残り10秒の電子レンジ

今日も仕事でくたびれてベッドにもたれかかる。
誰からも連絡の来ない携帯を眺めて、孤独を感じながらぼーっとYouTubeやInstagramを眺める。出てくるのは会った事も喋ったこともない人たち。ふだん会ったり喋ったりしている人からの連絡はひとつも来ない。一つ新着メッセージの通知が入っても、それは公式アカウントによるものだ。

ふと、顔を上げた。
目線の先には電子レンジが残り10秒の表記のままで止まっていた。残り10秒残ったまま電子レンジの扉を開けて中身を取り出してから、本体をリセットしていなかったのだろう。だが、いつ何を温めて残り10秒のままになったのかが思い出せない。

そもそもここしばらく電子レンジを使っただろうか?最近は毎日仕事で家に帰るのが遅く、料理をする体力も気力も残っていないのでもっぱらコンビニ弁当ばかり食べていたはずだ。しかもコンビニ弁当は毎回店で温めてもらっている。温まるのを待つ間、店員と自分と二人だけの気まずい沈黙を私はしっかりと覚えている。だからここ最近使ってはいないはずだ。

そうなると、朝だろうか。
そして思い当たった。朝食の時に冷蔵庫にストックしていた白米を温めるのに使ったのではないだろうかと。700W60秒、一人暮らしを続ける中で見つけたこれぞと言った数字。だがその時に限っては、自分を裏切ってみたくなったのかはたまたタイミングがよかったのかわからないが、10秒を残したままレンジの扉を開けることを選んだのだろう。

目まぐるしく進んでいく時計の針。世界は気がつけば疫病、侵略戦争といった騒乱の最中にある。また、自身も毎日仕事に追われ、家に帰っても何もやる気が起きず、ただ孤独を噛み締める毎晩だ。そんな世界の中で、残り10秒の電子レンジだけは、今なお時間が減らずにいる。まるでその日の時間を冷凍保存しているかのように。

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