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ヤンキースの得点不足と打球の角度

 今回は少し前に以下の日刊スポーツから出た記事を元にデータを見て行きたいと思います。 

 これは今季成績が振るわなかったヤンキースの不振の原因について、元所属選手の指摘を紹介したものです。読むためには無料の会員登録が必要なのですが、できれば読んでもらいたい内容です。
 
 記事の内容を引用する前に、事前情報として2023年のMLBの各チームの得点と失点の関係からヤンキースの位置づけを確認しておきたいと思います。データを以下の図1に示します。

 この図は横の軸に失点を、縦の軸に得点の値をプロットしたものです。水色の●が2023年のMLB各チームの値、濃い青の◆がヤンキースの値、+の印は平均値を表しています。
 
 ヤンキースの値を見ると、得点も失点も平均よりも低く、失点を抑えることができてはいたものの、得点力不足のシーズンだったといえます。

ヤンキースが抱える問題とは

 さて、本題の記事の内容に入っていきたいと思います。元所属選手の指摘するヤンキースの問題は、“データ分析に傾倒し過ぎる球団の方針”にあるとされています。

ヤンキースは打者の評価をするときに打球速度と角度を極端なほど重視しているという。「打者に必要なものは球を95マイル(約153キロ)以上の速度で角度をつけて打つこと、そうでなければ四球を選べ」というのを選手に徹底させている。

 打球速度が95マイル以上、打球角度が25度から30度をバレルゾーンといい、打率.500、長打率1.500以上の成績が期待できるといわれています(下記のリンクでは98マイル以上)。 

 ヤンキースの場合、このバレルゾーンへの打球を増やすという方針に偏り過ぎて、却って攻撃が振るわないというのがこの記事の伝えたいところだと思います。読んでみたところ、「そうかな」と思う所もある一方で、少々問題を単純化しすぎているようにも感じました。
 
 そこで今回は2023年のヤンキースのチーム全体の特徴をもう少し丁寧に見て行きたいと思います。

ヤンキースの攻撃面での特徴

 最初にヤンキースのゴロとフライの比率(GB/FB)とフライに占める本塁打の割合(HR/FB)のデータを見てみたいと思います。バレルゾーンを志向する打撃方針がそもそも上手く行っていないのであれば、ゴロとフライの比率は大きくなり、フライに占める本塁打の割合は低くなるはずです。データを以下の図2に示します。

 横の軸にゴロとフライの比率(GB/FB)、縦の軸にはフライに占める本塁打の割合(HR/FB)を取っています。図の見方は図1と同じです。
 
 この図からは、ヤンキースのゴロとフライの比率は平均よりもフライが多く、フライに占める本塁打の割合は平均より高いことが分かります。角度をつけた打球を打って行こうというヤンキースの方針は実行できていて、平均以上の本塁打として結果になっているといえます(本拠地球場が本塁打の出やすい球場であるという点にも注意は必要ですが)。
 
 次に確認するのは三振と本塁打の数です。元の記事では、チームが三振の増加に無頓着であるという指摘がありましたが、それがどの程度であるかを確認するためです。データを以下の図3に示します。

 ヤンキースのデータを見ると、平均と比べて三振も多いことがわかります。とはいえ、他のチームと比べて三振が極端に多いわけでもなく、三振の多いチームには本塁打の多いチームもあるわけで、特に問題のある三振の多さとはいえないデータではないかと思います。
 
 それでは、得点不足の何が原因かを探るために、出塁率と長打率の値をプロットしてみました。データを以下の図4に示します。

  ヤンキースは出塁率も長打率も平均以下ということが分かります。つまり、本塁打は平均以上であるものの、得点にとって重要な出塁率も長打率も平均以下というデータです。
 
 では、打席の結果のうち何が不足してこのような結果となっているのかどうか、ヤンキース(NYY)とMLB全体の打席の内訳を比較したものを以下の図5に示します。

 左側がヤンキース(NYY)で、右側が2023年のMLB全体になります。ヤンキースとしては四球も三振もMLB全体の内訳より多いことが確認できますが、一番の差は単打と二塁打の割合の差にあります。
 
 つまり、本塁打は多いものの、安打の数が少ないということです。
 
 ここで元の記事の指摘に戻りますが、こうした安打不足の原因が、ヤンキースの打撃面での方針である「強い(速い)打球を角度をつけて打つ」にあれば、この元所属選手の指摘は正しいといえますが、果たしてそうなのでしょうか?
 
 この仮説が正しければ、バレルゾーンへの打球が多い一方で、打ち損じの打球も多いということになります。今回はこの打ち損じの指標として内野フライ率のデータを以下の図6に示します。

 バレルゾーンへの打球の割合(Barrel%)と一緒に内野フライ率を示しています。ヤンキースの特徴としては、バレルゾーンへの打球の割合は平均以上ですが、内野フライ率は平均並みで多いとはいえません。
 
 打ち損じの打球は内野フライだけではないと思いますが、レルゾーンへの打球の割合が安打の少なさと明確につながるようなデータは今のところ見いだせてはいません。

まとめ

 ざっとデータを見ただけで結論は出せませんが、ヤンキースのデータからは「強い(速い)打球を角度をつけて打つ」という方針が、本塁打の多さやバレルゾーンへの打球の割合(Barrel%)の高さに反映されていますが、それが安打の少なさに結びついているかどうかという点までは確認できていません。
 
例えば、Kyle Schwarber選手は、本塁打は多いものの打率は低く安打の少ない選手といえます。 

  こうした選手がヤンキースで多数を占めていれば、元の記事の指摘は正しいといえそうですので、次回は選手個人の特徴を掘り下げようと思います。

データ元

タイトル画像:いらすとや


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