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小崎哲哉「現代アートとは何か」

「見たままに感じ取れ」への疑問
「あなたが見たままに感じ取ればいいのです。正解などないのです」
これが現代アートを見る手法としてよく聞かれる言葉だ
本当にそうだろうか?
正解などなく自分の感じたままに見ることで満足していいのだろうか?
小崎哲哉著「現代アートとは何か」が現代アートに対する疑問を解決する視座を与えてくれる
見た目の分厚さとは裏腹にアートカルチャーの最前線を取材してきた著者による膨大な現代アート情報の交通整理が発揮された渾身の一作

昨今の教養ブームに連動した美術館ブームによりTV・ラジオのマスメディアで芸術解説を見かける機会が増えた
そういった解説の中でも芸人、タレントによる解説ではよくマルセルデュシャン「泉」が例に取られる
デュシャン「泉」は解釈の難しい作品だ
何故ならただ便器が展示されているだけの作品だからだ
現代芸術の象徴として扱われるが、「さぁこれをあなたの解釈で自由に判断してくさい」と言われても困惑する
本書でも紙幅を割きデュシャンをエポックな存在として扱っている

表紙
本書の特筆すべき点は芸術的観点だけでなく過熱するアートマーケットに触れている点だ
現代アートはもはや投機対象だ
表紙の頭蓋骨を展示した作品にガンドゥーラ姿の男性やブルカを纏った女性記者たちが望遠レンズを構えているインパクトある1枚は2013年-2014年にドーハで開催されたダミアン・ハースト回顧展の1カットだ
第一章では中東の潤沢なオイルマネーをバックに王家、ヨーロッパの名家、スーパーコレクターたちが数百億単位の金を注ぎ込みアート作品を取り引き、いや奪い合いといえる現状から始まる

絵画と体験
本書を読み終えて思うことは現代アートが難解とされている理由は空間的拡張を伴うことにあると考えた
近年ではTeamLab「ボーダレス」(2022年まで開催)、デザイナー山本耀司と編集工学松岡正剛による「画と機」(2016年-2017年)、本書でも取り上げられている池田亮司など絵画の平面的二次元的ではなく体験を伴う空間的かつ立体的な作品が増えている
第五章「オーディエンス」でも著者によりアート作品を”見た”際に一次的で反射的な知覚-”感じる”に対し、二次的で感情的”認知”と整理されて記述がされている
作品を目にし認知まで要求された場合、芸術に対する基礎的知識が無い
あったとしても考える材料が無い
本書は考える視座を提供するという点で画期の書だ


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