を入れている、なのでその分通過率が高い
    ▶ 明確なエビデンスはありませんが、現実的な話をするとこれは安易に想像できます。

  • 音質いいから通過しているとわけではない感じだけど考察はできない、あくまで仮説。機材を買えない、使えない環境のバンドが機材を使うようになったら通過できる確率が上がるのかは正直わからない
    ▶ 有意差のないという結論からはこう捉えることができます。

  • 空間録音はiPhoneで録音をしているのでお手軽だけどその分こだわりは少ない
    ▶ LINE録音は手間がかかるため、空間録音のほうが手軽であると言えます。


考察(LINE録音の中で2mix音質とMIX音源を比較した場合)

 p値が5.3%と習慣的に有意差のボーダーラインとされている5%に極めて近いです。
 また、人文科学的分野など厳密な公証が難しい分野においてはp<10%を採用するケースもあるということなので、これを採用した場合は有意差があると言えます。

 つまり、このことから、MIX音源の場合の合格率と2mix音源の場合の合格率には統計学的にみて有意傾向があるといえます。
p<10%とした場合は有意差があるといえます。)

 すなわち、MIXができる環境(人や機材)があるならばやったほうがいいと言えます。

 しかし、実態を考えると実力があるバンドがクオリティにこだわるためにMIXをして、実力が相対的にないバンドがMIXをせず、比較的手間のかからない2mix音源を選ぶという背景も考えうるので、必ずしもMIXをしたからといって合格しやすくなるわけではないと言えます。
 MIXしていなかったバンドがMIXしたからといって通過しやすくなるという訳では無いことにご注意ください。

 あまり大きい声では言えませんが、MIXをした場合、ピッチ編集やタイミング補正を利用し、自然な範囲で行えば実力の底上げを行えるため、結果的にMIXをしたから審査の上では"実力があることになっている"、ということも考察できます。

結論

空間録音でも通るバンドは通る、練習が大事

空間録音で音が多少不鮮明だからといってそれで動画審査に通らないということはありません
小手先の音質よりも演奏のクオリティを上げることに集中しましょう。

作品を作るいい機会であるので時間と機材と人が揃うならMIXをやってみると良い

 とはいえ、年に1回しかないアカスピのエントリーですので思い切って衣装も映像も音源もしっかりとおめかしして悔いのない会心の動画で審査に望むのもいいでしょう。
一年ごとの進化を卒業後にじっくりと見れるのは意外と良いものですよ。

もしMIXできる人がいないなら人に頼もう

 やっぱりiPhone撮影じゃなくてMIX音源の動画でエントリーしたいけど、機材もないしレコーディングの仕方もわからない・・・
そんなときは是非一度相談してください!

 サークルがお持ちの機材やスタジオのレンタル機材などを利用することで可能な限り安くレコーディングできるようにアドバイスします!
レコーディングの方法などもしっかり解説します。

もちろん動画撮影&編集者を紹介することもできますのでお気軽にDMで相談をしてください。


まとめ

今回はアカスピにおける録音方法と動画審査の通過率から見るデータ分析を行いました。
やはりピッチやタイミングを補正できるMIXは通過率が高い印象です。
LINE録音も空間録音もおおよそ5分5分の通過率であることを見ると、意図的な審査があっている可能性も否定できないなぁ、とか思ったりもしました。

結果的に依頼が欲しいというポジショントークになってしまいましたが、検証と考察は中立になるよう気をつけて行ったつもりです。

この記事に関する感想や意見などありましたら是非リプライや引用RT、コメントをお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございました。もりーでした。

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