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ヤンキースの得点不足と打者の特徴

 昨年の分析では、以下に紹介するヤンキースの得点不足の原因を指摘するコラムを発端に色々と分析してきました。問題のコラムは以下のリンクになります。無料登録することで読むことができるようになります。 

 このコラムの趣旨としては、以下に引用するチームの指針が、チームの得点にはマイナスに作用しているというものです。

 ヤンキースは打者の評価をするときに打球速度と角度を極端なほど重視しているという。「打者に必要なものは球を95マイル(約153キロ)以上の速度で角度をつけて打つこと、そうでなければ四球を選べ」というのを選手に徹底させている。

https://www.nikkansports.com/baseball/mlb/column/mizutsugi/news/202308280000345.html

 角度をつけた打球を狙うというのはフライボール革命とも呼ばれる近年のトレンドでもあり、そこに副作用のような問題を指摘するこのコラムは非常に興味深いものといえます。
 
 しかし、ヤンキースのチームの打撃の特徴を分析してみたところ、特に問題のあるデータが見られたわけではありませんでした。 

 それならばということで、フライボール革命を象徴するような打者Kyle Schwarber選手、彼は本塁打が多いものの、同時に三振も多く打率の低い打者なのですが、ヤンキースも彼と似たタイプの打者が多すぎるのでは?と考えて調べてみたのですが、こちらもそんなわけではないことがわかりました。

 そこで今回の分析になりますが、ヤンキースの問題として、前回分析したKyle Schwarber的な打者が多いわけではなく、Kyle Schwarber的な打者を目指した結果、そこに至ることができなかった打者が多いのではないか?と考えました。つまり、Kyle Schwarber選手の長所を抜いた本塁打者少ないけれど、三振は多く打率も低いという感じの打者です。
 
今回はこの仮説を検証するために、ヤンキースに所属する打者の特徴を調べてみたいと思います。

ヤンキースの打者リスト

 今回の分析対象者は以下の表1に示す打者17人になります。 

 2023年のヤンキースで100打席以上の記録があったことが条件となります。

打者の分類

 さて、今回の本題である「Kyle Schwarber的な打者を目指した結果、そこに至ることができなかった打者」を探す方法ですが、MLBの打者を打撃成績で分類し、そのような打者のグループがいるかどうかを検証し、さらに上記のヤンキースのリストにある打者がそのグループに多く属しているかという方法で検証してみたいと思います。
 
 前回のKyle Schwarber選手と似た打者を探した際には、Baseball Savantの機能を利用しましたが、Kyle Schwarber選手の長所を抜いて短所を残したような打者と似た打者を探す機能はないので、自分でやる必要があります。
 
 Baseball Savantの機能では、下図に示す打球の角度と速度の分類の特徴から似たタイプの打者を判定していたようです。

 この図は以下のStatcast Pitch Highlighterより引用したものです。

 今回イメージしているのは、Barrelが少なくボールの下を叩いたUnderの多い打者のタイプです。この打球の内訳に三振率と四球率を加えて、クラスター分析を用いて2018年から2023年(2020年は除く)にMLBで100打席以上の記録のある打者を似たタイプのグループに分類しました。
 
 分類結果を以下の表2に示します。

 全部で6つのグループに分けました。数字が並ぶだけで特徴がつかみにくいので、表にはる平均と標準偏差を用いて標準化したデータでグループを比較したものを以下の図2-1と図2-2に示します。

 図中の黒い破線が平均を表し、この破線の内側にあるデータは平均以下、土利川にあるデータは平均以上であることを表します。
 
 バレル(Barrel)が多いのはグループ2と4ですが、グループ2は三振が少なく、グループ4は三振が多いという特徴が確認できます。
 
 ここで注目するのはグループ1です。Underが多くフライの多い打者であることがわかりますが、バレル(Barrel)が少ないのが特徴です。さらに三振も多いので、Kyle Schwarber選手の長所を抜いたような打者の特徴といえます。
 
 このグループ1に該当する打者が表1のヤンキースのリストに多ければ、元のコラムの指摘を裏付ける結果といえます。

ヤンキースの打者の分類

 それでは、表1で示したヤンキースの打者が表2に示したグループのどこに属するかを集計したものを以下の表3に示します。

 問題となるグループ1の該当者はリストの中で最も打席数の少ない(103) Everson Pereiraだけでした。

まとめ

 以上のデータから、ヤンキースには「Kyle Schwarber的な打者を目指した結果、そこに至ることができなかった打者」が多かった可能性は低いといえると思います。
 
 これまで色々と分析してきましたが、元となるコラムを支持するような結果は得られませんでした。これは元のコラムの「角度をつけて打つ」ことの弊害という前提を疑うべきではないかと考えます。
 
 野球に限ったことではありませんが、物事が上手くいっていない時に向けられた批判というのは、もっともらしく感じられてしまします。上手くいっていないのは事実なので。だぁらこそ、原因を注意深く検証するということは重要なのだと思います。
 
 見解には否定的になりましたが、その内容から色々な仮説が導かれ検証できたということは、元のコラムも良い記事だったと思います。こうした議論がたくさん上がってくることが重要なので。
 
データ元

タイトル画像:いらすとや

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