ラグビーワールドカップとアイルランド

2019年9月20日から,日本でラグビーワールドカップが開幕しましたね。
先日の日本vsアイルランド戦では、日本が逆転トライを決めて歴史的な勝利を収めた,ということで話題になりました。

プロフにアイルランド好きって書いてるくせに,一発目の投稿が全く関係ない話だったのを反省して,今回はラグビーを通してアイルランドを宣伝?応援?しようかなって思います。

まず,ご存知の方も多い(というか知ってて欲しい)と思いますが,アイルランドという島は,ユナイテッド・キングダム (グレートブリテン及び北アイルランド連合王国。いわゆるイギリスですね)に属する北アイルランドと,アイルランド共和国というふたつの国に分かれています。

歴史的にはいろいろと紛争もあり(俗に言う「北アイルランド問題(英語ではThe Troublesと呼ばれることもあるそうです)」),未だにいろいろと燻っているし,Brexit関連では国境をどうするんじゃい問題も持ち上がっている昨今であります。

しかし,ラグビーのアイルランド代表を組織・運営するアイルランドラグビー協会(IRFU=Irish Rugby Football Union)は,アイルランド共和国と北アイルランドの双方の選手からアイルランド代表を選出します。これは,IRFUがアイルランドがふたつの国に分かれる前から存在していたため,と言われていますが,私個人としてはなんかこうすごく熱いなって勝手に思ってます。(語彙力)

アイルランド代表がふたつの国から選ばれているっていうことに関連して,アウェイで行われるアイルランド戦ではどちらかの国歌ではなく,ナショナルチームの応援歌である「アイルランズ・コール(Ireland's Call)」を歌いますが,これがまためちゃめちゃ格好良いんです。

歌詞を以下にちょっと引用します。

Come the day and come the hour,
Come the power and the glory!
We have come to answer our country's call,
From the four proud provinces of Ireland
Ireland, Ireland,
Together standing tall!
Shoulder to shoulder,
We'll answer Ireland's call!

これが1番の歌詞です。うん,戦闘大好き民族っぽいですね。(個人の見解です。ちなみにアイルランド共和国の国歌「兵士の歌(Amhrán na bhFiann,Soldier's Song)」は題名からして強そうです!)

ちなみにこの歌詞に出てくる「four proud provinces of Ireland」とは,アルスター(Ulster),コノート(Connacht), マンスター(Munster),レンスター(Leinster)のことで,IRFUの旗にもそれぞれの紋章が描かれています。

一番覚えやすいのがアルスターの紋章で,黄色地に赤の十字,真ん中に赤い掌が描かれているものです。先日の日本戦では,アルスター単体の旗がアイルランド共和国の旗と一緒に入場してましたね。あれは一応,北アイルランドに配慮してのことだったのでしょうか。
ちょっと話が逸れますが,昔のアルスターの全てがいま北アイルランドに属している訳ではないので,その辺ちょっと微妙というか個人的には謎だったのですが。
また,このアルスターの紋章に描かれている手が右手なのか左手なのかとか,なんで手が描かれているのかとかも,ちょっと調べてみたらすごく興味深かったので,その辺りのお話はまた書けたら書きたいなって思います。

次にコノートですが,個人的にはこれが一番格好良いと思うんです。青と白がベースで鷲と鎧を付けた腕(なんだこの翻訳センスの欠片もない表現は)が描かれているものです。これも何で鷲と腕なのかって書き始めると長くなりそうなので,紋章については別記事にしたいと思います。

次はマンスターです。これは青字に王冠が3個描かれているものです。なぜこの王冠が3個なのかは正確にはわからないらしいですが,一説によるとノルマン人由来のアイルランド人たちが築いた,the O’Briens (Thomond), the Butlers (Ormond) , the Fitzgeralds (Desmond)の3つの王国に由来するのではということらしいです。(by Wikipedia)

最後はレンスターですが,これは緑地に黄金のハープが描かれているものです。このアイリッシュ・ハープはアイルランド関連のロゴとかによく登場しますよね。例えば、日本でもよく知られているものだとギネスというビールの缶にも描かれてます。
他にも本国では,公式文書やパスポート,新聞社のロゴから大学のエンブレムまで,様々なところで使われています。
個人的にはアイルランド共和国の首相(英語だとPrime Minister, PMとか略されます。アイルランド語だとTaoiseach。私の耳には「ティーシャック」みたいに聞こえますがWiki的には「ティーショク」らしいです)が会見とかするときにマイクが置かれている演台に描かれているのが好きです。(細かすぎて伝わらないなんとやらですね(笑))

そして唐突に2番です。

From the mighty Glens of Antrim,
From the rugged hills of Galway!
From the walls of Limerick, and Dublin Bay,
From the four proud provinces of Ireland!
Ireland, Ireland,
Together standing tall!
Shoulder to shoulder,
We'll answer Ireland's call!

