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引退競走馬のこと①【Rika's Subject】

––––可愛くてかっこよくて面白くて、変。

私の馬への印象だ。
ある日いつものようにボーッとYouTubeを観ていたら、馬の動画をおすすめされた。そのコメント欄には「ゴルシ」という言葉がいくつも並んでいた。彼が「ゴールドシップ」という名の破天荒な走りとそのキャラクターで大変な人気を博した芦毛の元競走馬であることを、私は初めて知った。

黙っていれば美人。だけどしばしば変顔もする。競馬でノった時は目茶苦茶に速い。でも走るか走らないかは彼の気分次第––––。
「ゴールドシップ 伝説」と検索をすれば、枚挙にいとまがない。
ゴールドシップを通じて私は、「馬とは、こんなにもいろいろな表情をして感情を表す面白い動物なのだな」と知ったのだった。

関連動画をいくつも漁っていくうちに、私は引退した競走馬の現実を知ることとなる。毎年7,000頭ほどのサラブレッドが産まれ、同じくらいの数のサラブレッドが引退し、引き取り手が無く殺処分されるという。馬の寿命は30歳ほどだが競馬で勝てなかったり怪我をしたりすると早ければ3歳で引退。その後、運良く種馬や繁殖牝馬になっても、その子どもが結果を出せなければ殺処分となってしまう。飼育には費用も広い場所も人手も必要で、終生飼育は簡単ではない。それゆえ、寿命を全うできるサラブレッドは1%ともいわれている。

私は子どもの頃からずっと動物好きだが、馬は特に好きでも嫌いでもなかった。競馬中継を観たことも無かったし、知っている騎手は武豊だけ。競馬場に行ったのは20年位前に1回。当時付き合っていた人に大井競馬場に連れて行かれたが、タバコ臭い場内が嫌でたまらず、馬券も買わずレースもろくに見ずにさっさと帰った記憶がある。その他は、神社で流鏑馬用に飼われていた馬をチラッと見たくらいだ。

そんな私が今、引退馬支援をしている。具体的には、毎月数千円ずつを3つの引退馬支援団体に寄付し、本当にささやかだけれども引退馬の馬生を支えている。

いずれは引退馬のオーナーになるのが夢だ。
オーナーになるにはまず馬を購入する。今の自宅では飼えないので、毎月10万円程の預託料を払って牧場に預ける。蹄の手入れや定期健診・歯科検診も必要で、それは別料金。寒い時期は馬用の服も着せてやらないといけない。終生面倒をみるなら2,000万円はゆうに掛かる。

夢なんて持ってこなかった人生だった。
転職活動でエージェントに「5年後、10年後どうなっていたいですか?」と聞かれても全くピンと来ず、口癖は「寝て起きたら死ぬ前の日になっていないかな」「早く星に帰りたい」だった。生きるのがひたすら面倒くさかった。苦しくない方法で早く人生を終えたかった。

仕事も3年周期で辞めていた。「この仕事で食っていくんだ」という覚悟も定まらず、自分が何に向いていて何をしたいのか、全くわからなかった。異業種に転職を繰り返すからキャリアも積みあがらないし、お金も貯まらない。カウンセリングや体のメンテナンスが不可欠な体だったから、お金は貯まるどころかむしろ出ていった。

ある出会いがきっかけで、「ITの仕事で食っていく」と決めたのは2年前。40歳を過ぎていた。その後まもなく会社を辞めてフリーランスになった。



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