修学旅行時に漫画を持ち込んだ話[0]

当時は高校生であった。

「漫画家になれたらな」という漠然とした思いを抱いていたが、今思えば世間知らずでのほほんと生きていた私は、表現者になるにはどのような行動を起こせばいいのか具体的に解らずに悶々とした日々を送りながら、とりあえず落描きをしたためていた。

"世間知らずでのほほんとしていた"というのはどういうことかというと、同級生達が芸能人や流行の歌に夢中になっていたり恋仲さん()ができたり、エロい雑誌を回し読みしてキャッキャウフフしていたりしていた中、どうにもそっち方面には関心が高まらず、絵や文を書いたり、アホな替え歌の詩を作って歌ったり、アルコール度数の低い酒をチビチビと飲んで独自レビューをノートに書いて満足していた幼い日々であった。

ん?

まぁ、家族や教師に意見したり授業をサボッたりするという反抗的な面もあったが、基本は真面目であった。

ある日、修学旅行の行き先が決まった。その中には東京が含まれていた。

ふと「その時に出版社に漫画を持ち込んでみよう」と思い立った。

持ち込み先はやっぱり大手だよなということで集英社に決めた。

当時、気が向いた時に購読していた少年誌に載っていた"持ち込み募集欄"から電話番号を調べ、家に誰もいない時を狙い電話をかけた。

その行動力はさすが10代という勢いで、我ながら感心する。ある意味怖い。

今思えば職業行動を起こしたのはあの時が初めててであった。

色んな人がいると思うが、自分にとって本土の大人というのは恐ろしいイメージがあり、しかも電話で沖縄から修学旅行時に持ち込みしたいなどという子供の話をマトモに聞いてくれるのかといった不安があった。

存外、スムーズに約束を取り付けることができた。

修学旅行の自由行動が設定された日時に合わせて編集者との面会が決まったのだ。

電話を切ってからもう既に達成感に包まれていたが、問題はいくつかあった。

まず、持ち込む漫画がまだ完成していない。

ギャグ漫画をコツコツ描いていたのだが、生来飽きっぽく面倒臭がり屋であるため、好きなシーンばかり描き込み、下書き状態とペン入れまで済ませた部分とで大きな差がある状態であった。

そんなんで漫画家になれると思うのかクソガキ!という叱咤を当時の自分に飛ばしたくなるが、そこは万能感あふれる10代なので、何とかなるだろうという謎の自信の元に、引続きだらだら描き進めていた。

もう一つの問題は予想外であった。修学旅行の自由行動時間は、ソロ行動は許されていなかったということだ。

自由行動=一人で好き放題

という価値観であった私は、"自由時間"と称していながらグループ行動を強いられるとは予想外であった。

そんなん適当にグループ計画を提出して現場で離脱すればいいものを、馬鹿正直であった私は、「ソロ行動をしたい」ということを教師に相談してしまったのだ。

当然、教師は難色を示した。目的を問われた。

言えやしない。

羞恥心か自尊心なのか解らないが、子供が修学旅行を利用して漫画を持ち込むという計画は無謀なのではないかという自覚があったのだ。

目的地の最寄り駅だけは吐いたが、目的については頑なに詳細は言わず、とにかく「人と会わねばならない」で貫いた。当たり前に相手を問われたが、知人だと貫いて、とにかく大事な用事なのだと訴えた。

もしかしたら、その時私はただならぬ様子を放っていて、教師側も折れざるを得なかったのかもしれない。

結局、修学旅行担当の教師が1人最寄り駅まで引率して、私の用事が終わるまで近場で待機するという条件でソロ行動が許された。

今思えば非常に運がいい。令和の今なら許されないかもしれない。とにかくラッキーであった。

とにかく、一つのハードルはクリアしたのだ!

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