2番はアイルランドの名所紹介みたいな感じになってます。

最初の「Glens of Antrim(アントリウム渓谷)」は,北アイルランドのかなり北の方,ベルファストよりもずっと北にある渓谷のことです。どこの近くってすごく言いづらい場所にあるんですが,9つの渓谷から成るハイキングにもサイクリングにもドライブにも最適な自然の素晴らしい場所,とのことです。(byトリップ・アドバイザー評)地域で言えばアルスターに属する場所になります。

次の「hills of Galway」ですが,直訳すれば「ゴールウェイの丘」ですね。ゴールウェイというのは,ご存知の方も多いんじゃないかと思いますが,アイルランドの西海岸にある港湾都市で,緯度的にはダブリンと同じぐらいの場所です。ダブリンからM4という西に割と真っ直ぐ伸びている高速道路を使うと207キロメートル,大体2時間半で着くらしいです。(by viamichelin)
ゴールウェイの街は,「平等の町」とも呼ばれ,多様性への敬意と理解を推進していることでも有名なのだそうです。また,アイルランド語(ゲール語)を話す人口が一番多い州らしいです。(by アイルランド政府観光庁)
夏には150年の歴史を誇るゴールウェイ競馬場で1週間に亘ってレースが開催されます。女性は派手な帽子を被るのが伝統らしいですよ?(それどこで買うの?とか,後でどうすんの?的なことは考えたら負けなのです!)
地域でいうとコノートに属するところです。

次は「walls of Limerick」ですが,これも直訳すると「リムリックの壁」ですかね。

このIreland's Callの中に出てくる「リムリック」というのは都市の名前の方だと思いますが,ちなみに同じスペルで五行詩(滑稽五行詩、五行戯詩とも呼ばれるそうです。日本語では「リメリック」と表記して区別されています)を意味することもあります。

このリムリックという街は,バイキングから始まりローマ帝国,イギリス王朝などから様々な侵略を受けてきました。そのため,古くから街を取り囲む壁が造られており,今でもリムリックの街にあるセント・ジョンズ病院の敷地にその遺跡の一部が残っているそうです。
リムリックは,地域的にはマンスターに属するところです。

これはリムリックに限ったことでもないのですが,アイルランドという国は様々な国からの侵攻を受けて来たという歴史があります。そのため,この「walls of Limerick」というのは,そういった歴史への想いが現れているのではないかなーと私は考えています。(異論は受け付けます!)

ここでまたちょっと話が逸れますが,アイルランドという国の人々は,様々な国から侵攻を受けつつも,元からある文化と新しく入ってきた文化を上手く融合させてきたという一面があります。
例えばケルト文化とキリスト教の融合なんかが一例に挙げられます。有名な文書に「Book of Kells(ケルズの書)」というものがありますが,これは8世紀に作られた聖書の手写本で,「世界で最も美しい本」とも呼ばれています。
内容は四福音書(マタイによる福音書、マルコによる福音書、ルカによる福音書、ヨハネによる福音書)なのですが,ケルト文様による豪華な装飾が施されています。現在はダブリン大学のトリニティ・カレッジに所蔵されており,半年に一度展示するページが変わるそうです。
他にもケルト十字と呼ばれる十字架なんかも有名ですね。
こういう,新しく入ってきたものと古くからあるものを上手く融合させて行くメンタリティって日本人にも通じるものがあると思うのです。
日本も大陸からの文化とか文明開化による西洋文化の流入とか戦後のアメリカや欧州の文化なんかもどんどん取り入れて,新しいものを作り上げてきたところがありますよね。そういうおおらかさが好きだなーって思うのでした。

最後は「Dublin Bay」。これはもう読んで字のごとく「ダブリン湾」ですね。
ダブリンという街は言わずもがなですがアイルランド共和国の首都であり,政治,経済の中心地と言っても良いところです。
地理的にはアイルランド島のど真ん中の辺りの東海岸にあります。
あまりに首都としてのイメージが強いので,ベルファストに比べると私の中ではあまり港湾都市というイメージがありませんでしたが,現在も歴史的にもダブリンは貿易の拠点であり,昔は貿易=船ということでダブリンが栄えたのだと思います。そこから,ダブリン→ダブリン湾っていうことなのかなって。(深く調べてないので間違ってたらごめんなさい)

また,日本からのダブリンへの直行便はありませんが,欧州の主要都市(ロンドン,パリ,ミュンヘン,フランクフルト,アムステルダム,etc..)を経由してアイルランドへ行こうとすると,ダブリンに着く便の方が選択肢が多くて便利かなと思います。(もちろん,目的地が他にある方は別ですが。)
ベルファスト行きもありますが,ベルファストだと南回り(中東経由)という選択肢がなくなるのと,日本からだとBA(ブリティッシュ・エアウェイズ)かKLM(オランダ航空)しか選択肢がないので,あとはワンワールドかスカイチームのコードシェア便になると思います。

さらに,現段階ではどうなるのか全く見通しが効かない状態ですが,Brexit後に国境における入国審査がどうなるかによっては,ロンドンを経由するならベルファストの方が便利とか,他のEU諸国を経由するならダブリンの方が便利とか,事情が変わってくるかもですね。まあ,日本のパスポート所持者であればどちらでもさほど問題はないと思いますが。

あ。また話が逸れ始めてしまったので元に戻しましょう。

という訳で,Ireland's Callですが,歌詞はまだ続きます。3番まであるので,一応載せておきます。

Hearts of steel and heads unbowing,
Vowing never to be broken!
We will fight, until we can fight no more,
From the four proud provinces of Ireland!
Ireland, Ireland,
Together standing tall!
Shoulder to shoulder,
We'll answer Ireland's call!
Ireland, Ireland,
Together standing tall!
Shoulder to shoulder,
We'll answer Ireland's call!
We'll answer Ireland's call!

もしスタジアムでアイルランド戦を観戦される方がいれば,一緒に歌うとアイルランド人サポーターと肩を組めるかもしれませんよ?そんな交流もきっと楽しいと思いますので是非是非!!


End





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