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結末を覚えていないお話のこと(日記)

小学校の教科書に載っていた,子どもたちがくじらの背中に乗るお話。同年代で同じ教科書を使っていた人なら覚えているかもしれない。
そのモチーフが好き,というかなぜか忘れられなくて,最近はよくAIに絵を描かせている(この日記のトップ画像も実はそれ)。

好きという割には題名も詳細も覚えておらず,この文を書くにあたりインターネットで検索してみた。
今はなんと便利な世界なんだろう。「空飛ぶくじら 教科書」なんていう曖昧なキーワードで見事,一番にヒットした。グーグル先生ありがとう!

題名は「くじらぐも」。あれ?そもそもあのくじらって雲だったのかといういまさらながらの気付き。そしてお話の内容も,だいぶ記憶と違っていた。

主人公たちは1年2組の児童と先生。先生も混じっていたことなんか,完全に忘れている。しかも,くじらの色は真っ白だったらしい。そりゃそうか。よく考えたら雲だもんね。これも,私の脳内ではなぜか虹色に変換されていた。

それでもセリフを見ると,そういえばそんなんだったな!と思い出してきた。
  「ここへおいでよう。」
そうだった。この「おいでよう。」の最後の「う」が面白いなあと思っていたんだっけ。そして多分これで,「よお」ではなく「よう」と書くんだって知ったんだと思う。
  「天までとどけ、一、二、三。」
これもなんかリズミカルで(もちろん当時はそんな単語知らなかったと思うけど)好きだった記憶がある。

そしてお話のラストは,先生が腕時計を見て,もうお昼の時間だと気づいて学校に戻る。
子どもの頃はなんとも思わなかったけど,ここに先生の存在意義があるんじゃないか?などと思った。だって児童は基本,腕時計なんて持ってないし,そもそも時間を気にしたりはしないはず。子どもたちだけだったら授業中の1時間で学校に戻ってくるはずがない。私だったら,くじらが降りろって言うまで居座ると思う。
それに加えて,くじらの背中に乗ったのは4時間目の体育の時間っていうのも良い。だってこの楽しい授業が終わったら,これまた楽しい給食の時間なんだから。

こうやって考えてみると,すんなりと読めちゃうお話なのに,細かいところがちゃんと考えられててすごいなと思う。
絵本を大人が読むとまた違う楽しみがあるっていうのは,きっとこういうことなんだろう。大人になれば,ほんの少しの言葉から背景を勝手に読み解いて,自分がその場にいたらどう感じるかって想像できるようになる。それが,ちょっとだけ思い出した子どもの頃の気持ちと全然違ったりすると,そのギャップもまた楽しい。


あともうひとつ。これは自分の使っていた教科書の話ではないのだけれど,一時期我が家で流行っていた,「寒かったね」と誰かが裏声で言うと,「うん,寒かったね」とこれまた裏声で返事をするという遊び?の元となったお話。

こいつもまた「教科書 ふきのとう 寒かったね」なんていう,いい加減なキーワードでヒットした。
題名は「ふきのとう」。そう,前述のセリフを言っているのはふきのとうだったのだ。そこだけは覚えていたが,その後の展開はまたもや,綺麗さっぱり忘れ去っていた。

改めて読み直してみると,ふきのとうが寒いと言う → 寒いのは雪のせい → 雪だって溶けて遊びに行きたい → 雪が溶けないのは竹藪のせい → 竹藪だって風で揺れて踊りたい → 踊れないのは春風が寝坊しているせい → 太陽が春風を起こす → もうすっかり春です!みたいな連鎖になっていた。
これまたよく出来たお話だよなあと思う。登場人(?)物たちの言動につながりがあるのも面白いし,登場人(?)物の誰も,現状がうまくいってないからと言って相手を責めてない。すごくほんわかしていて優しいお話。

どちらのお話も,ディテールやストーリーの流れがちゃんと考えられててすごい。オチ?だってちゃんとあって,読んだ後にスッキリする。

それでも敢えて言わせて欲しい。
結末を覚えていないということは,私の中ではストーリーが完結しないということなのだ。

くじらぐもで言えば,くじらの背中に乗った子どもたちは永遠に空を飛んでいる。ふきのとうたちにも春が来ないのは可哀想だけど,我が家では永遠に可愛らしい会話を続けていられる。

これは決して,結末がわからないからモヤモヤするのとは違うのだ。どちらかというと,漫画や映画なんかで気に入った場面を何度も再生するのに近い。
一度も最後まで読んだり見たりしていない訳ではなく,一度は結末を知った話の中のお気に入りの部分だけが記憶に残って増幅されていく,みたいな感じ。

生来,いい加減な性格な私だからかもしれないが,こういうのも悪くないんじゃない?と思うのだ。
だって,大好きだったシリーズ物のお話が終わってしまうときとかって,ものすごく悲しい気分になるじゃない?それでも読まずにはいられなくて喪失感を味わったことがある人であれば,ちょっとはこんな気持をわかってもらえるんじゃないかと期待して。
                                 了

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