フロイドのファンから嫌がらせされてるリドルの話

 顔がちょっと可愛いだけで性格は暴君で最悪だし、魔法が使えなかったら弱いのに何であんな奴のことが良いのか分からない。そんなのおかしい。騙されてるんだとしか思えない。自由で自分勝手に見えるけどフロイドくんは本当は優しいから。そうだ。そうに決まっている。
 リドルと変わらぬ身長に黒目がちの瞳。決して派手ではないが可愛らしい外見をしたリアムは、オクタヴィネルの寮生でフロイドと同じクラスであるだけでなく同じ人魚だ。
 リアムは入学式で人目を引く外見とオーラを持ったフロイドに一目惚れをして、同じオクタヴィネルの寮生になったことにより更にその気持ちが強くなった。そんなリアムにとって別の寮でクラスも部活も違うというのにフロイドの側によくいるリドルは、邪魔な存在であった。
 どうしたらフロイドくんの目が覚めてくれるのだろうか。悪い魔女に魔法を彼は掛けられているので、『真実の愛』である自分の気持ちによりきっと助けてあげることができる筈だ。
 フロイドと話をしようとリアムは図書室までやって来た。図書室になんてフロイドは普段は行かない。しかし、何か用があって図書室に行っているようだ。放課後、兄弟であるジェイドに図書室に行くということを言っているのを聞いた。
 決して盗み聞きした訳ではない。フロイドの声が大きかったので聞こえて来ただけだ。
 図書室に行く生徒なんて滅多にいない。図書室に行くと誰もいない事が多い。それは、フロイドと二人きりになれる可能性が高いということだ。
 オクタヴィネルでは寮長のアズールが経営しているモストロ・ラウンジで働くのが義務だ。だからリアムもモストロ・ラウンジで働いているが、常にフロイドの周りには誰かいるのでなかなか二人きりになることはできない。教室でもそうだ。
 緊張してきた。自分ではそんな風には思わないのだが、同じ寮生から可愛いと言われ告白をされたことが何度かある。だからきっと大丈夫だ。自己評価が低いところが自分のダメなところだ。フロイドと付き合う事ができれば、そんな自分の事を少しは認めてあげる事ができそうだ。
 覚悟を決めてドアを開くと、中から言い争うような声が聞こえて来る。
「いい加減ボクに付き纏うのは止めてくれないかい! そのせいで、キミのファンが色々ボクに言ってくるんだぞ」
「そんなん無視したら良いじゃん」
「無視できる筈がないだろ!」
「金魚ちゃん真面目だもんね」
「茶化すんじゃない! 真面目な話をしてるんだ。キミのファンのせいでどれだけボクが迷惑してると思ってるんだ。ボクに金輪際付き纏うのは止めてくれ!」
 ヒステリックな声でそう言ってリドルはフロイドの元を離れようとする。図書室で言い争っていたのは、リアムが逢いにやって来たフロイドと一番会いたくない相手であるリドルであった。
 フロイドに酷いことを言うリドルに腹が立つただけでなく、そんな事を言われたフロイドが可愛そうになる。自分ならばそんなことは絶対に言わない。なんて自分勝手で酷い男なんだ。やはり魔法が強い以外に何も良いところがない。性格が悪いせいで顔も可愛く見えなくなる。
「やーだ」
「離してくれ! 何をするんだ!」
 リドルの腕を掴み行手を阻んだフロイドは、体格差を利用して彼の体を図書室に並んでいる机の一つに無理矢理寝かせた。そして、暴れているリドルの口を塞ぐ。
 フロイドの口を離したリドルが大きな声を出す。
「嫌がらせをするのは止めてくれないか!」
 リドルの声は図書室の外にまで聞こえてしまいそうなものであった。
「嫌がらせじゃねーし。オレは本気なんだよ。オレは本気で金魚ちゃんが好きなの。他の雑魚なんてどーでもいーの」
 他の雑魚というのに自分も含まれているのだということにリアムは気付く。違う。自分は他の雑魚とは違う。リドルを呼び出して何か言ったりしていない。それに、自分の気持ちこそが真実の愛であるのだからそんな筈はない。
「フロイドッ! 止めろ……っ。フロイドッ! あっ……んっ」
 フロイドに弱い部分を触られリドルの甘い声が聞こえて来た。フロイドがリドルを無理矢理ここで抱こうとしているのだという事が分かったのだが、それを認める事ができない。フロイドがそんなことをする筈がない。これは何かの間違いだ。
 瞬きを忘れて二人の姿を見ていると、不意にフロイドと目が合う。そして、フロイドはリアムを見ながら口を動かす。
『邪魔すんな』
 口パクであったが、そう彼が言ったのだという事が分かった。自分がフロイドにとって邪魔ものであるのだということをそれから察した事により、恥辱によって全身が熱くなる。
 目を大きく見開いたリアムは、拳を握りしめると先程までよりもリドルの甘い声が大きくなっている図書室のドアを閉める。そして、逃げるようにして図書室を離れた。



「どいつもこいつも金魚ちゃんに勝てる筈ねーじゃん」
「フロイド……?」
 何故急にフロイドがそんな事を言ったのかという事が分からずリドルが困惑した面持ちになっている。そんなリドルの台詞に対して小さく笑うと、フロイドは動かすのを止めていた手を動かし始める。
「フロイドッ……止めろっ……あっ……」
「気持ちいーね」
「違う……違う……ッ」
 リドルの抵抗の声は直ぐに小さくなった。

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