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【時事通信】コラム 🔥潔く学歴の真相を語るべき!👩小池知事とヒラリー: ガラスの天井に挑んだ女性たち🥎元朝日新聞記者 飯竹恒一【語学屋の暦】

【写真説明】【左】定例記者会見に臨む東京都の小池百合子知事=4月12日、東京都庁(オンラインで撮影:飯竹恒一)【右】ヒラリー・クリントン元米国務長官(米国務省ウェブサイトより)https://history.state.gov/departmenthistory/people/clinton-hillary-rodham

この記事は下記の時事通信社Janet(一般非公開のニュースサイト)に2024年4月26日に掲載された記事を転載するものです。

この人が日本を代表して世界に知れ渡る女性だとすると、この国で生まれ育った者として、いささか複雑な心境になる。学歴詐称疑惑が再燃している首都・東京の小池百合子知事(71)のことだ。

確かに、世界の注目度は抜群だ。米経済誌「フォーブス」の「世界で最も影響力がある女性100人」に繰り返し選ばれており、知事再選を果たした2020年には、100人のうち「政治・政策部門」に絞ったランキングで16位だった。1位だったドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)(69)や2位でフランス出身のクリスティーヌ・ラガルド欧州中央銀行総裁(68)らには遠く及ばないが、18位のデンマークのメッテ・フレデリクセン首相(46)よりは上位だった。


いよいよ日本にも、初の女性首相が誕生するかもしれないという空気が世界の有力メディアにも広がり、それが小池氏のランキング入りの背景にあったことは間違いないだろう。

それが目下、日本中で改めて大騒ぎになっているのが、「カイロ大学卒業」という看板が本当なのかという疑惑だ。学業の実態やアラビア語の実力はさておき、大学側が最終的に認定しているのならば、卒業と胸を張っても差し支えないだろうというのが小池氏の言い分のようだ。

しかし、カイロ時代の同居人の女性や、かつての側近で元官僚の弁護士がそれぞれ実名で疑惑を告発している。特に、この弁護士は最近、2020年に公表された小池氏の卒業を裏付ける内容のカイロ大学長名の声明文について、知事側で作成した可能性があると主張し、自身がこの件で小池氏とやりとりしたとするメールの写しも公表している。

これだけの指摘があれば、政治家としての説明責任はあるだろう。しかし、小池氏はこうした経緯について「あまり鮮明に覚えていない」と、私もオンラインで視聴した記者会見で言葉を濁した。これでは、自民党安倍派だった世耕弘成・前参院幹事長が同派パーティー収入の不記載の経緯について参院政治倫理審査会で「記憶にない」を連発したのと同じだ。そんな人物に国政のトップの座を委ねることができるだろうか。

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ヒラリー・クリントン元米国務長官(米国務省ウェブサイトより)https://history.state.gov/departmenthistory/people/clinton-hillary-rodham

小池氏は海外メディアの中で、大統領夫人、上院議員、国務長官と華麗なキャリアを歩んだヒラリー・クリントン元米国務長官(76)と、何かと比較されてきた。クリントン氏が口にした「ガラスの天井」(グラスシーリング=glass ceiling)を、日本において破る役回りが盛んに指摘された。

小池氏自身、2016年8月、知事初当選後の初の定例会見で「私は、『グラスシーリング』という言葉をヒラリーさんがお使いになって、この言葉はよくアメリカなどでも世界でも使われる言葉、つまり、女性がこう頭を出そうとすると、ゴツンとぶつかるのがガラスの天井ということでございますが、かつてはそれを問われたときに私は『アイアンシーリング』と。『ガラスどころか、鉄鋼だ』と申し上げたことがございます」と発言している。

私が注目したのは、自民党衆院議員時代の2013年1月末、「ヒラリー、今はさらばと言おう」(Farewell Hillary, For Now)と題する英文を、国際NPO「プロジェクト・シンジケート」のウェブサイトに寄稿したことだ。国務長官を退任する直前のクリントン氏について、大統領選への立候補を熱く期待する内容だ。こんなくだりがある。(いずれも仮訳)

「最後に、クリントン氏には、あまり注目されていないが、実際には長期にわたって重要な取り組みもあった点に触れたい。男女平等の主張を、政権内だけでなく、とりわけ外交の現場でも展開したのである」(Finally, less noted but of real long-term consequence, Clinton made the cause of gender equality - and not only in the halls of power - a special focus of her diplomacy.)

「クリントン氏がそうした変化をもたらすのに尽くしたのは、自身(そして私)のような女性たちだけのためではなく、いっそう重要なことだが、世界の貧しく、選挙の権利を奪われ、沈黙させられた女性たちのためでもあったのだ」(Clinton has helped to bring about such change, not only for women like her (and me), but, more important, for the world’s poor, disenfranchised, and silenced women.)

