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メタル loves クラシック!?

 ハードロックやヘヴィメタルのバンド/ミュージシャンとオーケストラが一緒に演奏された曲はいくつかある。ディープ・パープル、メタリカ、スティーヴ・ヴァイなど。これらのバンド/ミュージシャンに共通するのは、まずバンドと曲が主体であり、オーケストラはその曲に対して編曲されているものが多い。

 次に挙げるバンド/ミュージシャンが上と違うのは、『クラシック(風)の楽曲』を演奏している点である。
◎レインボウ『ファイナル・ヴァイナル』「ディフィカルト・トゥ・キュア」
 ライブアルバムで、オーケストラとともにベートーベンの「歓喜の歌」で知られる交響曲第9番第4楽章を演奏している(途中バッハの曲の一部が出てくる)。ギタリストのリッチー・ブラックモアは、この曲でスライドを使用してメロディを弾いている。他のいくつかのアルバムでも、クラシックのメロディやコード進行を取り入れている。
https://www.youtube.com/watch?v=8yzvZAtC5h4

◎ウリ・ロート(スカイ・オブ・アヴァロン)『プロローグ天空伝説』「ブリッジ・トゥ・ヘブン」
 1曲目は、オペラで有名な「誰も寝てはならぬ」を英語の詞をつけ、編曲し、ギターをソロ楽器としてオーケストラをバックに演奏している。他の曲ではドラムやベースも入っている。ウリはヴァイオリンの様な音を出したいがために、ヴァイオリンの音域が出るハイフレットオリジナルギター「スカイ」を作っている。
https://www.youtube.com/watch?v=Y5tILTpKzs0

●「ネオクラシカルメタル」の誕生
 メタルにクラシックと言えば、レインボウに影響を受けた様式美と言われていたスタイルが多かったが、イングヴェイはバッハやパガニーニのフレーズをそれまでより速いスピードで演奏した。それはアマチュアは勿論、プロのギタリストも驚かせた。旋律的短音階(ハーモニックマイナースケール)やそれの5度下の音階、ディミニッシュの和音や短調・長調の3和音を2~3オクターブ連続で、スウィープピッキングで弾いたところも画期的であった。初期にはリッチーやウリの影響を色濃く見せている。

◎『ファイヤー・アンド・アイス』「ノー・マーシー」イングヴェイ・マルムスティーン
 イングヴェイはこの曲の中間部にバッハの管弦楽組曲第2番「バディネリ」を本物のオーケストラを導入して演奏している。フルートの部分をギターで演奏しているのだが、ギターのチューニングを半音下げで演奏している彼は、オーケストラにB♭mというキーで演奏させている。ライブではアルバムの音源のオーケストラ部分を使用して演奏している。
https://www.youtube.com/watch?v=tK_nirsXweM

◎『協奏組曲:新世紀』「イカロス・ドリーム・ファンファーレ」イングヴェイ・J・マルムスティーン
 クラシック風のオリジナル曲。ギターをソロ楽器としてオーケストラをバックに演奏している。ドラムやベースはなし。クラシックの世界では、協奏曲は3曲で1セットであるが、このアルバムは10曲なので、「協奏組曲」としたとのこと。初演は日本で、DVDになった2回目の公演は、私も観ることができた(観に来ていたローゼンサルにサインを貰った!)。韓国でもコンサートを行っている。

 イングヴェイは、アレンジは全部自分が行ったと言っているが、オーケストレーションに関しては、上記の「ディフィカルト・トゥ・キュア」でキーボードを演奏している元レインボウのデヴィッド・ローゼンサルが多大な貢献をしている。
https://www.youtube.com/watch?v=UIN1BHbkpXA

