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現政権が掲げる「スタートアップの徹底支援」ってどういうこと?足元で議論が進む方針を総ざらい!

2021年10月、岸田文雄氏が第100代首相に指名され、新たな政権が誕生しました。岸田氏は「スタートアップの徹底支援」を掲げ、これまでの安倍・菅政権の流れを受け継ぎ、スタートアップの創出・成長のための環境整備をさらに強化することを謳っています。今回は、岸田政権の「スタートアップの支援」の内容について、どのような議論が進んでいるのかを俯瞰していきたいと思います。

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1. 岸田政権の政策基盤: 「新しい資本主義」の実現

スタートアップ関連の方針を見る前に、岸田政権の政策基盤となる考え方を押さえておきましょう。岸田政権が日本経済再生の要としているのは、「新しい資本主義」の実現です。格差や貧困の拡大、中長期投資の不足、持続可能性の喪失、都市と地方の格差、気候変動問題など、現在までに生じている様々な歪みを、「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現によって是正したいと述べています。鍵は、分配の原資を稼ぐ「成長」と、次の成長につながる「分配」を同時に進めることです。

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「成長戦略」としては、①科学技術立国の実現、②「デジタル田園都市国家構想」による地方活性化、③経済安全保障の推進、④人生百年時代の不安解消の4本柱を掲げ、官民が協働しながら大胆な投資を実施するとしています。また、「分配戦略」としては、①働く人への分配機能の強化、②中間層の拡大と少子化対策、③公的価格の見直し、④財政単年度主義の弊害是正を取り上げ、成長の果実を分配し、消費や投資を喚起することで次の成長につなげるとしています。それぞれの政策項目は、安倍・菅政権が掲げた内容を踏襲したものが大半となっていますが、より具体的な「新しい資本主義」のグランドデザインと実行計画は、2022年春に発表される見込みです。(なお、成長政策と分配戦略の内容について、首相官邸ホームページ、内閣総理大臣施政方針演説で政策の発表順や内容の区分などが若干異なっています。)

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2. 「新しい資本主義実現会議」の緊急提言

「新しい資本主義」のグランドデザインや実行計画を議論するために、閣僚に加え経済界やスタートアップの有識者が参加する「新しい資本主義実現会議」が設置されました。IT企業やスタートアップの経営者、ベンチャーキャピタリストが参画し、また、女性メンバーがほぼ半数を占めています。この会議体は昨年末に「緊急提言(案)~未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて~  」を発表しました。成長と分配の好循環の起爆剤として、まずは成長の実現が重要であると述べ、①科学技術立国の推進、②スタートアップの徹底支援、③デジタル田園都市国家構想の起動、④経済安全保障の推進という4つの成長戦略を提案しています。なお、これらの内容は、2021年6月に菅政権下で策定された成長戦略実行計画の内容を概ね引き継いでいます。(提言案には分配戦略についても記載がありますが、今回のnoteでは省略します。)

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3. 提案された「スタートアップの徹底支援」とは?

「スタートアップの徹底支援」の章では、①要素技術の製品化・サービス化の促進、②付加価値の高い新製品・新サービスの創出の促進、③スタートアップを生み出し、規模を拡大する環境の整備、④IPOプロセス及びSPAC制度の検討、⑤大企業とのオープンイノベーションの支援、⑥公正な競争を進めるための競争政策の強化、⑦デジタル広告市場の透明化・公正化の推進といった方針を挙げています。いくつかの方針について、議論中の内容を見ていきましょう。

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4. 「スタートアップの徹底支援」: 新規株公開のプロセスの検討

まず、新規株公開(IPO)プロセスの検討についてです。国内のIPOにおいて、諸外国と比べて公開価格が初値を大きく上回る傾向にあり、IPOによる起業家の資金調達額が少なくなっていることが課題として議論されてきました。提言では、公開価格の設定プロセスについて公正取引委員会が実態把握を進めること、また、日本証券業協会においてより実需を反映した公開価格設定のあり方や、発行体スタートアップの意向に沿った株式の配分のあり方などについても検討を進めることが記載されています。2021年12月にプロセス改善の骨子案が発表されており、規則改正は2022年度中に実施する方向です。