小池氏は2008年9月の自民党総裁選に立候補したものの、麻生太郎氏の当選を許した。女性の自民党総裁選への立候補は史上初だったが、クリントン氏を手本に、自らを再挑戦に鼓舞する心境だったのかもしれない。

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もっとも、それでは女性たちの全面的な支持を得ていたかというと、そうでもないようだ。実際、小池知事が立ち上げた「都民ファーストの会」からは、女性都議たちが次々と去っていった。学歴詐称疑惑について一貫して追及してきた上田令子都議(58)もその一人で、カイロ大学卒業という看板は「強みであり、アキレス腱である」と最近のオンラインの番組で話した。

そもそも、小池氏が本当に女性の地位向上のために心から活動してきたのかどうか、疑問を投げかける指摘が海外メディアにもあった。例えば、米誌「フォーリン・ポリシー」は2016年の知事初当選直後、「日本の消極的なフェミニスト」(Japan’s Reluctant Feminist)という意味深なタイトルの女性記者による記事を掲載した。女性の地位向上に尽くす意欲を示す小池氏の言動を紹介する一方で、「アジア最大の都市のタカ派の新知事にとって、女性の地位向上のために戦うことは天職ではなく、必要だった」(For the hawkish new governor of Asia’s biggest city, fighting for female empowerment was a necessity, not a calling.)と切り出している。さらに、次のようなくだりがある。

「日本人の誰もが小池氏を尊敬しているわけではない。日本の政界の一部では、小池氏は他の女性政治家たちとの競争に躍起で、自身の出世のために他の女性を踏みにじる一方、男性の有力者と手を組むのに懸命だとみられている」 (Not everyone in Japan admires her. In some political circles in Tokyo, Koike is viewed as actively competing with other female politicians, striving to align herself with powerful men while stepping on other women to get ahead.)

辛辣(しんらつ)だったのは、2020年のドイツの放送局ドイチェ・ヴェレの英語版だ。当時浮上した学歴詐称疑惑が小池氏再選の妨げにならなかったとしつつ、初当選の際に掲げたさまざまな公約が実現していない点を指摘している。ただ、新型コロナウイルス感染症の対策では一定の存在感を見せていたことを踏まえ、次のような皮肉めいた指摘をした。

「つまり、コロナの世界的流行は、小池氏にとって都合の良い時期にやってきたのだ。有権者は、小池氏が公約を実現できなかった点を批判するより、(コロナ対策における)果断な行動を評価したのだ」(So the coronavirus pandemic came at the right time for Koike. Voters preferred to reward her for her decisive action rather than punish her for what she has failed to do.)

「ほとんどの日本の政治家とは対照的に、小池氏はこれまで特定の政党に忠誠を尽くしたことはなく、『渡り鳥』や、さまざまな種類の寿司を運ぶベルトコンベアにちなんだ『マダム回転寿司』というあだ名がついた」(In contrast with most Japanese politicians, Koike has not remained loyal to one party in the past and has earned the nicknames "Migratory bird" and "Madame Kaiten Sushi," after the conveyer belt that carries different sushi dishes around a restaurant.)

思うに、学歴の問題を取り上げるまでもなく、日本新党を率いる細川護熙氏、続いて新進党の小沢一郎氏の下で行動し、さらには自民党に戻って小泉純一郎内閣で環境相に就任した末、自民党と対決する形で東京都知事選に打って出た経歴は、海外メディアの記者たちにも奇異に映ったに違いない。自身に有利に働くよう巧みに手を打つ生き様は、見抜かれていたのだろう。カイロ大学卒業という肩書は、その原点に位置付けられると思う。

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ところで、クリントン氏は2016年の米大統領選でドナルド・トランプ氏に敗れた。エリート臭が鼻につくというイメージから、私も必ずしも好感を持っていなかったが、涙をこらえて支持者の前で行った敗北宣言の演説だけは、心にぐっと響いた。次のくだりが記憶に残る。

「私たちはまだ、あの極めて高くて固い『ガラスの天井』を打ち砕くことができていない。しかし、きっと誰かが、いつの日か、今思うよりも早く、かなえてくれることだろう」(Now, I - I know - I know we have still not shattered that highest and hardest glass ceiling, but some day someone will and hopefully sooner than we might think right now.)

「それから、今この演説を聞いているすべての女の子たちへ、みなさんは価値があって、力も持ち合わせいて、自分の夢を追い掛け、実現させるのに、この世界でありとあらゆるチャンスに挑むのにふさわしいということを、疑ってはいけない」(And - and to all the little girls who are watching this, never doubt that you are valuable and powerful and deserving of every chance and opportunity in the world to pursue and achieve your own dreams.)

小池氏は7月の都知事選で3選を目指すのか、また、解散総選挙のタイミングによっては国政復帰を目指すのか、学歴詐称で刑事告発される可能性もはらみながら、次の一手を模索しているといわれる。4月21日の目黒区長選に続き、28日の衆院東京15区補選でも、自身が推す候補の応援に奔走している。その姿は、世界を駆け巡ったイメージからはほど遠く、私の目には痛々しく映る。

学歴詐称疑惑は、石油の貿易商だった父親がエジプト政府とパイプを持っていたのを受け、小池氏自身も閣僚経験を経て人脈をさらに深めてきたことも背景にあると言われる。もとより、政治は冷徹・冷酷なものだが、ここは、そうした背景も含め、真相を正直に国民に説明することが、政治家として、人間として取るべき道ではないか。クリントン氏の敗北宣言に勝るとも劣らない率直な言葉を心の底から発すれば、小池氏を見る目は一変するだろう。それが仮に、小池氏の政治生命を終わらせることになっても。

飯竹恒一(いいたけ・こういち)
フリーランス通訳者・翻訳者
朝日新聞社でパリ勤務など国際報道に携わり、英字版の取材記者やデスクも務めた。東京に加え、 岡山、秋田、長野、滋賀でも勤務。その経験を早期退職後、通訳や翻訳に生かしている。全国通訳案内士(英語・フランス語)。


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