●今回の主役、ケリー・サイモン Kelly SIMONZ
 イングヴェイに影響を受けており、そのスタイルをより深化させている。

◎ケリー・サイモンとクラシック
○『管弦楽組曲』「第2番ブーレBWV1067」J.S.バッハ
 インディーズ1stアルバム『サイン・オブ・ザ・タイムス』収録。ほぼバッハの作曲の通りに、本来のフルートのソロパートを奏でている。オーケストラは打ち込み。フィンガリングを駆使したスラー(ハンマリング、プリング、スライド)と、ピッキングノイズを極力抑えた軽いアップピッキングで音をスムーズにつなぎ、ヴィブラートで表情を付けている。速弾きも勿論凄いが、この音楽的表現が表情豊かであり、テクニック的にもレベルが高いのが素晴らしい。また、ロックっぽい荒々しさと繊細さとのバランスが魅力的。
https://www.youtube.com/watch?v=qUxk16WHY0E

○『6つのパルティータ(クラヴィーア練習曲第1巻)』「第2番 ハ短調 BWV 826」J.S.バッハ
 ケリー・サイモンズ・ブラインド・フェイス名義のアルバムに収録。演奏は勿論、編曲も素晴らしい。

○『サイレント・スクリーム』「サイレント・スクリーム」
 ケリー・サイモン名義のアルバムタイトルチューン。イントロはチェンバロの音色が印象的なバロックにロックを組み合わせたもの。Aメロは打って変わって、マイナーペンタトニックの王道ロック。Bメロから再びクラシック風へ。サビではロックヴォーカル。中間部は静かになり、イントロと似たチェンバロとパイプオルガンによるバロック風の落ち着いたパート。そこへギターやベース、ドラムが入り、一気にエネルギッシュに。コード進行はバッハ風だ。また静かになり、パイプオルガンでバロック風のメロディ、ストリングスのピチカートが入り、厳かに。そこへバッハの「ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲」の一節がギターで入ってくる。なんてドラマティックなのか。ドラムとベースも入り、ロックなバッハとなる。続いてロックのギターソロパートに変わる。この曲のために書かれたように、絶妙に編曲されている。イングヴェイが聴いたら、バッハが聴いたら何と言うだろうか。
https://www.youtube.com/watch?v=e6AsCNZGUgc

 ケリーはクラシックに影響受けたオリジナル曲もアルバムに収録している。中でも「オーパス#1」は圧倒的だ。バッハ的なメロディをメタルのリズムに乗せて激走している。まさに超絶である。
https://www.youtube.com/watch?v=2UB4g6La_gs

◎ギター教則本『超絶ギタリスト養成ギプス 孤高のクラシック名曲編』
 いろんな時代のクラシックの名曲をオケ(打ち込み)とギター(、時にはベースとドラム)で演奏している。この教則本附則のCDにはギターカラオケも収録されており、ギターの練習になるのだが、このカラオケのベースやドラムを聴くと、クラシック曲にどう編曲しているのかがわかってとても興味深い。ベースもケリー・サイモンが演奏しているので、独特のドライブ感を感じて欲しい。ベースにあるまじき強烈なヴィブラートも魅力。
○「ピアノ・ソナタ 第8番 悲愴 第3楽章」(ベートーヴェン)
https://www.youtube.com/watch?v=SwD_C2jfb-E

 下記の2曲がテレビで演奏される。生のピアノとの演奏で、また違った編曲、違った演奏になるだろう。ケリー・サイモンのファンは勿論、ギター、メタル、クラシックが好きな方、音楽ファンは是非見ることをお薦めする。

NHK Eテレ『ららら♪クラシック』
https://www.nhk.jp/p/lalala/ts/57LY35Q588/episode/te/ZPPYNYW6PY/
「メタル loves クラシック!?」
2021年1月15日(金)21:00−21:30
2021年1月21日(木)10:25-10:55
【司会】高橋克典(俳優)、石橋亜紗(アナウンサー)
【演奏】Kelly SIMONZ(ギター)、中村匡宏(ピアノ)
【曲目】トルコ行進曲(モーツァルト)/ピアノ・ソナタ「悲愴」(ベートーベン)

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