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【道具】テンションは反発に影響しない

いまだに見かける「飛びすぎるならテンション上げれば」ってアドバイス。どうにか正しい理解を広めたい。

「テンション下げたから飛びすぎちゃって・・・」「固く張ったら飛ばなくってさ・・・」なんてのはよく聞くセリフだと思いませんか。これはほんとに昔から言われてきたセリフです。それこそボルグ対マッケンローの時代からそうです。「ボルグはガチガチに張っている。ラケットを置いておくだけで切れることもあるくらいだ。」「だからトップスピンがかかったんだね」「マッケンローはユルユルらしいよ。だからタッチショットがうまいんだね」ともっともらしい(けれど根拠のない)会話がそこここでなされていたことでしょう。え、そんな昔のプレイヤーの話をされたって困りますか。なら最近の話をしましょう。「錦織選手は40ポンド台らしいよ。よくコートに収まるね。」こんな会話もありますよね。ここでの皆さんの共通認識は、「硬い=飛ばない、ゆるい=飛ぶ」だと思います。ところが実験結果はそれと逆を示しています。

外山、桜井らは中京大学体育学論叢(2004)において、45・55・65ポンドのテンションのラケットにおける反発係数がほぼ変わらないことを示しています。つまり、反発力では説明がつかないということになります。
また別の話になりますが、川副らのシミュレーション(1995)によるとストリング変形量にはテンションによる差が見られています。もちろんテンションの低いほうがたわみが大きくなります。

これらのことからわかることは、ボールの飛びの印象における違いがストリング面の変形量の違いに由来するものであるという可能性です。では、上のイラストを見てください。

ボールが面のオフセンターで当たっています。面が平ら(左図)であるとボールはまっすぐ跳ね返りますが、面がくぼんでいる(右図)と打ち出される方向が内向きにずれてきます。つまり上に飛びます。これが「緩い張りだと、思っていたより飛ぶ」の理由だと思います。トップスピンを打つときはラケットが上方に振られているし、下寄りのオフセンターになることが多いです。そうすると、思っていたよりも上方向に飛んでいってしまいます。図はかなり極端に描いていますから、実際のところはもっとわずかな違いだとは思いますが。ヨネックスさんの最新vcoreシリーズのプロモーションでも同じ図を用いていますから、まあ使える説明ではないかと思います。
実は、ボールが離れる瞬間にはストリング面が平らに戻っているため、この説明は通らないのではないかと考え込んだ時もあったのですが、窪んでから平らに戻る時に働く応力(ストリングとボールとの接触点における垂直抗力)の向きは内向きになるので、この説明で大丈夫なはずです。

ちなみに上級者になるとオフセンターショットが減るので、このようにして生まれる誤差が少なくなります。したがって、マッケンローであっても錦織選手であっても、ユルユルラケットで問題ないのです。ゆるく張ったから飛びすぎるってことはないのです。ただただ感触や音の好みだけで選べばよいのです。さらにちょっと付け加えると、上級者はわざと面の下側でヒットします。なぜならこの方が上に打ち出せるのでトップスピンを掛けてもネットを越えやすくなるからです。(個人的な感想を付け足すなら、20ポンド台の超ユルユルでも丁寧に叩いたときはコートに収まりますよ。)

で、この話には続きがあって、ガチガチラケットで初心者が打つとネットを越えなかったりするのは、グリップが弱くて下側オフセンターで打ったときにラケットが下向いちゃうからです。グリップの緩い初心者はラケットが回ります。下半分に当たれば、ラケットが下を向きますし、上半分に当たれば上を向きます。硬いテンションは入射角反射角が素直に出ちゃうんでしょう。ゆるゆるガットだと、内側方向に跳ね返りますから、面のぐらつきを射出方向のズレが少しカバーしてくれます。ということで、弛く張るほうがお得ですよね。

上級者は面がコントロールできるし、ヒットする位置もコントロールできるし、スイングの方向もコントロールできるし・・・弛く張っても固く張っても良い球が打てちゃうわけです。あとは振動数の好みだけで選べば良いわけです。さすがですね。


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