うろおぼえ【エッセイ】
「あんたが小学生のとき仲良かった、あのこ。なんて名前だっけ。ほら、近くのアパートに住んでた女の子」
母に聞かれて、咄嗟に答えがでなかった。
彼女の顔も声も、好んで着ていた服も、手紙に書かれていた癖字だって、はっきりと記憶に残っているのに。
古びたアパートへ毎朝迎えに行って一緒に登校していた、あのこ。
扉の向こうから聞こえるあのこの泣き声を残して、ひとりで学校へ向かう日もあった。そんな時、あのこのお母さんはいつも「うちの子と友達でいてくれて、ありがとね」と申し訳なさそうに言