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5. 「スタートアップの徹底支援」: SPAC制度の導入是非

また、21年の米国株式市場を大きく賑わせたSPAC制度についても、日本取引所グループの中に研究会を設置し、その導入の是非について議論が進んでいます。想定されるSPAC上場制度の意義として、特に宇宙・素材・ヘルスケア・エネルギー・ロボティクス・グリーンなど、一般的に企業価値の算定が困難(IPOが困難)で、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ・ファンドにとどまらない大規模な資金需要を持つスタートアップにとって、「価格発見機能」と「充分な規模の資金供給」が期待できるとしています。一層の支援強化が掲げられている研究開発型スタートアップに対して、出口機会の創出を制度面からも支えるという趣旨もあるのではと考えられます。

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6. 「スタートアップの徹底支援」: 大企業とのオープンイノベーションの促進

大企業とスタートアップのオープンイノベーションの促進についても、税制面や人材マッチングの支援が継続されます。安倍政権下の2020年4月に導入された「オープンイノベーション税制」は、事業会社やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)からスタートアップへの投資を促すことを目的に創設された税制優遇制度です。2022年3月までの予定でしたが、要件を緩和した上で24年3月までの延長が決定しました。オープンイノベーション税制」は、事業会社による足元の旺盛な投資意欲を底上げする効果があると見られています。

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7. 「スタートアップの徹底支援」: 公正かつ適正な取引のための環境整備

スタートアップとの事業連携やスタートアップへの投資の促進と同時に、その取引が公正かつ適正であるためのガイドラインの策定を進め、スタートアップが成長しやすい環境を整備しています。2022年12月に公表された「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(案)」では、公正取引委員会の実態調査で明らかとなった問題について、公正取引委員会が独占禁止法上の考え方及び問題となりうる事例を挙げ、経産省が解決の方向性等を示しています。パブリックコメントの募集を経て、今年春に決定する予定です。

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8. 「スタートアップの徹底支援」: デジタル広告市場の競争環境の整備

デジタル市場における競争環境の整備について、デジタルプラットフォーム運営事業者と利用事業者間の取引の透明性と公正性の確保のために必要な措置を講じる「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が、2021年2月に施行され、総合物販オンラインモールやアプリストアが規制対象となっています。年間2兆円以上の規模を誇るデジタル広告市場についても、プラットフォーム事業者の一方的なルール変更や、広告の閲覧費の水増しによる広告費の虚偽請求など様々な課題が指摘されているとし、同法の対象にデジタル広告市場を追加し、透明化・公正化を促すとしています。

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9. その他の成長戦略の概要

「スタートアップの徹底支援」にある通り、スタートアップの創出・成長発展のため、ここで見てきたような上場環境の整備、大企業とスタートアップとのオープンイノベーションの促進、競争環境の整備だけでなく、挑戦が奨励される社会環境の整備、 兼業・副業の促進等による人材の流動化、スタートアップからの政府調達の制度運用などを総合的に進めるとしています。また、「スタートアップの徹底支援」以外の成長戦略として取り上げられた「科学技術立国の推進」、「「デジタル都市国家構想」の起動」、「経済安全保障」のそれぞれについても、スタートアップに関する投資活動や事業運営に影響を与えそうなトピックが多く記載されているため、このnoteではあまり触れませんが、一読されることをお勧めします。

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10. まとめ

イノベーションの担い手であり、新たなビジネスや産業の創出するスタートアップを支援することは、政権の掲げる成長戦略が成功するための要です。「スタートアップの徹底支援」のために進んでいる環境整備に向けたそれぞれの方針について、推進派や慎重派から様々な意見が出されている最中であり、どのような形で着地するかについてはもう少し見守る必要がありそうです。日本の現在や将来において、スタートアップによるイノベーションの花が美しく咲き誇るために、より良い環境が整っていくことを切に願いつつ…これらの政府方針の概要を把握することで、スタートアップ業界の皆さまの事業推進や戦略立案における少しのヒントになれば幸いです。

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